表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

4/37

第二話2

 〜リシェルSide~


 港町のギルドは、夜明け前の青とランプの光が交じり合い、人々のざわめきで満ちていた。

 深夜に依頼を終えた者、これから動き出す者――笑い声や足音がひっきりなしに交差している。


「依頼の件だが、解決した」

 シオンは淡々と報告書をカウンターへ置く。

 受付嬢は慣れた手つきで確認し、軽く微笑んだ。

「はい、依頼主からのサインを確認しました。お疲れさまです、シオン様」


 そのやり取りに、シオンの視線は自然と受付嬢と書類に向けられ、隣に立つリシェルを振り返ることはない。

 ただ、この流れが当たり前なのだ。


 それでも――リシェルの胸の奥には、ひやりとした隙間風が吹き込んでいた。


 つい先ほどまで、2人での依頼達成に高揚感と共に、並んで歩く温もりを確かに感じていたはずなのに。

 今は、その距離が急に遠くなったように思える。


「それと――」

 シオンが袋から水晶と指輪を取り出し、受付に置いた。

「効果の分からない魔道具と魔物を集めていた原因らしい指輪だ。持ち主は不明だが、倉庫の奥で見つけた。で、これがそこにあった書類。後の調査は任せる」


 受付嬢は慎重にそれを布で包み、深く頷いた。


「シオン様、大変貴重な情報、感謝いたします。今後コチラで調査をすすめます。」


 その言葉もシオンへ向けられ、リシェルの名は出ない。

 事務的なやり取りの中で、自分の存在は影のように扱われる。


 胸の奥に募るのは、ただの承認欲求だ。

 自分の名を、功績の証として呼ばれたい


その一心。


 しかし、淡々と進むやり取りを見ているうちに、ふと痛みを伴う諦めが胸に落ちた。


(……ほんとに私は彼の所有物でしかないのね)


 夜明けの空気は少し冷たく、先ほどまで感じた温もりはもう手の中にない。


 リシェルは、少し後ろでその光景を眺めていた。

 ギルドの喧騒の中、報告を終えるシオンの背を――諦めに似た感覚で。

 以前のように自分の声はこの場では届かないのだと、半ば受け入れていた。


 つい、シオンから視線を合わせないように、顔を逸らす。

 この距離なら、きっと気づかれずにやり過ごせる――そう思った、その時。


「……なんで、後ろにいるんだ?」

 響く声に、心臓が跳ねた。

 顔をあわせなくても分かる。視線が、自分に向けられている。


「……私は、所有物だから」

 自嘲混じりにそう言い放つと、シオンは小さく鼻を鳴らした。


「……バカだな。俺は…」


シオンは低く呟くと、自分の頬を拳で打った。乾いた音に私は思わず息を呑む。


「――なにを……」反射的に声が漏れた瞬間、彼は私をまっすぐ見た。


「リシェル――俺はお前がいてくれて本当によかったと思ってる。だから自嘲しなくていい。君はとても素晴らしい人だから。いつも本当に……感謝してるんだ。」


その言葉に、視界が揺れる。

わけがわからない。

だって――。


「……ほんと理解できない! なんでそんなこと言うの!? 散々、荷物だとか、物だとか、所有物だって言ったじゃない!

私が荷物だって認めたら、それでよかったんでしょ!? なのに、なんで……!」


涙があふれ、声が震える。


「私は……私は私でいいの? 貴方の所有物じゃなくても……いいの?」


シオンはただ真っ直ぐに見つめてきた。


「リシェルはリシェルだ。それ以上でも、それ以下でもない。俺が間違ってた。……ごめん。」


謝罪の響きが耳に届いた瞬間、心臓が跳ねた。


――なんで。なんでそんな辛そうに言うの。

わからない。ほんとに、わからない。


「なんで……そんな顔すんのよ! わかんないよ! ほんとにわかんない! 私なんて、ただの荷物で奴隷じゃない!」


自分でも制御できない声が震えながらほとばしる。

そんな私に、彼は胸の奥から絞るように言葉を重ねた。


「俺は……俺は君が気高くて、強くて、優しい人間だって知ってる。本当はこんな扱いを受けるべきじゃないって、ずっとわかってたんだ。だから……自分のことを蔑まないでくれ……。」


