四話
四年前―…
「はい、ヴァレスの負け~!」
「おい、ロイルもう一回だもう一回!俺さっきから負けてばかりだよ!」
新品の制服に身を包んだ少年二人が、小さな産業の栄えた村へ列車で向かっていた。
木々の間をすり抜けながら走る列車は、各駅停車しながら少しずつ目的の村の駅を目指す。ロイルは自分の手札と山を掻き分け、笑顔でヴァレスにトランプを渡すように手を差し出した。
「駄目~!ほらほらトランプ戻して。僕たち遊びに来たんじゃないんだからね!」
「はいはい、ほら。それにしても誰も乗ってないしつまんないよな」
「田舎だからね。僕たちの初仕事にはふさわしい場所だよ?産業が活発で明るい村なんだって」
「人形回収を促さなきゃいけないど田舎だよ?都会じゃもうみんな人形なんて誰も持ってないのに…。」
「愚痴らない!」
全てのトランプをまとめると、ロイルは透明なケースにそれをしまい鞄に戻した。
窓の外の景色は久々の陸地を映し、ロイルは物珍しそうにじっと窓を見つめる。
ヴァレスは退屈そうにあくびをすると、座席に背中を預けて腕を組んだ。
「俺たち、訓練頑張ってきたのにまだこんな任務ばっかでさ、出世なんかできんのかな?」
「僕は出世なんか興味ないよ…これからの恩返しになればいいだけだから」
「そんなこと言って、ロイルが一番出世したりして」
「やめてよ、もう」
おどけたのヴァレスの背中を叩き、ロイルは微笑む。
撥水加工されたつるつるの制服のボタンをしきりに触り、ロイルは初任務に胸を高鳴らせていた。
ヴァレスは体のだるさを感じて目を覚ました。
薄暗い車内は駅員のろうそくの火によって少しずつ明かりが灯されていった。ぼんやり揺れるランプの炎を眺めて、向かいに座り眠ったままのロイルを揺さ振った。
「ロイル、俺今停まってる駅でトイレ借りてくるよ、君は?」
「うあ…ううん待ってる」
「そうか」
座席を立ち上がったヴァレスを見つめて、ロイルは再びまどろみ始めた。
ふと、隣の座席を見遣る。
眠気がまわる頭でロイルは、少女がうずくまって座っているのを見つけた。
「…君、どうかしたの?」
どうやら少女は泣いているようだった。
何があったのか尋ねてみると、少女はより一層わんわんと泣くばかりでロイルはようやく目を覚まして少女の元まで歩き出した。
「どこか痛い?お母さんや…お父さんは?」
「…お姉ちゃんと、はぐれたの…」
嗚咽を漏らす少女がようやく呟いた言葉に耳を澄まし、ロイルは困り果てた。
声を掛けた手前、放っておくわけにもいかず一先ずロイルは少女の頭を撫でて落ち着かせることにした。
「お兄ちゃんが一緒に捜してあげようか?」
少女が顔を上げる。幼いその顔は不安げに歪められ、目許はぱんぱんに腫れ上がっていた。
「…いいの?」
「うん、もちろん。君、名前は?」
「マリル、」
少女はようやく笑顔を見せた。
頬と目を赤くした少女は涙の引いた両目をこすり、ロイルの制服を掴んだ。
「そうか、マリル。僕はロイル。よろしくね」
「うん、ありがとうロイル!」
「君のお姉さんはこの列車に乗っているんだよね?」
「きっとそう、私言いつけを破って勝手に飛び出してきたから向こうも捜しているかも」
「そうなんだ…なら、僕も謝ってあげるから一緒にお姉さんの所に戻ろう」
小さなマリルの手を握り、ロイルはにっこりと笑顔を向けた。
マリルはロイルの手を握り返し、彼が聞こえないような小さい声でそっと呟いた。
「…ごめんね…」