三話
サジュは信じられない物を見たように目を見開いた。
足元で大破した人形を調べるロイルは援軍を待つことなく数体の人形をほとんど一人で片付けてしまった。サジュは改めてロイルをまじまじと眺め、尋ねる。
「君は、何か特別な訓練でも受けてるのかね?」
「勿論だ、僕は軍人だからな」
「ぐ、軍人?君のような子供が…!」
「一つ、言いたいことがある」
「な、何だね?」
あらかた人形を調べたのか、部品をぽいっ、と投げ捨てたロイルは
サジュを見つめて不機嫌そうに答える。
「僕はお前より階級が上だぞ」
「な、何を馬鹿なことを」
「本当だ。調べたければついてこい」
「一体どこに?」
ロイルは満面の笑みを浮かべて、切り立った岩の上にひょいっと飛び乗った。
「僕らがレイディアン要塞、アクアドームへ」
「ロイルくんが、レイディアンの軍人?」
レニは突然の来訪者、リックにここに来た経緯を説明していた。半信半疑のリックは、疑わしげにレイディアンの証明書に視線を走らせていた。
レニはロイルがここに、人形の残党があると報告を受け、派遣されてきたことを説明した。実際に、人形の残党は現れたものの、やはりリックはその全てが理解できず、
絶えずサジュのことが気がかりだった。
そんなリックの前に、ロイル達が現れたのはその数分後だった。
「よ、よくぞご無事で…!」
サジュを迎えたリックは、なんとなくサジュの雰囲気の変化に気づき、眉をしかめた。
押さえていた右腕は綺麗に手当てされてあり、表情はふてくされていた。
「どうかされましたか、曹長?」
「いや、何でもない。遠路はるばる、ご苦労様です、レニ中尉」
「えっ?」
「いえ、そちらも任務ご苦労様です。私どもはこれからもう一軒任務がありますが、司令部までご同行なさいますか?」
「そうさせてもらおう」
リックは一人状況が理解できず、サジュとレニの顔を代わる代わる覗き込んだ。
ロイルはそんなリックを見つめ、やがて声を掛けた。
「お前、レイディアン入隊を希望しているんだってな」
「えっ、ああ、そう、だけど…」
「サジュ曹長、こいつはアクアドームまで同行させてかまわないか?」
「は?」
「ご意思のままに」
その言葉に、ロイルは薄く笑った。
「つまりは今の陸軍を入隊したばかりだが、クビだそうだ」
「えっ、ええ?!」
「これからよろしくお願いしますよ、リックさん」
ぽん、と景気よく肩を叩かれたリックは
夢のレイディアン入隊が叶い、なんとも複雑げに項垂れた。
やっとなれたばかりの陸軍生活を突然たった一人の少年に解雇されたリックの受難は、
これからが始まりだった…。