表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
白銀の三姫  作者: suzuyumi
10/12

序章〜三日後の決意・姉妹の約束〜

捜索は難航していた。


城の捜索隊は国境付近まで調べたが、手がかりはほとんどない。

ティースの行方は知れず、日が経つほどに希望が遠のいていく。


クーロは不眠不休で指揮を執っていた。

目の下の隈は深く、ペンを手にしても、その手がかすかに震えている。

それでも彼女は立ち止まらない。命令を下し、報告を受け、再び命令を下す。


一方ルツは、ほとんど部屋から出なくなっていた。


窓辺に座り、灰色の空を見上げながら、同じ言葉を繰り返す。


「ティース姉様…どこにいるの…」


声は小さく、風に溶けて消える。


三日前のお茶会が、遠い夢のように感じられた。

あのとき、もっと話せばよかった。

笑っている姉の横顔を、もっと見ておけばよかった。

後悔だけが、胸の奥を焦がす。



――


「ルツ」

「ティースねぇさま!」


――これは、いつの記憶だろう?

ふと思い出す幼少期の姉との記憶。


声をあげて泣いていると、姉が優しく手を繋いでくれた。


「大丈夫だよ、ルツ」

「でも…。ねえさまたちみたいに、ぜんぜん魔法が出ないんだもん…」


魔力は多くないけれど、魔法の扱いが上手く、武芸だって兵士に劣らぬクーロと、将来はこの国一番の魔法使いと言われるティース。


二人のようにできないことが悔しくて、ぽろぽろと泣いている自分。

魔力も、技術も、まだまだ足りない事が、悲しい。


「ルツ。私たちはお姉さんだから、ルツよりも長く練習してるんだもの。ルツだって、私くらいになれば、もっと上手になってるわ。だから、泣かないで?」


ティースが、ハンカチで涙を拭いてくれる。

繋いだ手が温かい。


「クーロお姉様が毎日剣を振るように、ルツも毎日魔法を使ったら、きっと…」


視線を上げて姉をみる。

ニッコリ笑うティースは、ただの慰めではなく、本当にそう思っているのだと思わせてくれた。


「だから、諦めないでね」


――姉の声が遠ざかる。

…ほろりと溢れる涙を拭ってくれる姉は、いない。


「…このままじゃダメだ」


ルツはゆっくりと立ち上がった。

涙を指先で拭い、震える足を叱咤するように踏み出す。


向かう先は、クーロの執務室。


姉を救いたい。

ただ、それだけの想いが、彼女の背を押していた。





「ダメよ」


クーロは即座に首を振った。


「でも姉様! 城の捜索隊じゃ限界があるって…!」


「だからって、あなたまで危険な目に遭わせるわけにはいかないわ」


執務室には、クーロとルツ、そしてアスリルがいた。

ルツは拳を握り、必死に食い下がる。


「私、もう子どもじゃない! ティース姉様を助けたいの!」


「ルツ…」


「お願い、私に行かせて」


その瞳には、もう怯えも涙もなかった。

燃えるような決意だけが宿っている。

三日前、泣いてばかりいた少女の面影は、そこにはなかった。


クーロはしばらく黙っていた。

静かに息を吐き、疲労の滲む表情を上げる。


「…本気なのね?」


「本気」


短く、強い声。

その瞬間、姉妹の間にひとつの覚悟が交わされた。


クーロはアスリルに視線を向けた。

彼は何も言わず、静かに頷いた。


「…わかったわ。でも条件がある」


「条件?」


「アスリルを連れて行くこと。彼なら、あなたを必ず守ってくれる」


「クーロ様…」


アスリルが小さく驚いたように目を見開く。


「お願い。ルツを、頼むわ」


クーロの声は、いつになく柔らかかった。

それが、祈りにも似ていた。


アスリルは膝をつき、深く頭を下げる。


「……承知しました」


ルツは姉の手をぎゅっと握った。


「ありがとう、姉様。絶対にティース姉様を見つけてくる」


「気をつけてね。何かあったら、すぐに戻ってきて。約束よ」


クーロは微笑んだ。

けれどその笑みには、どこか翳りがあった。


「姉様?」


「……ううん、何でもない。荷物の準備、手伝うわ。…だから今日は、もう部屋に戻りなさいね」


クーロは立ち上がり、背を向けた。

その肩が、ほんの少しだけ震えていた。


窓の外では、冷たい月が静かに光っている。

新しい夜が、姉妹を分かとうとしていた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