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Dark plant  作者: 神崎ミア
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六話


 獄中にもかかわらず、少しまどろんでいたリックは

格子の鍵が開かれた音に気づき、目を覚ました。再びあの子供らしき人物がやってきたのかと体を起こすと、そこにいたのは見慣れた生意気な少年の姿があった。


「ろ、ロイルくんっ?」

「しっ、大声を出すな馬鹿者」

「助けに来てくれたの?」


ロイルに返事はなかった。黙々と腕の縄を解くロイルに、リックは開きかけた口を一度閉じて、

もごもごと収まらない口調で謝罪を述べた。


「ごめん、ロイルくんがダメだって言ってたのを無視して…その、迷惑かけて」

「…僕は、お前みたいな奴がへらへら戦場で命を落とすのを沢山見てきた。もう少し自分の命を大事にするんだな…」


どんな辛辣な言葉が返ってくるかと覚悟していたリックに掛けられた一言は呆気ないものだった。

リックは安堵の息をつき、もう一度謝罪を述べて項垂れた。

一気に緩んだ気が、涙まで誘う。


「本当にお前は戦闘に不向きな男だ」


あまりのリックの情けなさに返す言葉もないのか、ため息交じりにそうロイルが呟いた。




 「でも、なんで此処が分かったんだい?」


急な階段を一歩一歩慎重に進みながら、リックはロイルに尋ねた。

少ない明かりを頼りに歩いていたロイルは一度振り返り、唇に人差し指を立てた。



「今、オリビアが時間稼ぎをしてくれている、急いで此処を離れるぞ」

「オリビア?」

「…説明が面倒だ、行くぞ」


上に向かうにつれ、明るくなっていくのをリックは目を細めて見つめる。

奥には何か言い争う二人の影がぼんやり窺えた。


「何なんだ、この出来は!」

「………。」

「こんな簡単な事もできないのかお前は!」


酷く罵声を浴びせれる小さな背中を不安げに見ていたリックは、ロイルに肩をつつかれ、

そっと側を離れた。

後ろ髪をひかれる思いで何度も振り返れば、ついに何かが割れる激しい音が響いた。


「ええい、もういいわ!お前みたいなジャンクにはもう用がない!来い!」


リックは、自分の悪い癖だとわかっていながら、ついに二人の前へ飛び出してしまった。

眼前に広がったのは、自分をさらった大男が少女の髪をひっぱり今割れたであろうビンを振り下ろさんとする現場だった。

ロイルは破天荒に無茶をするリックに舌打ちし、自分もまた二人の前に躍り出た。


「お前は今日捕まえた…!」

「やめろ!そんな小さな子をいたぶっていいと思っているのか!」


リックは勢いだけで、リジアに飛び掛った。

流石の奇襲に、ひるんでしまったリジアの手から、オリビアが離れた。

離れたオリビアは急いでリックを制止しようと、細い腕で止めに入った。


「くそっ、何なんだ今日は!」


ぶん、と大きく振りかぶったリジアの両腕は強くリックをなぎ払った。

狭い廃墟の中で身動きの取れなかったリックは、そのままコンクリートの壁に激突する。

その隙をつき、光の速さでリジアに飛び掛ったロイルは、両手に携えた刀を振り上げる。

意識が薄れる中、ロイルの名を呼んだリックはゆっくりと意識を手放していった。





 刹那、何が起こったのか理解できなかったロイルは、ぐったりとした少女の人形が体にもたれかかり、ハッと二人から刀を引き抜いた。

体中の部品を撒き散らし、少女はその全ての機能を停止し、ごとりと床に倒れこんだ。

リジアはぽっかりと開いた腹をさすり、弱弱しく少女だった部品を蹴り飛ばした。


「…オリビア」

「全く、ジャンクの分際で…」


リジアの開いた腹から、詰めていたような部品がジャラジャラとあふれ出していた。

その流れ出た部品を拾い上げ、ロイルはその部品がリジアの物ではないことに気がついた。

ふと、オリビアが崩れた場所に手を伸ばす。そこには探し求めていたコアが埋もれていた。


「…お前は、オリビアの部品を搾取して生き延びていたジャンクだったのか…」

「違う、俺はジャンクなんかじゃ、ない」

「僕は普段ジャンクを手に掛けるほど残虐じゃない」

「やめろ、助けてくれ、おでは…」

「だが、ウィーゲルもさらって殺すつもりだった危険な人形を生かしては置けない」

「…だずげで…」

「生まれてきたことを、後悔しろ」


勢いよく振り下ろされた刀は、他の人形の部品を波のようにさざめかせ、リジアもまた

機能を停止して動かなくなった。



「それでもオリビアはお前を、大事に思っていたんだ…」






 「逃げろだと?」


差し出した右手に記されたのは、短い言葉だった。

リックの牢獄の鍵を開けっ放しのロイルの手に握らせ、オリビアは深く頷いた。


「しかし、お前はあんな奴といたいのか、僕と来れば…」


オリビアは静かに首を振る。

鍵が握られていた方の反対の手をそっと取り、オリビアはその手のひらに

自分の思いを記す。



リジアは私がいないと死んでしまいます。私の命であの人が救われるなら

私はそれで構いません。さあ、牢獄は下の階。私がリジアの気を引きますから

そのすきに逃げてください。


「…すまない」


オリビアは破損した顔を少しだけゆがめた。それはオリビアの精一杯の笑顔であった。






 ようやく意識を戻したリックは、馬車に揺られていた。

驚いたリックが急いで体を起こすと、鋭い痛みが駆け巡る。レニはリックをもう一度横たわらせて、リックを見下ろした。



「リックさん、貴方の行動はとても褒めれられたものじゃありませんね」

「あ、は、はい…すみません…」

「しかし、目的も果たせたことですし、そう、その勇敢さは評価に値しますね」

「あ、あのっ」

「…残念ながらあの幼児タイプの人形は大破しました。しかしそのおかげでコアが見つかったので、もうイヴンには調査に行かなくて済みました。」

「…えっ?死んだんですか?」

「はい、人間で言うところの死にあたります」


レニの淡々とした説明に、リックは絶望感を覚えた。自分が助けたかった対象が憎い人形だったからか、少女を助けられなかった無力さか、今のリックには分からなかった。

ふと、ロイルを見やる。恐らく人形を破壊したのは彼だったが、なんとなくリックは聞きだせずにいた。

ロイルはそんなリックの視線に気づいたのか、本に視線を落としたまま呟いた。


「お前の軽率過ぎる行動に、僕はめまいがするぞ」

「ご、ごめ…」

「不愉快だ、二度とあんなことがないように」


やたらと棘のある言葉で締めくくったロイルは、その先言葉を発することはなかった。

リックは渦巻く複雑な感情を整理できないまま、遅れてはいと返事をした。

しかしこの後、この言葉に深い意味があったことをリックが知るのは

随分先の話である。




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