四話
エレベーターは最上階で止まった。少し酔い気味だったリックはおぼつかない足取りでエレベーターから降りると、壁にもたれ掛かってうずくまってしまった。
レニは慣れた手つきでそんなリックを抱え上げ、大きな無垢の扉を叩いた。
「入れ」
中から声がし、レニは失礼しますと一言述べてドアを開いた。
中は、リックが想像していたものとは違い、また他の部屋から比べて明らかに豪奢であった。
天井の真ん中を居座るシャンデリア、開けた窓の外からは夜空の代わりに美しい夜の海が広がっている。社長室、と呼ぶのにぴったりなその派手な部屋の中心には装飾が細かい木のデスクとワインレッドに輝く革張りの椅子が背を向いていた。
「先日、レイディアン入隊希望の新兵がいたので連れてきました。手続き、お願いします」
「…分かった」
ぎし、と椅子が回転し、その高そうな椅子に足を組んで座っていた人物を見て
リックは思わず顔が熱くなるのを感じた。
その美貌は一度みれば忘れられないほどのもので、肉感的な美女であった。
組んだ足から覗く黒レースとガーターベルトが扇情的で、口元のほくろは女の色香を感じさせた。
バストは申し分なく、またそれを誇示するようにおしげもなく晒されていた。
黒い豹の肌掛けをかけなおし、その女性は上から下まで舐めるようにリックを見つめた。
「しかし頼りのなさそうな若者だな…、よく来た、私はアイリーン・ベイツ。このアクアドームの総司令官だ」
先ほどまでのエレベーター酔いはどこへやら。ぴしっと背筋を伸ばしたリックは遣りどころの無い目を白黒させていた。
「此処に来た新人に、私はいつも尋ねることがある」
「な、何でしょう?」
「お前は戦うのかそうではないのか、聞こう」
「えっ?」
アイリーンは椅子から降り、リックを見据えた。
「ここでは、二人一組のパーティーを組んでもらう。もう片方は叩き、もう片方は情報を集める、が決して片方が死んでもあだ討ちしてはならない。戦ってはいけないきまりを作った」
「な、何故、二人で戦ってはいけないのですか?」
「何故なら片方が死ねば、その死体を回収しなければならないからだ」
「そ、そんな事のために…?」
「そんな事ではない。我々レイディアンにとっては重要なことなのだ」
アイリーンはリックの側までくると、その顔を見下ろし人差し指を目の前に振り下ろした。
鼻先すれすれで止まったアイリーンの指を見つめて、リックは息を飲む。
「死体は人形達の糧となる。どんなことがあっても回収しなければならないんだ、さあ、お前はどうなんだ?戦えるのか?」
アイリーンの強い口調は出会った頃のロイルを彷彿させた。
リックはこれまでのことを何度も考え、成り行きでレイディアンに入隊したとはいえ、
覚悟を決めて答えを導き出した。
「俺は、戦いたいです…」