六話
自室に戻ったロイルは、疲れきった体をベッドに沈めた。彼はアクアドームに帰還すると眠りに入ったまま三日程過ごす。任務中は滅多に睡眠を取らないためか、研ぎ澄ましていた神経を使いきるためか、この寝ている間の記憶はロイルにはなく、誰にもこの間はロイルを起こす事ができない。
その為、アクアドームでの作業はほとんどこの睡眠の前に終わらせたかったロイルは、コアをランガーに渡せて一安心していた。
リックのことが気がかりだったが、ロイルが意識を保っていられたのはベッドに倒れこんで数秒だけであった。
すっかり夢へと深くもぐっていったロイルは、その後やはり三日間眠りこけた。
「ここが、貴方のお部屋です」
レニに案内された部屋を一望し、リックは思っていたものより綺麗で安堵のため息を漏らした。部屋には硬そうなベッドに縞模様のカバーがかかった布団が敷いてあり、そのすぐ上には小さな窓。
向かいには古い机と、クローゼットがあった。
突然来ることになった為、まだ陸軍の駐屯地に荷物を置きっぱなしのリックはクローゼットの中の制服を借りることにした。
「食堂は一階です。お風呂は共同で、トイレは各階に二つ。足りないものがあればおっしゃってくださいね」
「はい、ありがとうございます」
「では、私はこれで」
「あ、レニ中尉!」
「…普段はさん付けで構いません…何か?」
「あのっ、ロイルくんのお部屋ってどこでしょう?」
本当なら、ランガーが何者なのか聞いてみたかったが、なんとなく、聞いてはいけないような気がしたリックは、もごもごとロイルの部屋を訪ねてしまった。
レニは薄く笑い、返答する。
「今、ロイルさんはお休み中だと思いますよ。一度眠ると三日はおきないので…。一応場所ですが二十階の奥にあります。一般の新兵は通れませんが、話をつけておきましょう」
「ありがとうございます…あの、ロイルくんってやっぱりえらい人なんですか?」
「まあ、そうですね。レイディアンでの階級は少佐になります」
「うへぇ?!」
「プライベートでは特に敬語なんかは要らないでしょうし、今まで通りでいいんですよ」
ロイルの階級に青ざめたリックに、レニは少し笑って、部屋のドアを開けた。
不安げな表情のリックに振り返り、レニが尋ねた。
「無理やりレイディアンに入隊させられて、困っているのですか?」
リックはしばらく逡巡して、首を振った。
「まだ…分からないんです。でも夢だったのは、確かなので…」
「慣れてくれば、気持ちに整理もつくでしょう。遅くまでご苦労様でした。明日の朝は鐘が鳴るのでその時間に起床してください。」
「はい」
「それでは」
ぱたん、とレニが閉めたドアを見つめ、リックは大きく息を吐き出し、その場に倒れこんだ。
何度も夢見ていたレイディアンと、現実の差に少なからずショックを受けたリックは大きく伸びをして窓を見上げた。
空がない景色の違和感に未だ慣れないリックはそっとカーテンを引き、疲れた体をきしむベッドに預けるのだった。
主人公が次第にリックのようになってきましたが、実はこの物語の主人公はロイルなんです…。都合がいいのでリックを使いすぎて主人公っぽくなってきました…