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Dark plant  作者: 神崎ミア
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七話


 ロイルはハッと目を覚ましたように現実に戻ってくると、気絶する前の現状とかなり異なったアトリエの姿に驚き、一人取り残されていた。マーリスがロイルが起きたことに気がついたのか、やや焦った表情で彼を見上げた。


「メルディス…!」


ロイルはマーリスの下へと視線を遣った。肩を押さえたレニと、その前で大きく手を伸ばした銀髪の少女。そしてマーリスの手にはレニの拳銃が一丁握られていた。

ロイルが視線を遣ってまもなく少女は倒れこんで、レニはその少女を抱きとめた。


「一体何があったんだ…?」


マーリスは拳銃を落として、ロイルへと近づいた。レニは腹部から出血する少女を抱えたまま振り返り、普段からは考えられないほど強く、激しい声音でマーリスを呼んだ。


「マーリス!」

「お帰り…メルディス…僕は待っとったんや…君が帰ってくるのを八年間も」


トレストゥーヴェは少女、イナーシャに駆け寄ると、出血した箇所を止血しようと髪留めを解いていた。ロイルはマーリスの背後に視線を遣った後、更にドアの側にいたヴァレスを見つめた。ヴァレスは車椅子を握ったまま、ただ呆然と立ち尽くしていた。


「僕に触るな、下郎!」


マーリスの手を振り払ったロイルは、急いでレニへと駆けつけた。マーリスはまさか手を振り払われるだなんて思ってもみなかったのか、驚いてその場に固まった。

ロイルはイナーシャの側でしゃがみ込むと、つたない手作業で止血しようとするトレストゥーヴェを制止した。


「もういい、もうお前は頑張らなくていい、トッティ」

「ろ、ロイル…、ご、ごめんなさい、私…」

「いい、今はお前の家族を優先しろ」


イナーシャは浅い息を繰り返しながらロイルを見つめて、レニへと視線を移した。


「おい、貴様、死ぬなよ。僕はお前に借りを作ったままだ」

「ロイル…あり…がとう…」


マーリスは歯をかみ締めてその様子を見ていたが、やがてレニを突き飛ばしてロイルへと近づいた。ロイルはイナーシャの前へと進み、憤ったマーリスを睨んだ。


「何故や!どうしてロイルの意思が消えてへんのや!格好はもうメルディスやのに…お前は誰や、誰なんや!」

「やめろ、マーリス!メルディスは記憶とともにあの日死んだんだ!」

「嘘を言うな!マーリスは殺されたんや、あのジジイのせいで…!でもここに、ここにメルディスはおる!」

「…セイランのせいで…死んだ?」


ヴァレスは唖然として先ほどまでの様子を傍観していたが、マーリスの一言が引っかかり、今まさに見下ろしている老人を凝視した。マーリスは興奮した様子でレニの手を振り払うと、狂気を含んだ笑みを浮かべてヴァレスを見つめた。


「せや…!メルディスも、ジュリアも…その男がみんな殺した…あの八年前、僕の人形をけしかけてお前の妹を殺したのはそこに座っている死にぞこないや、ヴァレス!」

「そ…そんな?セイラは、セイラはメルディスが殺したんだ…だって、そうじゃなかったら、何故今まで嘘を…!?」

「それはお前の妹を生き返らせる条件つけたら、お前が使えると思たからに…決まってんやろ?」


ヴァレスは思わず後ずさって車椅子から手を離した。その反動で車椅子は横転し、倒れたセイランはうめき声を上げて床に這いつくばった。


「うそ…うそだ…だったら俺はなんてことを…メルディスの話も聞かないで…俺は…!」


ヴァレスは先ほどマーリスが投げた銃を拾い上げて自分のこめかみに押し当てた。ロイルは目を見開いてその様子を捉えて手を伸ばした。


「やめろ!ヴァレス!」


ダン、と短い銃声の後、今まで何の感情もなく動きもしなかったセイラが、彼の銃を自分の胸に押し当てていた。ヴァレスはへたりとその場に座り込んで、倒れたセイラの遺体を抱え上げた。


「せ…セイラ…どうして…!」


マーリスは自殺するはずだったヴァレスを見遣り、舌打ちをした。そしてセイラがが持っていた拳銃を奪うと、床に倒れこんでいたセイランの額に銃口を向けた。


「なんや…イナーシャだって、こいつに復讐したがってたから連れてきてやったんに…」

「ひ、ひいっ…!」

「止めて、マーリスさま!」


イナーシャは悲痛な声を上げた。マーリスはイナーシャを一瞥して、銃の持ち手を彼女に向けた。ロイルは血が滲み出したトレストゥーヴェの髪留めをギュっと握り締めて、手を振り払おうとするイナーシャを引き止めた。


「待て、何をする気だ!?」

「僕は僕の役目を果たしてからじゃないと死ねない!今まで、この日の為に耐えてきていたんだ!」


ロイルを突き飛ばしてイナーシャはふらついた足でマーリスから拳銃を奪う。トレストゥーヴェは立ち上がってイナーシャを呼んだ。


「姉さん!姉さん…!」


イナーシャは震える手で銃口をセイランに突きつけた。ヴァレスは絶望のあまりうずくまり手を貸さず、マーリスは満足げにその様子を見つめた。トレストゥーヴェがいくら叫んでも伝わらず、彼女の細い指先は引き金をゆっくりと引いた。









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