二話
アランを招きいれたアイリーンは、普段どおり派手で露出度の高い服を着ていた。アランは真面目な男だったので、その目も当てられないほど露出の高い服に不快感を感じていたが、同行した彼の部下は男として健全な反応を見せ、視線をなるべく逸らすようにしていた。
アイリーンはゲストルームにアランを通すと、お茶を出した給仕の女性と部下を含む複数の人間を払うとアランに向かい腕を組んだ。
「遠路はるばるようこそ、実は今回、訓練の話以外に貴公にお話があったのだ」
「話?それであの人払いか」
「そうだ、まず…我々の存在意義は分かって頂けているな?」
「勿論だ。殺戮兵器オートマタの破壊と殲滅を特務とした組織なのだろう?」
「ああ、そうだ。しかし、考えたことがあるか?」
アイリーンは少し身を乗り出してひたとアランを見据えた。
アランは口ひげに手をやり、もったいぶったアイリーンの言葉に痺れを切らして尋ねた。
「何のことをだ?」
「あの破壊兵器達は何故突然暴走を始めて、誰が作ったのかを」
アイリーンの言葉に、アランは目を見開いた。
海軍としてその地位を築いてきたアランは、人形の混乱を耳にしてはいたが、実際は海の上。
その下にレイディアン本部があったとしても、実情はなんら関わりもなく家族が人形によって死んでしまった話などしか耳にしていなかった。
「やはり、製造者が?」
「そうではないだろうか…という、憶測にすぎないが一人の男が関与している可能性があるのだ」
「一人?たった一人だというのか?」
「そうだ、その男の名前はマーリス・ソルワット。」
アイリーンは猫のように目を細め、苦い顔をした。
「私が昔愛していた男だ…」
ロイルは、訓練場のロッカールームの綺麗さに少しばかり驚いていた。
普段は滅多に手をつけない場所ではあったが、海軍の合同訓練があるともあり、意を決して入ったのだ。ぴかぴかのロッカーはまるで買ったばかりの頃を思わせ、くすんでいた床は足元を鏡のように映していた。
「綺麗だ…」
「…それはウィーゲル新兵とブラックモアが数日前綺麗にしていったのだよ」
「…ルイス…」
「馴れ馴れしくファーストネームで呼ばないでくれ、ハーゲン!」
ロイルは面倒そうに振り返った。
ルイスはロイルを睨むと、背中を預けていた壁から離れてロイルの元へ歩き出した。
「だいたい君は私に仕事を押し付けて何をしていたんだね?」
「寝ていた」
「寝ていた!そんなやつがこの私よりも優れているとは思えん!全く!皆無に等しい!」
「何なんだ、用事がないならさっさと僕の視界から消えてくれ」
心底疲れたようにロイルが言うと憤慨していたルイスは自分の感情を抑えるように拳を握ると、その拳を開いてロッカーの側にいたロイルを右側に腕を伸ばして縫い付けた。
「海軍の合同訓練、私に任せたまえ」
「…何故だ」
「君には不可能だと言っている。そう、好きに寝ていたまえ、三日でも四日でも」
「断る。これは僕の仕事だ」
ロイルはルイスの体を押しのけてロッカールームを出ようと歩き出した。
しかしそんなロイルの態度に気に入らなかったのか、ルイスはロイルを引き止める。
「納得いかん!どうして私がお前なんかに…!」
ぐいっ、とロイルの腕を引き寄せたルイスは、振り返ったロイルの凍てつく視線にひるみ、思わず後ずさりした。ぞっとするような地の底の冷たい視線のまま、ロイルはルイスに返した。
「お前は自分の力がどの程度のものなのか、知るべきだ」
ルイスはそれ以上ロイルを引き止めることが出来なかった。
圧倒的な力の差に、ルイスは唇をかみ締めてうなだれた。