四話
リックはその日、唯一の休日である日曜をどう過ごしたらいいものかと考えてベッドに横たわっていた。時刻はそろそろ昼を迎え、日曜は早朝訓練があるだけであとはすることもなく退屈であることが多かった。陸軍からの荷物も届き、いよいよレイディアンの暮らしが様になってきたリックは、これまでのことを振り返りながらまどろみ始めていた。
何をしようか、からこのまま睡魔に身を任せようとしていた頃、調度いいタイミングでリックの部屋がノックされた。
リックはハッと目が覚めて起き上がり、少し不機嫌になりながら昼寝の妨害をした客人を迎えた。
「…はい?」
「やぁリック、俺、ヴァレスだよ!」
ドアを開けてすぐ、眩しいほど爽やかな笑顔を携えたヴァレスがにっこりと微笑んで出迎えたリックに片手を挙げた。まだ眠気のあったリックも突然の来訪者に一度に目が冴え、急いでヴァレスを招きいれた。
「わわ、言ってくれれば迎えに行きましたよ!」
「うーん、そうすればよかったね…。君の部屋に着くまでにお昼になったよ」
リックは無造作に椅子や机にかけていた洗濯物をごっそりクローゼットにしまい込み、椅子とテーブルを開いた。ヴァレスは持参したお菓子や酒類を広げながらリックの狭い部屋を改めて見渡した。
「なっつかしいなぁ…俺、この部屋にいたんだ。隣がロイルでさ、」
「えっ?ここはヴァレスの元部屋だったんですか?」
「そうだよ。夏はアクアドーム涼しくていいけどさ、冬は寒くて暖房もなくて…本当、懐かしいや」
「あ、そういえば」
リックはふと、備えつけられていたクローゼットで見つけた写真を取り出して、ヴァレスに渡した。
「この写真…ヴァレスのでは…」
「ああ、これ!探してたんだ!」
ヴァレスは両手を挙げてそのくしゃくしゃな外装を見ただけで自分のものだと理解したのか喜んだ。
ゆっくりとその写真を開き、ヴァレスは感慨深い様子でそっとため息をついた。
リックはヴァレスが持参したワインのコルクを抜きながら、ヴァレスに尋ねた。
「その子はご家族ですか?」
「そう、妹。人形のテロにあって死んじゃったんだ…」
「そう…なんですか…俺も家族をだいぶ前に亡くしていて」
「そっか、それでレイディアンに」
リックは開きかけた口を閉じた。本当はロイルに出会わなければ一生を陸軍に捧げていたかもしれなかったリックには、真剣にあだ討ちするべくレイディアンに入隊していたヴァレスに話すことなど無かった。そして同時に、軍人をやめてから清掃員にならなければいけない程の理由が、彼にはあるのだろうと悟った。
リックは静かにワイングラスへ真紅の芳醇なワインを注ぐと、ヴァレスに差し出した。
ワイングラスを傾けながら、ヴァレスは苦笑する。
「じめっとした話になっちゃったね。チーズ食べる?持ってきたんだ」
「あ、はい…頂きます」
ヴァレスはチーズの袋を開いて、その袋を下に細かいチーズたちをそのままざらりと出した。
リックはおずおずとそれを口に運び、何を話そうか考えていた時、ふとヴァレスが立ち上がったので顔をあげた。
「ねぇ、街を見学しないかい?君に案内したい場所があるんだ」
リックは少し驚いたが、やがて頷いた。ヴァレスはにっこり笑って写真をポケットに突っ込むと、片付けようとしているリックの手を取り、それをやめさせた。
「そんなのはいいから、ほら急いで!」
「えっ、ああ、えっと…はい」
ヴァレスは強引に作業を中断させると、軽い足取りでリックの部屋を出た。
施錠を済ませたリックへ振り返り、ヴァレスは元気よく右手を挙げた。
「ではレイディアンの街へしゅっぱーつ!」
少し酔っていたヴァレスは千鳥足で歩き出した。
リックは呆れて笑い、その背中を追いかけた。