その瞬間、胸の奥で何かが崩れ落ちた。


――肯定。

ずっと、欲しかった言葉。

この街に来て「所有物」と言われたあの日から、ずっと。

だから私は「所有物」と自分を呼んで逃げた。

でも、今――その言葉を口にした自分が、ひどく浅ましく思える。


「……あ、ぁ……」


息が震える。安堵と混乱が同時に押し寄せ、胸を溢れさせる。


「なんで……なんでそんな必死に……わたしなんかのために……」


涙が止まらない。

でも、その声に宿る熱は私を満たしていく。


胸の奥深くで――そして下腹部に刻まれた隷属紋が脈動する。

じわりと、熱く。

焼きつくように。

まるで彼の言葉に応えるように。


 その充足感は、同時に甘く痺れるような熱となって全身に広がっていく。

 胸元の奥深くと、下腹部に刻まれた隷属紋が同時にじわりと脈動し、鼓動に合わせて焼きつくように反応を強めていった。

 

 ――こんなの、今までなかった。


 確かに、これまでもシオンの命令に対して隷属紋は反応し、その作用は日を追うごとに強く私の中にのこっていた。

 だが――今回は違う。

 正面から告げられた言葉が、胸の奥に長く渇いていた承認欲求を、容赦なく満たしてしまった。


 その瞬間、紋が同時に脈打ち、互いに呼応し合った。

 熱は鎖のように私を絡め取り、逃げ場を奪っていく。


「?!リシェル? 大丈夫か」


 いつものふてぶてしいほどに平常運転の彼が焦った顔で私を見つめている。ふふ、今日は色んな表情を見せてくれる。


 それを認識した瞬間、体に強い衝撃が走る。

 耳に届いたシオンの不安をにじませる声が、追い打ちのように胸を突き抜けた。


 まだ膝は折れていない。だが立っているのが精一杯で、両腕を体に回し、必死に自分を抱きしめる。

 

 片腕を顔に押し当て、視界を遮るように覆い、指先が髪へと滑り込む。

 指が無意識に髪を掴み、きつく握りしめるたび体が震えた。

 やがて、体内で雷が弾けた。

 背骨を貫く衝撃が、頭の先から足の先まで一瞬で駆け抜ける。


 混沌の中、リシェルの意識は音もなく、深い闇に沈み込んだ。


〜シオンSide〜


シオンは、のけぞるように気絶したリシェルの身体を支えた。何もせずに床へと落とすわけにはいかない。

結果、リシェルは無様な姿を周囲に晒すことになってしまった。


「……ツレがすまない。」

シオンは低くそう告げ、腕の中のリシェルを抱え、無言のままギルドを後にした。


やがて、宿の軒先に灯る明かりが見えてくる。

シオンは扉を押し開け、木の香りと暖かな空気が外気と入れ替わる。

静まり返った店内の空気がわずかに揺れた。


「……あら……! シオンさん、おかえ……っ、どうしたの?!」


カウンターに立っていた宿の女将は、声の途中で言葉を飲み込み、目を見開いた。

腕の中のリシェルを一瞥し、その顔から血の気が引いていく。


「部屋を……頼む」

シオンの声は低く、短く響く。


女将は一瞬だけ言葉を探すように息を呑んだが、すぐに頷き、二階の部屋の鍵を差し出した。

その目には驚きと戸惑いが浮かんでいたが、事の重大さを悟ったのか、それ以上は何も聞かず、すぐに準備へと動いた。


シオンは女将から鍵を受け取ると、無言のまま階段を上った。

部屋の扉を開け、ベッド脇まで歩み寄る。

シオンはそっとリシェルをベッドに横たえた。

軽装の布地は肌にぴたりと貼りついていた。


ため息をつきながらも冷えきった褐色の肌に乾いた布を滑らせ、肩から腕、腹部へと丁寧に水気を拭っていく。


シオンは冷え切った肌を丁寧に拭き、湿った服を脱がせて柔らかな部屋着へと着替えさせる。

体の汚れは綺麗にしてやれても、メイクの崩れや、乾いて固まった髪の汚れは、今はどうすることもできず、そのままにした。


彼女をベッドに横たえ、毛布をそっと掛ける。

ランプの明かりが静かに揺れる中シオンは一度部屋を出た。


〜リシェルSide〜


まぶたが重く開く。薄明かりの中、見慣れぬ天井がぼんやりと視界に映った。

 

