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Dark plant  作者: 神崎ミア
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二話


 サジュは、負傷した右腕を庇いながらはぐれた新兵を捜し、藪に身を隠していた。

ライフルに弾を装填しつつ、サジュは辺りを見渡した。

薄暗い林には、昔この町に住んでいた何百もの人間の慰霊碑があった。

いまでも花を供えるものがいるのか、手入れされていて綺麗だった。

しかし、サジュにとっては視界を遮るものに過ぎず、体制を低くしたままサジュは動き始めた。

当初は、熊の捜索だからと甘くみていた自分の誤った判断をサジュは後悔していた。

この林はもっと違う何かが隠れている。

血がにじむ右腕をぎゅっと服で縛りつけ、サジュは息を殺して神経を澄ました。

微かに、草がざわめく音がする。

サジュは立ち上がって、向かい来る人影にライフルを向けた。


黒い人影は、サジュが銃を向けているとは知らず堂々と姿を現した。

大きな月が出でいるにも関わらず、林は鬱蒼としていて人物の顔が良く見えない。

サジュは視線を凝らし、徐々に近づこうとした瞬間、

その人影を遮るようにすっと何かが割り込み、サジュは思わずライフルを下ろした。



「ロ、ロイルくん?」

「…今、お前を狙っている人物を見つけた」

「えっ?」

「多分、お前の上官じゃあないか?銃を下ろせ、両手を挙げろ」


リックは半信半疑にライフルを地面に下ろし、両手を挙げた。

ロイルはリックが両手を挙げたのを確認し、自分も大きく両手を挙げる。


「ウィーゲルか?」


サジュは突然両手を挙げた人物をよく見つめ、

念のためライフルを構えたまま尋ねた。側には見ない少年が一緒だったが、

リックの情けない声を聞き、サジュは安心して肩を撫で下ろした。


「は、はいっ!サジュ曹長!ご無事で何よりです!」

「よかった、あまり別行動をしない方がよかったな、そっちの少年は?」

「あ、はい。この廃墟で迷子になっていたのを保護しました!」


すぐさま凍てつくようなロイルの眼光がリックに突き刺さったが、

ロイルはそのまま反論することなく無言で腕を組んだ。


「曹長、お怪我を…」

「あ、ああ。ここは思っていたより危険みたいだ。一度隊を組みなおして…」

「…そうも言ってる暇はないようだぞ」


ロイルがそう呟いた瞬間、林の木々を割り箸のようにいとも簡単になぎ倒し、

地響きを揺らして数体の人形オートマタが眼前に飛び出した。


「に、人形!」

「いかんな、私達には手におえん…、私が囮になるからお前達は早く…!」


そう言う間もなく、ロイルは自分の何倍のあるサジュを軽々飛び越え、

先陣切って人形オートマタに切りかかった。

サジュは突然のことに驚いて一瞬動きが止まったが、慌ててロイルを追った。


「な、何しているんだ!君みたいな子供がかなう相手じゃないんだぞ!」

「ろ、ロイルくん!」


どこから出したのか、いつの間にか彼の両手は二本の刀が握られており、

まるで演舞を舞うような素早さで人形オートマタを切り付けてゆく。

サジュはやや混乱しつつも、ロイルのサポートをしつつ、リックに振り返った。


「おい、お前は援軍を要請にこの下の町に行くんだ!」

「で、ですが曹長、彼は民間人では…」

「だからだ、あの少年を怪我させるわけにはいかん、早く行け!」

「はいっ…!」


リックは何度か心配そうに振り返りつつ、近隣の町目指して走り出した。

ここから町まで結構な距離があったが、先ほど咄嗟に武器を捨ててしまって丸腰の

リックには、こうする他なかった。


廃墟を抜けた先、門前に馬車が停めてあるのを見つけた。

リックは急いで馬車へと駆けていき、どうにかして町まで送ってくれないか

頼んでみることにした。

貴族の馬車らしく、従者がついた立派なものだったが、リックは躊躇なくドアを開いた。


「あ、ああ、あのっ、この下の町まで連れて行ってくださいませんかっ?!」


突然見知らぬ男がドアを開けたにも関わらず、中で座っていた男はうっすらと笑みを浮かべて

静かに尋ねた。


「どうか、なさいましたか?」

「俺の上官と民間人の少年が人形オートマタに襲われていて、援軍を…!」


貴族らしい美しいいでたちの男は上品に笑みをたたえ、焦りきったリックに

シルクのハンカチを寄越した。


「民間人の少年は、生意気で、不遜な態度の少年でしょう?」

「えっ?」

「彼なら、放っておいても大丈夫ですよ…」

「そ、そんな?!アンタ保護者?子供が死んでもいいのかっ?!」

「いいえ、何故なら…」




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