序章〜夕暮れのお茶会〜
姉妹は約束通り、ティースの私室でお茶をしていた。
優雅な家具が並ぶ部屋の中央には、白いテーブルクロスがかけられたティーテーブル。
その上には、城下町の新しい店から取り寄せたケーキと、香り高い紅茶が並んでいる。
「このケーキ美味しい!」
ルツが幸せそうに頬張る。口の端にクリームをつけたまま、無邪気に笑った。
「城下の新しい店のものよ。評判がいいと聞いて取り寄せたの」
ティースが優雅に紅茶を口に運ぶ。
「ティース、あなた本当に何でも知ってるわね」
クーロが感心したように言う。
「姉様には敵いません。朝から訓練して、昼は政務に、夜はパトロール…いつ休んでるんですか?」
「えー、ちゃんと寝てるよ?多分」
「多分って…」
三人は笑い合った。
部屋の空気が、ほんの少しだけ和らぐ。
「…そういえば、最近気になることがあって」
クーロの声のトーンが少し落ちる。
「気になること?」
ルツがカップを置き、姉を見た。
「市中に、粗悪品の魔力緩衝石が出回ってるらしいの」
「粗悪品…?」
「そう。それが原因で体調を崩す人が増えてるって。今、調査中だけど出所が分からないのよ」
ティースの表情が険しくなる。紅茶を持つ手が、わずかに止まった。
「ヴェルナー…クラウゼ殿に調査を任せてるのね?」
「ええ」
小さな沈黙が落ちる。
カップの中で紅茶の表面が、静かに揺れた。
「実は、私も気になることがあります」
ティースが静かに口を開いた。
「何?」
クーロとルツが同時にティースを見る。
「防壁システムに、僅かな淀みを感じるんです。数値上は正常ですが…どこか違う」
「淀み…」
「危険なの?」
ルツの声が小さくなる。
「大丈夫よ、ルツ。まだ小さな異常だから」
ティースは優しく微笑んだ。だが、その笑みはどこか硬い。
「でも…」
彼女は窓の外に視線を向けた。
夕日が傾き、長い影が床を染めている。
「念のため、今日のうちにもう一度、現地を確認してきます」
「今から?」
クーロが驚いたように声を上げる。
「ええ。明日に再検査を予定していたんですが、気になって…」
ティースは立ち上がった。青いドレスの裾が、優雅に揺れる。
「ティース?」
クーロが心配そうに声をかける。立ち上がりかけたが、ティースが手で制した。
「夕飯までには戻りますから」
「気をつけてね」
「はい」
ティースはドアに向かって歩き出した。
クーロとルツは、その背中を見送る。
「姉様…最近、何か変ですよね」
ルツが小さな声で呟く。不安そうに、クーロを見上げた。
「…そうね。けど、大丈夫よ」
クーロはそう言いながらも、心の奥に小さなざわめきを感じていた。
窓の外では、陽がゆっくりと沈みかけている。