 ――シオン。

 その名が、何度も胸の内に浮かび上がる。

“所有者”である彼を求めるように、私の手は勝手にシーツの上をまさぐっていた。


だが――隣にはいない。


 急に胸が締め付けられ、喉の奥が詰まりそうになる。


 視線を巡らせると、部屋の隅、椅子に腰掛けて眠る彼の姿があった。

 その瞬間、全身の力が抜ける。安堵と同時に、頬がさらに熱を帯び、呼吸が乱れる。


 朝方のギルドでの醜態――そして今の自分の状態。

 そこから、何が起こったのかはおおよそ察しがついた。隷属紋の効果が発露し、情動が抑えられなくなっているのだと。理解はできても、収まる気配はない。


 ふと、正面の壁に掛けられた鏡が目に入った。ベッドに腰掛けると、そこに映る自分がはっきりと見える。

 髪は濡れたまま絡み、化粧は滲み、瞳は潤みきって紅潮した頬――

 「……こんな私じゃ……好きでいてもらえない……」

 言葉にした瞬間、自分の口から出た台詞に愕然とする。

 以前の自分なら、絶対に言わなかった


 その時、椅子に座っていたシオンが目を覚まし、こちらを見た。

 シオンは、しばらく黙って私を見つめ、何かを理解したように堪える表情で命じた。

 「……俺に従え」


 胸の奥で、何かがはじけた。


翌日


 ――朝の光が、頬をそっと撫でた。

 まぶたを開けた瞬間、全身に広がるのは微かな疲労と、じんわりと甘く痺れる余韻。

 

 あれは、隷属紋の効果がまだ残っていたせいだろう。理性よりも、求められたい衝動が勝っていたのだと、今なら分かる。

 

 そんな私を彼は確かに救ってくれた。

 やり方は荒く、命令という形ではあったけれど、その隷属紋を利用した事に私は彼の不器用な愛を感じた。


理由を付けて逃げ道を用意してくれたのだから。


 そして今。

 体の奥に残る熱と痺れは、昨夜から今朝にかけてのすべてを物語っている。

 昨日の朝と同じひどい姿なのに、そこにあるのは惨めさではなく、胸を満たす温もり……その認識が怖い。

 怖いのに、彼を手放したくないと、心のどこかで強く願ってしまっている。今この瞬間、私はたしかに彼を――シオンを、愛しいと感じていた。


 胸の奥に、やわらかく、しかし確かに熱を灯すような感情がある。


 けれど、彼が目を覚ましたら……そんな素振りは、きっと微塵も見せないだろう。

 私は、そういう人間だ。

 強がりがいつも勝ってしまう。

 素直に「愛しい」と口にすることも、表情に出すのも苦手だ。


挿絵(By みてみん)


 ふと、上半身を起こし、ベッドの上で膝を抱えて座る。

 目の前で眠るシオンを、少し高い位置から見下ろす形になった。

 

 伸ばした指先が、そっと彼の頬に触れる。

 体温が、指先から胸の奥まで、ゆっくりと伝わってくる。

 ――ああ、この温もりを私は知ってしまった。


 静かな寝息。わずかに動く睫毛。

 それだけで、胸の奥に張り詰めていた糸が、すこしずつ緩んでいくのが分かる。


 「……ほんと、ずるい」

 気づけば、息をこぼすみたいに小さく呟いていた。

 シオンはもちろん、何も聞こえていない――はず。


 頬から手を離し、再び膝を抱えたまま、彼の横に腰を下ろす。

 起きたら、私は澄ました顔をするんだろう。

 こうして頬杖をついて見つめるなんて行為、自分が絶対に許さない。


 でも……いいか。今はまだ夢の中だし、バレやしない。


 ……こうしてると、なんだか、昨日までの怖さもどうでもよくなる。


 ふと、そんな気がして、唇の端が自然と緩む。

 もしかしたら、このままもう少しだけ、彼が起きないでいてくれたら――なんてことまで考えてしまった。


「……満足したか」


 ――え?

