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Dark plant  作者: 神崎ミア
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第十章 追憶

誰かのの正体が明らかに…なったりならなかったりの記念すべき十章目。もう七十話にもなりましたが、まだもう少し続くようです。


 遠い昔、ある一つの約束をした。約束を持ちかけた当の本人はすっかり忘れてしまっているかもしれないが、俺は一目見た時からお前だと知っていて、それから別れた時、俺が言った言葉と、

お前が言った約束を思い出していた。それは矛盾しあった約束で、俺は今もどちらも守れないでいる。

ただ、これだけが全てと、お前に尽くすのみだ。



                                ある男の日記から



 ロイルは、エレベーターでランガーの部屋を目指していた。

ドーナは活動的なロイルにいい顔をしてくれなかったが、ランガーに会ったら必ず休息するという約束をして、ロイルはランガーの部屋をノックしていた。

暫くしても返事がない為、ロイルは勝手に室内に入った。


「ランガー?マリア?」


しかしどちらの返事もない。出かけているのか。そう思って出て行こうとした時、

ただ肩に引っ掛けていたロイルの軍服の袖が積み上がった本に触れた。それだけの衝撃であっいう間に倒れてしまった本の山をロイルはうんざりと見つめ、嫌々とそれらを拾い始めた。

埃が蓄積して触るのも嫌だったが、このことで小言をランガーから食らうほうがよっぽど最悪だと、黙々作業を続ける。最後の一冊。本当ならば一番下においてあったろう本を重ねた時、

中から一枚の写真がはらりと宙を舞った。


(これは…マリアの写真か…?)


セピア色の随分古しい写真を手に取り、写った人物を見つめる。明るいウエーブがかかった髪に優しげな笑顔。何やら指には指輪をはめているらしく、それを見せるように左手を掲げていた。


(…違うな。マリアは黒髪だからな…。だが、顔がそっくりだ…誰だ、こいつは)


じっと食い入るように写真を見ていると、背後からぴっ、と素早く写真を取られて

ロイルは振り返った。ロイルの背後に居たのは言うまでもなくランガーで、不機嫌であるのは一目瞭然だった。


「私の部屋で何をしている、ゴミ粒」

「…お前に話があったんだ、ランガー」

「…だが、私にはない。さっさと出て行け」


写真を元入っていた本の間に滑り込ませると、そのままランガーは机へと向かった。

ムッとしてお望み通り出て行こうかとも思ったロイルだったが、大事な用だった為、

机へ向かってツカツカと歩いて行き、両手をついてランガーを睨んだ。


「は、な、し、が、あ、る」

「…何だ鬱陶しい、居なくなって清々していた所をのこのこ帰ってきやがって」


しっしっと犬を追い払うような手つきで手のひらを振ったランガーを睨みつけたまま、ロイルはランガーの机に足を組んで座り、ランガーに背を向けた。


「僕の過去を、お前、知っているだろう?」

「何のことだ?ゴミ粒と記憶を共有して何になる?馬鹿も休み休み言え、脳細胞が全て死んでるんじゃないか、お前は」

「チッ、いちいち苛立たせる奴だな、お前…」


ロイルは振り返ってシラッとした顔をしたランガーを殴りたい衝動に駆られたが、

ぐっと拳を握って再び腕と足を組む。


「じゃあ、僕と同じ顔をした奴、知ってるか?」


ランガーの指先がほんのわずかにぴくりと動いた。背中を向けていたロイルが知るはずもないが、

たとえ正面を向いていてもそれほど気づかないような変化だった。


「知らんな。お前と同じ顔なんて嫌ほど覚えているだろうにな」

「…お前、何を隠しているんだ…?」


ロイルはランガーを見下ろした。眉一つ動かさず、いつも通りの無表情を決め込んだランガーはだらしなく机に腰掛けるロイルの背中をたしなめる様に叩いた。


「降りろ、机が汚れる」

「…じゃあ話を変える。あの写真の女…、誰だ?」


ガタン、と椅子を倒して、ランガーが立ち上がった。

突然態度が変わったランガーに些か驚いたロイルは、そのランガーの顔を覗き込んだ。

先ほどまでのポーカーフェイスは何処に落としたのか、焦ったような顔して声を荒げた。


「出て行け、俺はお前に話すことなんてない」

「フン、おかしな奴」


ロイルは机から降りて、出口へ向かった。

話していても一向に進まないのは明白であったし、ランガーを怒らせてしまった以上、それなりに居づらかった。部屋を出るとき、ふと振り返ったランガーが、眼帯をしきりに触っているのを視界の端で捉えて、ロイルは小さな声で呟いた。


「何か地雷を踏むと、お前すぐそこ触るよな…」


そしてドアを閉めて今度こそ出て行くのだった。



部屋からロイルが出て行った後、眼帯から血が滲んできたのを感じて、ランガーは触るのを止めた。

いつも無意識で手を持っていくそこは、罪悪感と、後悔が詰まっていた。

ランガーは大きくため息をついて、出会わないほうがよかったと言うアイリーンの言葉を思い出していた。




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