番外編 出会いの物語
この話は本編からずれてレニとロイルが出会った時の話を描いたものです。全く本編に関係ない、という訳でもありませんが特別物語に食い込むような話ではないので、気楽に読んでいただければ幸いです。
飛行船、マグダリアは漆黒の空を流れるように飛び、薄い雲を突き破って隣国を目指していた。貴族が華やかにその飛行船での空の旅を楽しむ中、一人、身なりのよくしゃんとした美しさを兼ね備えた一人の少年が人の波を見つめてふてくされた様な表情をとっていた。
いつものほこりっぽい深緑の軍服を脱ぎ、少年もまた、貴族の一人のような豪奢な服に全身を包まれてダンスホールの飲み物に手をつけていた。
(出所して最初の任務がこれとは…僕はこのまま干されるのだろうか…)
今回の任務は、同乗しているレイディアンの軍人と落ち合うことだった。同じように軍服を着ていないのか、特徴もなんら教えられていない少年は、ぐるぐるとそれらしそうな人影を捜したが、勿論わかるわけもなく。手当たり次第にレイディアンについて尋ねても不審がられてしまうだろう。
少年―ロイル・ヴァン・ハーゲンは大きくため息をついた。
そもそもこんな飛行船で落ち合う約束をさせるなど、どういった金持ち感覚の人間なのかと、ロイルはつくづく思った。そんな人間がレイディアン志望でまともに勤まるのか、そんな事ばかり考えた。
やがて、日が落ちきり、シャンデリアが目に眩しいほどぎらつき始めて、ロイルはぽつんと一人で座っていると、様々な貴族に声をかけられ、鬱陶しげに二言三言交わした。
中にはロイルを一晩相手にさせようと詰め寄った貴族もいたが、ロイルのすさまじい眼光に圧倒され、去ってゆく。この繰り返しだった。
収穫がなさそうだと、ロイルは一度部屋に戻るべく、立ち上がった。
(なんだって金持ちの馬鹿共は僕に話しかけてくるんだ…鬱陶しい…一度部屋に戻ってそれからさきほど話しかけてきたやつらの整理をしよう。あいつらは除外できるからな…。)
そうして出口へ向かった途端、突然凄まじい音が鳴り響き、
辺りは静寂に包まれた。ロイルは音がした方向へ素早く視線を遣る。すると今度は怒鳴り声が響き渡った。
「貴様、私を馬鹿にしておるのか、オズボーン!」
どうやらその怒った男が椅子を倒してテーブルを盛大にひっくり返したようで、反対側に座っていた男の連れは、背中を向けていて表情などは読み取れなかった。
しばらく物珍しげに貴族達がその様子を見つめていたが、ボーイ達が後片付けを始めると興味を無くして再びダンスに耽った。
「落ち着いてくださいませ、ボーマン子爵。私はあくまで示唆しただけでございます」
ロイルはそっと二人に詰め寄り、観葉植物の間から二人のやりとりを見つめた。
角度が悪いのか、やはり連れの男は見えないが、甘い声が耳につく、どうやら色男のようだった。
ボーマンと呼ばれた男はようやく冷静になったか、ボーイが整えたテーブルに座りなおして咳払いをした。ロイルは指にびっしりと下品なまでにつけられた指輪が光るのを、嫌そうに眺める。
「私は何も関与していない。むしろお前が怪しいではないか、一体お前は何者なんだ?」
「いえ、そんな事はございませんよ。私はしがない教師風情ですから…」
ロイルはそれ以上の情報の入手は無意味だと判断して、その場を後にした。
ふと、ボーマンの連れがこちらを見ていた気がしたが、思いなおして
ロイルは部屋へと戻っていった。