一話
「なんで報酬額を上げてくれないんだ!!」
冒険者エトムントはカウンターに手を突きながら言った。その一言で先ほどまで賑やかだった冒険者ギルドは一瞬静まり返った。エトムントの後ろにはこれか依頼を受けようと並ぶ冒険者の列が出来ていた。エトムントはカウンター越しに受付嬢のクラーラと対面していた。クラーラはギルドマスターの娘であった。そのクラーラはエトムントに笑みすら向けていない。
「エトムントさん、基本報酬額に関しては冒険者各自の実績などを加味して決めております。そのため個別の苦情に関しては受け付けておりません」
クラーラは言った。説明を聞いていたエトムントは納得のいかない顔をしていた。
「基本報酬額の権限はギルドマスターの娘であるクラーラが持ってるだろ? だから少しだけでもいいから上げてくれよ」
エトムントは親友に向けるような口調で頼み込んだ。だがクラーラは表情も変えずに「無理な相談です」と言い返してしまう。エトムントは腕を組み眉間にしわを寄せた。
「ギルドがそういうなら俺は他の町のギルドに移籍するまでだ。中堅の俺が抜けるのはギルドにとっても痛いだろ?」
エトムントはクラーラの顔をじっと見詰めた。クラーラは困った様子すら見せずに口だけで笑った。
「素行の悪いあなたがを受け入れてくれるギルドなどこの町以外でないと思いますが違いますか?」
「それは……分からないだろ」
エトムントは乱れた表情を隠すように下を向いた。
「あなたの基本報酬額を上げる気はありません。他の冒険者が待っているので早く帰ってください」
クラーラがそう言うとエトムントは顔を上げた。エトムントは不安に溢れた瞳でクラーラを見ながら口を開き「せめて理由だけでも教えてくれよ」
クラーラはため息を吐きながらエトムントの後ろの方を見た。そこにはドーリスというエトムントよりも年下の冒険者がいた。ドーリスはエトムントの横に並んだ。ドーリスの顔は恋人と一緒にいるときの顔だった。
「浮気者」
クラーラは呟くとカウンターの奥へと消えていった。エトムントは目を見開き、カウンターの方に右手で首を伸ばした。だがそこにはもうクラーラはいない。エトムントが隣を見る。ドーリスは悪人を見るかのような目つきでエトムントを見ていた。そのドーリスはエトムントに向け尋ねた。
「『浮気者』ってどういうことかな?」




