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白銀の三姫  作者: suzuyumi
9/12

序章〜夜の報せ〜

夕飯の時間。

長いテーブルには、クーロとルツだけがいた。


「ティース姉様、遅いですね……」


ルツが時計を見上げる。針は約束の時刻をとうに過ぎていた。


「さっき部屋を見に行ったけど、まだ戻ってないみたい」


クーロは紅茶のカップを手にしたまま、動かない。

窓の外では、夜の帳が静かに降りていく。


「防壁の確認って、そんなに時間かかるんですか?」


「いつもは一時間もあれば終わるはずなんだけど……」


その時だった。

廊下の向こうから、慌ただしい足音が近づく。


「――っ、何?」


クーロが立ち上がる。

次の瞬間、扉が勢いよく開いた。


「ティース姫様が――!」


侍女の悲鳴が響く。

「ティース姫様がいらっしゃいません!」

声は震え、顔は真っ青だった。


一瞬、時間が止まった。


「……何を言ってるの?」


クーロの声は低く、震えていた。


しかし外の廊下では、すでに兵士たちが走り回っている。

怒鳴り声、剣の鞘がぶつかる音。

平穏だった城に、嵐のような喧騒が広がっていった。


ーーー


クーロとルツが駆けつけた時、ティースの部屋は混乱の渦中にあった。


倒れた椅子、引き裂かれたカーテン、砕けた花瓶。

部屋を満たすのは冷たい夜風と、残滓のように漂う魔力の匂い。


「どういうことなの……?」


ルツの声が震える。

答える者は誰もいなかった。


「下がれ」


静かな声が響く。

兵士たちが一斉に道を開けた。


ヴェルナーが現れた。

外套の裾を翻し、床の魔力痕を淡く光らせながら歩く。

その表情は険しくも冷静――まるで、全てを見通すようだった。


「……転移魔法の痕跡があります。高位の術式ですな」


「転移魔法……?」

クーロが息をのむ。


「恐らく複数犯。侵入の形跡がほとんどない。内部情報を掴んでいた可能性もあります」


ルツが蒼ざめる。

「内部……?」


「まだ断定はできません」

ヴェルナーは穏やかに言葉を押しとどめた。

「ですが、かなり計画的な犯行です。…ティース殿下は、意図的に狙われた」


「そんな……!」


ルツの瞳に涙が浮かぶ。

さっきまで一緒に笑っていた姉が、忽然と消えた。

その現実が、頭で理解できない。


「ティース姉様……」


クーロは唇を強く噛み、拳を握った。

机の上には、ティースが使っていた紅茶のカップがまだ残っている。

微かに温もりが残っていた。


「……すぐに捜索隊を出して。私も行く」


「クーロ様、それはお控えを」

ヴェルナーの声が低く響いた。

「敵の目的が姫様方であるなら、次はあなた方を狙うでしょう」


「妹が攫われたのよ! じっとしていられるわけない!」


一瞬、ヴェルナーの瞳がわずかに揺れた。

けれど次の瞬間には、いつもの穏やかな表情に戻っている。


「……くれぐれも、軽率な行動はなさいませんように」


「……わかってる」


クーロは短く答えたが、胸の奥に針のような違和感が刺さっていた。

それが何なのかは、まだ言葉にならない。


ヴェルナーは静かに窓の外を見やった。

夜風が外套を揺らす。

その横顔には、悲しみとも冷笑とも取れる影が、一瞬だけ過った。

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