 唐突に耳に落ちてきた声に、心臓が一瞬で跳ね上がった。

 見ると、シオンの瞳が、すでにこちらを捉えている。


 「な、なな……っ、ちょっと! いつから起きてたの!?」

 言葉が裏返りそうになるのを、必死で押さえながら問い詰める。


 「『ほんと、ずるい』って言われたあたり、かな」

 軽く笑みを浮かべながら告げられ、耳の先まで熱くなるのが分かった。


 「っ――!! き、聞こえてたの!?」

 「はっきりと」

 「~~~~っ!!」

 羞恥で膝を抱えたまま、枕に顔を埋めてジタバタする私を、彼は愉快そうに眺めている。


 「……なんだよ。寝顔を見るのは平気で、人に見られるのは恥ずかしいのか?」


 「ち、ちがっ……そういうんじゃなくて!」


 「じゃあ、なんなんだ?」


 「う、うるさい!!」


 口では反発しているけれど、顔の熱はどうにも収まらない。

 そんな私の様子を見て、シオンは少しだけ表情を緩めた。


 「……もう大丈夫だな」


 その一言が、胸にすっと染み込んだ。

 昨日までの私を知っていて、今日の私を見て、そう言ってくれたんだ。

 驚きと、気遣われた嬉しさとで、胸の奥がじんと熱くなる。


 「……別に、あんたに心配されるほどじゃないけど」

 それでも、悪態はついてしまう。

 彼は「はいはい」と短く返すと、ベッドから起き上がり、私の頭に触れた。


 「準備できたら来いよ」


 そう言ってさっさと準備を整えて部屋を出ていく。その背中が、妙に頼もしく見えたのは――きっと気のせいだ。きっと気の所為に違いない。


 素直になれない自分がまだそこにいた。


 扉が閉まってから、私はしばらく膝を抱えたまま、耳まで熱を帯びた顔を隠していた。


 ……あれ?


