四話
レニは、食材が積まれた倉庫で木箱の蓋を延々と開き続ける作業に追われていた。ボーマンそして人形を売りつけたあの甲高い声をした男、ジェインの目論見に当初から気がついていたレニは、食事の際、孤児院に貢献しているというボーマンを褒めながら、貴族の家庭教師をしているのだと言って近づいた。しかし、いざ鎌をかけてみればすぐさま激昂し、それが何よりレニの確信を深いものとした。
どこかに人形を隠した場所があると思い、様々な場所をこっそりと覗いてみていたもののマグダリアは広く、その見取り図を見てもなかなか人形が見つからなかった。
まさに密輸入にはもってこいの船といえよう。
あらかた野菜やチーズが詰まった木箱を除いてみたが、見つからない。いい加減少年を助けるべきかと立ち上がった瞬間、出口から話し声がしてレニはすばやく身を潜めた。
「しかし、なんだってアレの確認をさせるんだ?何かあったのか?」
「なんでも、少年がうろうろしていて捕まったらしい。ねずみ一匹にぎゃあぎゃあと…」
「用心深いというか、小心者というか…だな」
どうやらやってきたのはボーマンの手先らしく、愚痴をこぼしながら食材庫の出口の階段を降りている。レニは見つからないようにそっと背後にまわり、二人の様子を伺った。
二人のスーツ姿の男は、隅に寄せられた木箱をずらし、その下の小さな扉を開いた。レニはそこへ入っていこうとする二人を気絶させ、薄暗く広がる地下通路を眺めた。
「きっと小心者なんですよ、間抜けでね」
そう、もう答えない男に告げて、レニは通路へと降りていった。
ボーマンは命乞いをして、先ほど己が踏みつけたシーツに顔を沈めて何度も頭を下げていた。
ロイルは片方の刀をしまい、その日本刀の切っ先を向けたまま、ボーマンを見下し、鼻を鳴らした。
「まあよくもこんなに弱いボディーガードで密輸入なんてしてこれたな。」
傍らでうめき声をあげるボディーガードをちらりと一瞥して、ロイルはボーマンの醜い巨体を蹴り上げてほくそ笑んだ。ボーマンは大げさに悲鳴をあげて転がると、再びかたかたと震えて命乞いを始めた。
「たたた、頼む、助けてくれ!そ、そうだ、ボディーガードにしてやる!いくらだ、いくら出せば…」
ロイルは汚いものを見る目つきでボーマンを睨むと、再びブーツの先で軽くボーマンをどついた。それだけでもう死にそうな声を上げたボーマンは謝罪し、ロイルのブーツにしがみついた。
「すまない、し、死にたくない!乗せている兵器ならいくらでもやるから、た、たすけてくれえ!」
「ええい、寄るな気色悪い!」
ロイルはすがりついてきたボーマンを払い、しゃがみこむとその胸倉をつかんでイライラとした口調で尋ねた。
「おい、この船に乗せた兵器は何だ?銃か?刀か?」
「お、オートマタだ…」
「…な、何だと!?」
ロイルは思わずボーマンを突き放して血相を変えた。レイディアンが自分を乗せていた理由を改めて知り、ロイルは焦ってボーマンを再び掴んで揺さ振った。
「おい!それはどこにある!?言え!」
「しょ、食材庫の…りんご箱の下…階段がある。その先だ…」
「チッ!」
ロイルはボーマンを離して、部屋を出るべく、走り出した。しかしそれはボーマンの両手によってさえぎられ、ロイルは大きくバランスを崩して倒れ込んだ。
「なっ!」
「…行かせるか…アレさえあれば私は…忌まわしい兄に馬鹿にされることは…ない!」
両足に絡みつくボーマンの太い両手を払おうともがいたロイルだったが虚しく、ボーマンの力に勝てないロイルはそのまま両足を椅子の足に括り付けられ、身動きが取れなくなった。
ロイルは出口へ走っていくボーマンへ叫ぶ。
「くそ、おい、まて…!ボーマン!」
「見ていろ…私を虚仮にしたこと…後悔させてやるわ…」
そう言って出て行ってしまったボーマンを追うべく、うつ伏せだった体制を整えて刀でロープを切る。手形がまざまざとあざになった両足を撫で、ロイルは焦燥した。
「あいつまさか…人形を起動させようと…!」
そして自身もまた立ち上がって、ボーマンを追い、走り出した。