表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
白銀の三姫  作者: suzuyumi


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

4/12

序章〜共鳴の教え〜

朝食後、ルツは書庫へ向かった。


今日の授業は、歴史と地理、それから共鳴魔法について。

担当は老魔法使いのロレンツだ。白い髭を蓄えた穏やかな老人で、ルツのお気に入りの教師だった。


「では、我が国シルバーグローブについて復習しましょう」


ロレンツが古い地図を広げる。

大陸の中央に位置する銀の国。その地図を見ているだけで、どこか誇らしい気持ちになる。


「シルバーグローブは、銀の産出で知られています。この銀、何に使われているか覚えていますか?」


「たしか、魔導具の核心部品や、魔力伝導装置に使われています」


「その通り。銀は魔力と仲が良くてね、力を増幅したり、暴走を抑えたりする。だから各国から引く手あまたなんです」


ロレンツは地図を巻き取り、別の資料を取り出した。


「そして、もう一つの誇り――月光茸です」


「月光茸…緑色に光るキノコですよね」


「ええ。近くの森でしか採れません。そこから作る薬が、魔法を持たぬ国々の医療を支えているのです」


ルツはペンを走らせながら頷く。

ティース姉様が言っていた“輸出管理”という言葉が頭をよぎった。

――姉様たちは、私なんかよりずっとたくさんのことを知っているんだろうな。


「つまり、我が国は銀と薬品、この二つで国を支えているわけです。……ルツ様、聞いておられますか?」


ロレンツの声が急に鋭くなる。ルツは肩をびくりと跳ねさせた。


「あ、はいっ! 聞いてます!」


「では、防壁システムを維持しているのは?」


「えっと……ティース姉様です!」


「ふむ、半分正解です。実際に運用しているのは魔法技術局という組織ですよ」


「そうなんですか…」


「ええ。あの防壁は、大戦のあとにつくられた古い魔法構造です。維持するには膨大な魔力と専門知識が要るんですよ」


ロレンツの声に、少しだけ重みが加わる。

防壁――あの、城を包む光の壁。

あれを動かす仕組みが、そんなに複雑だなんて考えたこともなかった。


「ルツ様。あなたはまだお若いですが、いずれこの国を支えるお方です。国の仕組みをよく学んでください」


「…はい」


言葉に力を込めて頷く。

早く、姉様たちに追いつきたい。並んで国を支えられるように。


歴史と地理の授業が終わると、ロレンツは別の古書を開いた。

表紙には銀色の文字で『共鳴魔法概論』とある。


「さて、いよいよ今日の本題ですね」


ルツの胸が高鳴る。

共鳴魔法――この言葉を聞くたびに、胸の奥がくすぐったくなる。


「共鳴魔法は、術者の魔力を他者と響かせて、その力を増幅する魔法です。王族の中でも、百年に一度くらいしか現れません」


「そんなに珍しいんですか?」


「ええ。才能というより“心”のあり方が深く関わるようです」


ロレンツは古書のページをめくる。そこには、淡い色で描かれた古い挿絵が載っていた。


「三百年前、エリシア王女という方がいました。彼女は共鳴魔法で治癒師たちの力を増幅し、戦場の兵士たちを救ったのです」


「癒しの魔法を使えなくても、人を救えたんですね」


「そう。彼女は自分にできないことを、仲間と共に叶えた。共鳴とは、そういうものなんですよ」


――“共に叶える”。

その言葉が胸の奥に静かに残る。


「そして百五十年前には、アルヴィン王子。彼は水の魔法使いたちと共鳴して、山火事を鎮めました」


「一人では消せない炎を、みんなで…」


「ええ。共鳴の力が本当に輝くのは、仲間と一緒にいるときなんです」


ロレンツが目を細める。


「ルツ様は風の魔法を得意としておられましたね」


「はい。でも、まだ小さな突風くらいしか起こせません」


「その風が、誰かの背中を押すことだってある。共鳴魔法と組み合わせれば、想像もつかないことが起きるでしょう」


ルツは無意識に息を呑んでいた。

――遠くの誰かを助けられる。そんな魔法があったら。


「けれどね、ルツ様」


ロレンツの声が低くなる。


「共鳴魔法は、感情で動く魔法です。誰かを守りたい、助けたい――そう願う気持ちが魔力と響き合い、力になる」


「感情で、魔法が…」


「そうです。技術や理論より、心の在り方が先にある。そこが、他の魔法と違うところですね」


ロレンツは本を閉じ、静かに言葉を結んだ。


「ただし、“強く思っても”発動しない者もいました。共鳴は、心が一方通行では起こらないのかもしれません」


「……相手の気持ちも、関係するってことですか?」


「さあ、それは誰にも分からない。ただ一つ言えるのは――焦らずに学びなさい、ということです」


ルツは小さく笑った。

「はい。ありがとうございます」


書庫を出ると、胸の奥が少し温かい。


共鳴魔法。

もし私がそれを使えたら、姉様たちの力にもなれる。

……そんな日が、いつか来ますように。


ルツは胸に手を当て、静かに歩き出した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