 気づけば、部屋には私ひとり。

 いつもなら「お前も来い」と連れ回すくせに、今日は私を置いて行った。


 ――部屋に残された。

 そう言えば最初の朝もそうだった。私が時間を必要としたときは残してくれる…。

 そのどうでもいいような不器用な事実に、笑みがこぼれまた胸が温かくなった。。


 別に、放っておかれることが嬉しいわけじゃない。

 でも、これは……。


 「……ふふ」

 頬が緩んでいるのを自覚し、慌てて引き締める。


 部屋の別室にある洗い場へ向かい、備え付けられた水の魔道具から桶に水を汲む。

 冷たい水をざばっと頭からかぶると一気に流れ落ちた。

 髪を指先で梳きながら石鹸を使いしっかりと洗う。顔も、首も、腕も、足も、丁寧に擦る。

 これ以上彼に恥をかかせられない。かかせたくない。その思いからしっかりと洗い流していく。

 何度か水をかけ直し、最後は布で水気を拭き取った。

 肌に触れる布の感触が、さっぱりとした清涼感を引き立てる。


 部屋に戻り鏡を覗き込むと、全て洗い流した素のままの私がいる。なんだか今までの出来事を暗示しているようで不思議と笑えた。


 机の上には、いつの間にか私の服がきれいに畳まれて置かれていた。


 これはいつからあったんだろうか?その存在にまったく気付いていなかった。あの後、彼が戻ってきた様子がないところを見ると前から準備してあったのだろう。


 昨日の事を考えれば彼はまともに寝ているのだろうか。防具の手入れなんて簡単にできるものではないのだから。なんだかより胸が温かくなった。


 新しいショートパンツと真新しいシャツ、丁寧に手入れされたいつもの防具。

 そして、その上には見慣れない丈の短い長袖ジャケットが添えられている。


 「ふふ、これ……着ろってこと?こういうのが好みなの?」

 誰もいない虚空につぶやき口元に小さく笑みが浮かぶ。

 素直に嬉しい気持ちを隠しきれず、指先で生地の感触を確かめる。

 軽く羽織ってみると、思った以上にしっくりと馴染んだ。


 化粧を整え、髪を乾かし、前髪を整える。

 心も服装も、すっかり切り替わった気がした。


 ――鏡に映ったのは、昨日とはまるで別人だ。

 金の髪は艶やかに揺れ、褐色の肌は健康的な輝きを放つ。

 アイシャドウに縁取られた琥珀色の瞳は、意志の強さと艶やかさを同時に宿し、

 紅を差した唇は誰の視線も奪うだろう。


 「よし、完璧!」

 腰に手を当てて満足げにうなずく。


 散らかった部屋を片付け、2本の短剣を腰に佩く。

 そこに立っているのは、一流の冒険者――リシェル。


 変わったことがあるとすれば……リシェルの中で大切に思う存在がひとり増えたということ。

 それが弱さか強さかはまだ分からない。

 でも、彼のおかげで確かに心は軽い。


 「……さて、行くか」

 軽く息を吐き、私は扉の向こう――シオンの待つ場所へ向かった。



〜シオンSide〜


宿屋の食堂は、朝の光に包まれていた。

 窓際の席でパンをちぎり、スープをすすりながら、俺は背後の扉をちらと見る。


 少し前――

 「準備してから来い」

 そう言い残して、俺は部屋を出た。


 ――そして今。


 「おまたせ」


 後ろからかかった声に振り返れば、すっかり身支度を整えたリシェルが立っていた。

 金の髪は朝日に照らされ、艶やかに揺れている。昨日の乱れが嘘のように美しい女。

 本人は気づいてないだろうが、入ってきた瞬間、食堂のあちこちでスプーンの動きが止まり、視線を集めていた。


 俺は黙って椅子を引いてやる。

 彼女は軽く礼をして腰を下ろし、香ばしいパンの香りをひとつ深く吸い込んだ。


 「……で?これからどうするの?」

 リシェルの問いにパンをかじりながら、俺は切り出す。

 「食ったら出発するぞ」


 「え、また? 来たばっかりじゃない」


 「……変な噂が立ち始めたからな…」


 その言葉に、リシェルの手が一瞬止まる。

 具体的には言わないが、冒険者連中を中心に広まってしまった“リシェルの噂”。

 

 笑い話にする者もいれば、いやらしい目で見る者もいる。

 それは、彼女を静かにけれど確実に蝕むだろう。


 「……そんなの、どうでもいいじゃない」

 努めて平然を装う声が、わずかに揺れているのを聞き逃さない。


「どうでもよくねぇよ。」


 そう言って、わざと肩をすくめてみせる。


 「……私のせいよね…?」


 「さあな?」


 「…ごめん…」

 

いや、違う。それは俺のせいだから…お前は…悪くない……だけど、それをうまく言葉にできない…


 「…だったら、…おれ…おあいこだな」


飛び出しだのは意味不明な言葉だった。

おあいこ?なんだそれ?意味不明だよな。自分で言葉にしておいて笑いそうになる。


出てきた言葉がこれって…なんなんだ、まじで。


 「……何それ。」


ほんとその通り。


 「山分けだ」


 パンをちぎりながら、軽くごまかす。正直うまく言葉になってない気がする。思考がまわらない。


 「山分け……?!意味不明だけど。ろくでもない話を半分ずつって嬉しくないし」


はは、そりゃそうだな。


 「じゃあ、俺の分は全部やる。」


ようやく自分の気持ちが落ち着いてきた。


悟られちゃダメなんだ。悟られちゃダメなのか?俺は…どうしたいんだ………?


 「絶っっ対いらないっ!」

 即答したその声に、つい笑ってしまう。

 するとリシェルもつられて笑い始めた。


 「あ、笑った」


輝くような素敵な笑顔だった。その表情に正直ホッとした。

 

 「別に、笑ってないわよ」


不味い…本気で可愛い……、あぁダメだ……彼女に嫌われたくないと思ってる…恨まれたくないと思ってしまってる…。


 「笑ってたよ。ホントいい顔で笑ってた。」


 そうは言ったが、ただ顔から目が離せないだけだ…。彼女は視線を逸らしてパンをかじる。


 「……あんた、ほんと性格悪い」


ホントそうだな。だから…


 「褒め言葉として受け取っとく」


 呆れたようにため息をついたリシェルの頬に、柔らかな色が少しずつ戻っていく。

 少なくとも昨日より、胸の奥の重さが少しでも軽くなってくれていればと願う。


 「……で、プランはあるの?」

 パンを食べ終えて、リシェルが水をひと口。


 「そうだな……このまま北の峠を抜けて、商人の街まで行こうと思ってる」


 「へー。商人の街なんて楽しそうね。」


 「道のりは険しいからな、無理そうなら言えよ?」


 「ほぉ?この私が?無理?言ってくれるわね」

 リシェルはどこか楽しそうに笑う。


 「まぁ、退屈はさせないルートになるよ。俺が一緒だからな。」


 「はいはい、自信家なご主人様の仰せのままに」


 そんな軽口を交わしながら、俺たちは皿を空にし、席を立った。


 次の行き先も決まった。

 あとは、歩き出すだけだ。

読んでくださり、ありがとうございました。

最終話まで無事に書き上げることができましたので、テンポよく投稿していければと考えています。最終話までは1日1回投稿予定です。


褐色肌でメイクの濃い女性キャラってお色気要員だったり助言を与えて自分は去ったり、凄腕なのに途中であっさり脱落したりと正ヒロインの座になかなかいないことが多いいんですよね。なのでヒロインになってもらいました。

外から見て強い女性も女の子なんだよーって言いたくて。キャラブレしてるように見えるかもしれませんがそれは自分の表現力不足です。


でも、友達に見せる自分、家族に見せる自分、恋人に見せる自分ってそれぞれ違うじゃないですか?

そんな風に多面性があって強い女性も可愛い女の子の部分があるんだと書き表せれてたらなと思っています。


最終話まであと2話。

文章量は多くなるので分割して掲載します。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