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Dark plant  作者: 神崎ミア
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三話


 リックは一人、崩れた城壁の前にもたれかかり何時間と帰還しない二人を待っていた。

足元に転がる小石を蹴り、リックは本日何度目かのため息をつく。

リックが蹴った小石は浅い水溜りに波紋を広げ、その微かな音のみがリックの耳を通過していく。

しかも、司令部に向かった馬車が到着することもなく、退屈したリックの胸には

レニとロイルへの疑心が渦巻いていた。

もし、ここに待機させているのは嘘で、自分はここに置き去りにされたのではないだろうか。

そうすれば自分があの命令を守っている必要はないのでは。

そう考え始めた。

一度疑心してしまえば、なんとなく人の心にはその考えが巻き付くもの。

リックは覚悟を決め、

イヴンの門をくぐった。




ゆっくりと歩くうち、耐え切れないほどの腐臭がまず、鼻についた。

思わず袖で鼻を覆ってはみるが、全く役目を果たさないほどの強烈な臭いに

少しばかり後悔し始めたリックだったが、その真相を確かめるべく、

確実に一歩一歩踏み出す。

思わず気を失いそうな自分を叱咤し、両手は硬く握られていた。


歩くうち、リックは町の開いた場所に差し掛かり、

その中心の彫刻の側に、腰を下ろして一息つくことにした。


(それにしてもすごい町だな…)


人間の姿はない。

廃屋の上を我が物顔で過ぎ去るカラスが、時々リックを見下ろして行っては

すぐ見えなくなる。

足元には肥えてふてぶてしい表情のねずみが走って行くなど、

ロイルが言うように伝染病がいつ襲い掛かってもおかしくないほど衛生状態は最悪だった。

しかし、肝心のロイル達の姿が見当たらない。

やはり置き去りにされているのかと大きく項垂れたその時

リックの眼前に大きな影がかかった。


「ロイ…」


人の気配に気づいたリックは、ロイルが来たのかと急いで顔を上げた途端、

見上げた人物に小さく悲鳴をもらしてしまう。


「お前…、あのチビと男の仲間か?」


身長、二メートルはある大男。

がっしりとした体系に、くぼんだ頬と目。

まるで岩のような出で立ちに、リックは言葉が出なかった。


「来い」


リックの返事を待つことなく、男はリックの胸元を強く引き寄せ

リックを肩に担いで歩き出した。

意識が薄れる中、リックは自分の行動の軽率さを反省して、呟く。


「ごめん…、ロイルくん…」






 門前まで戻ってきたロイルは、通信機で仲間に馬車を呼んでもらうよう要請をしていた。

日は少し傾き、辺りの雲を一面オレンジに染めている。

レニは見当たらないリックを捜し、その辺を歩いていたが、呼びかけても

姿が見えないことに、疑問を抱き始めた。


「僕だ。馬車を一台頼む…何?知らんランガーにでも頼め」

「…ロイルさん、ちょっといいですか?」

「何だ、今頼んでいるからお前はあいつを捜して…」

「その、リックさんが行方不明なようです…」

「何だと?」


その言葉に思わずロイルは受話器を置いてレニに返った。

困惑した様子のレニに、ロイルは舌打ちする。


「ええぃ、面倒なやつだ。恐らく命令を無視して探検ごっこのさなかだろうが、あいつはどうやら方向音痴らしい」

「捜しますか?」

「お前はここに居てくれ。僕が捜してくる。あと、トレストゥーヴェにもう一度連絡してくれ」

「分かりました」


レニが通信機に手をかけるのを見てから、ロイルは再びイヴンの中へ走り出した。

薄暗いイヴンは生き物のように濃い霧を発生させ、招かれざる客を

迷い込ませるように深く闇に包まれていた。






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