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Dark plant  作者: 神崎ミア
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第六章 暁の反逆者・後編

やっと後編です!

数日前

アイリーンはランガーの部屋を訪れていた。ランガーはカミュの修復に追われ、カミュの体にもたれかかるようにして寝ていたが、アイリーンの訪問で目が覚め、不機嫌そうにアイリーンと向かい合っていた。


「何だ、私は忙しいのだが」

「ふふ、激昂すれば一人称が戻るお前が私だと?…滑稽だなあ」

「…マリア、追い出せ、今すぐ」

「まあ、待て。今日はカミュの具合だけでない、話があったのだ」


アイリーンは相変わらず派手な服から艶やかな腿を惜しげもなく晒して足を組んだ。マリアはアイリーンの側にお茶を置き、カミュを抱え、ソファを広くした。アイリーンはマリアに礼をし、身を乗り出して話を再開した。


「…空軍の上層部によからぬ奴がいるらしい。アランから聞いたのだが…」

「よからぬ奴?だが私に空軍の豚連中の話をして何になる?」

「聞け。その空軍でよからぬ動きを見せている男の名前はゴードン・ディネガー。少将で戦闘機管理統括している男なのだが、ある男と癒着している可能性がある」

「…マーリス、か」


マリアは身を硬くした。アイリーンはマリアを一瞥し、茶に口をつけて俯いた。


「アランはマーリスのことを知らなかったのだが、ここの所、空軍の予算外に兵器や戦闘機の性能が飛びぬけて上がっていて、紋章が入れられていない不審なものがごろごろ出てきたらしい。」

「その男の癒着目的はそれか…やはり、マーリスが製造者であるのは間違いなさそうだな…大方戦闘機や兵器の設計図をマーリスに依頼して外装は内密に作らせたものだろうな…」

「ゴードンが癒着している証拠はあるものの、マーリス本人が消息不明なため、明確な処罰など下せないのが現状だ。」

「マーリスの屋敷には潜入してみたのか?」

「屋敷だと?」


ランガーは顔を上げて面倒そうにため息をついた。


「マーリスの昔住んでいた屋敷だ。お前は恋人だったにも関わらず訪れたことがないのか」

「い…いや、失念していた。そうか、マーリスの尻尾を掴む手がかりになるやもしれんな…」


ランガーは自身のカップに黒々と注がれたコーヒーをすすり、目を細めた。

少し落ち込んだ様子のアイリーンに尋ねる。


「まだ、あの男を愛しているのかお前は…」

「な、何を…」

「私は遠い昔にそんなことは忘れてしまったというのに、お前は進歩のない下等生物だな」

「…ジュリアのことか…」


カタン、と大げさにカップを置いたランガーは、片方だけの漆黒の瞳でアイリーンを見つめた。マリアははらはらとその様子を見守っていたが、アイリーンはそんな空気などお構いなしに穏やかな声音で続けた。


「あれから何年経っているんだ…私はともかく、縛られているのはお前のほうだ。」

「アイリーン…!」

「じゃあな、マリアの茶は相変わらずうまい…この調査はロイルにでも任せよう」


ついにカップのコーヒーはこぼれてしまった。自分の感情を何とか抑えようとしているのか、フーフーと荒く獣のような息を繰り返すランガーは途切れ途切れに呟いた。


「俺の前で…二度と、その名を口に…するんじゃない…!」


アイリーンはランガーを一瞥し、背を向けた。


「俺…、ね」


薄く笑みを湛えたアイリーンはそのままランガーの部屋を後にした。








 基地玄関付近で、リックはヴァレスと別れて手を振った。

ヴァレスは買ったばかりの荷物があるからと部屋までついてこようとしたが、ヴァレスが帰りに迷子になる心配をしたリックは大荷物でエレベーターに乗車した。いつもは二つしかないので混んでいるエレベーターも幸い誰も乗ってなかったためガラガラだった。

足元にいくつか荷物を置いて、リックは大きく息をついた。体に疲れを感じる。

楽しかった休日はあっという間で、時間が分からないアクアドーム内では尚更そう思えた。

ふと、降りる手前でエレベーターが止まった。

誰かが入ってくると慌てて荷物を抱えると、大量に買い込んだりんごがごろごろと転がり出た。思わずそのりんごを追って身を屈めると、皮の美しいブーツの先が視界に飛び込み、リックは顔を上げた。


「おい、乗るのか降りるのかはっきりしろ」


声と高そうなブーツの主が不機嫌そうに言った。声を聞いた途端、降りたくなったリックだったが、おずおず顔を上げて男―ランガーを見上げた。


「…乗ります…その、りんごを拾ったら…」




気まずい雰囲気が漂っていた。

声を掛けれないリックは話しかけられないように、一心不乱に落としたりんごを磨いた。

次第に光沢が現れてきたりんごをみつめていると、努力むなしくランガーはリックへ声を掛けた。


「お前、私が嫌いだろう」

「ええっ?い、いやそんなことは…!」

「いい、嫌いなのは分かっている。お前の行動全てが語っている」

「は…はあ…。」

「私のことは存分に嫌ってもいい。そして信用もしなくていい、だが、お前の上司は信用してやれ」

「えっ…」


ランガーはリックを一瞥する。ふん、と高慢そうに鼻を鳴らしたランガーは続ける。


「…ロイルをそんなに嫌ってやるな」


チン、と軽快な音と共にドアが開いた。

着物の端を揺らして見えなくなったランガーの姿を最後まで捉えていたリックの目は、動揺して揺らぐ。見透かされた自分の全てに動揺していたわけではなかった。

今までどんなに冷酷な人間なのだろうと思っていた人物から漏れた優しい一言に胸が痛んだのだ。

あの一言はどんな言葉より重い。リックはそう感じた。

何故ならば一生ロイルが知るところのない、ランガーの想いを、ロイルの端くれである自分が受け取ってしまったのだからと。屈んでうなだれたリックは、自分の部屋の階をしばらくすぎても、エレベーターから降りれなくなって小さくため息をつくのだった。




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