間話1〜別れの前夜〜
ルツが覚悟を決めた夜。
クーロの執務室からルツが「おやすみなさい」と言って出ていった。
扉が閉まると同時に、アスリルが低い声で切り出した。
「おいクーロ、話が違うじゃないか。エイトを護衛につけるんじゃなかったのか?」
「今変えた」
「お前が城に、一人になるじゃねーか」
クーロは窓の外を見たまま答えた。
「分かってる。……だから、あなたに手紙を渡したんでしょ」
「…本気か?」
「本気」
「二人でおんなじ返事しやがって……」
アスリルは深く息を吐き、頭を掻いた。
クーロはようやく振り返り、いつもの笑みを浮かべる。
「……お願いよ、アスリル。ルツとティースを頼むわ。あなた以外にも、優秀な人材は多いもの。こっちは何とかなるわよ」
「誰が内通者か分からないのに、何が大丈夫なんだ!」
声が荒くなる。
クーロの笑みが、少しだけ翳った。
「…分かるわよ。ここに証拠は無いけれど、必ず捕まえてやるわ」
「それに……」
アスリルは珍しく、言葉を選ぶように間を置いた。
「クーロが暴走したら誰が止めるんだよ」
「そうね……ティースもアスリルも居ないんじゃ、誰も止められないわね」
クーロはあっさりと認めた。
その口調は軽いが、目は笑っていなかった。
沈黙が落ちる。
月明かりが、二人の間に細く伸びていた。
「しばらく安心して眠れないだろうから、今夜は1人でゆっくり寝かせて」
クーロが静かに告げる。
アスリルはしばらく彼女を見つめていたが、やがて扉へと向かった。
「………また明日な」
「また明日ね、おやすみ」
扉が閉まる音。
一人残されたクーロは、窓辺に立ったまま動かなかった。




