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後日談5

エルシェリアがベアレスへ戻って二週間。慌ただしかった縁談や結婚式も無事に終わり、王城にもようやく日常が戻りつつあった。


そんなある日、エルファリアは母シェリファの部屋を訪ねていた。


「はぁ〜、さみしくなりましたわね。お母さま」


「そうね…。あの子が戻ってきた時は大騒ぎだったものね」


「シオン様はお元気でしょうか?」


唐突な問いに、シェリファは首をかしげる。


――なぜ、姉の夫の安否を気にするの?


「えーと、ファリア?シェリアじゃなくてシオン殿のことが気になるの?」


「はいぃ。素敵な殿方でしたわねぇ。お姉様にピッタリでした」


その言葉にシェリファは胸を撫で下ろす。姉妹で夫を取り合うなど想像もしたくない。


「はぁ〜、私もああいう方がいいですわ」


「そ、そうなのね…」

――“あの方”ではなく、“ああいう方”。危なかったわ。


エルファリアはふと思い出したように言った。


「そういえば、アルバ国に行った時に海に落ちた話はしましたっけ?」


「……え?聞いてないわよ? 落ちたの!?」


シェリファは思わず声を上げる。父王には決して言うまいと姉妹で口止めした案件だ。


「はい。あの頃なぜかお義兄様を疎ましく思っていて…。後で聞いたらフレイグ様に誘導されていたそうで。それでお義兄様に貴族のあり方を説こうとしたら、足を踏み外してそのままドボンと」


「……!」


シェリファは愕然とした。海は魔物の領域。まともな対策なしに落ちれば、数秒と持たないはずだ。


「えっと…水騎士の方でも近くにいたの?」


水騎士――特殊な加護を持ち、水中戦を可能とする国の要職。しかし、娘は首を振る。


「いえ、騎士はいましたけれど水騎士と呼べる方は一人も」


――じゃあどうやって!?なぜ生きているの!?


シェリファの心は叫んでいた。


「エルファリア?夢でも見たのでは?」


「何を言ってるのですか。夢だなんて――…でも、夢なら何度でも見てみたいですわ」


とろけるような笑顔を見せる娘に、シェリファはますます頭を抱える。


「で、結局どうなったの?」


「あら、話したつもりでした。失礼しましたわ」


――大丈夫なのかしら、この子…。


「私が落ちたところを、お義兄様がすぐに飛び込んで助けてくださいましたの。絶望して震える私の頭を、こんなふうに撫でてくださって…その後、海中から水上へポーンと打ち上げられ、お姉様の魔法で受け止めてもらったんです」


「……は? シオン殿が海に飛び込んだ!?」


「はい。命を投げ出したのかと思ったら、自力で海面から飛び出して…。しかも海にはおびただしい数の魔物の死体が浮かんでおりまして」


水中で?一人で?おびただしい?


は???


そう言えば二つ名持ちだと言っていた。槍聖トーラスも簡単にいなしていた。


彼がそれほどの使い手だったとは思いもしなかった。


「あー、お義兄様みたいな旦那様が欲しいですわ。」


え~と、これはあなたシオン殿と結ばれたいにしか聞こえないのですけれど…。あの子エルシェリアが私共に話すなと言ったのはこの子の現状を考えてでは?


いえ、私もこの話は聞かなかったことにいたしましょう。本人も正確な感情には気づいていないようですし、シオン殿のような方に会えれば自然と変わりましょう。


…いるのかしら…。


いや、そもそも冒険者はダメだ。シェリアが既にそちらを選んだのだからこの子にはそれなりに家格のある方と一緒になってもらわなければ…。


「そう言えば、お母さま!!!お義兄様が私を命がけで守っていただいたことを思い出して思い出したのですが…。」


「……思い出して思い出したのね。」


いや、あえて『シオン殿が命がけでエルファリアを助けた』のを思い出したと言う必要はないのではなくて?


「ラトリア国の冒険者の実話で真祖のヴァンパイアロードを討伐した真実の愛を貫いた演目があるのはご存知ですか?」


「真祖を討伐?!英雄ではありませんか。北方でそのような英雄が現れたのですか?」


「はい。そう伺いました。エレナ様がそのうちの一人だと仰っていて。帰りの船でお話を聞こうと思ったらその話は恥ずかしいのでやめてくださいと断られました。ですが、真祖討伐は真実らしくエルメキア様が保証してましたわ。きっと、あの物語のヒロインはエレナ様がなんだと思いますわ。ヒロインの名前もエルナでしたし…」


なんて情報のオンパレード…。


この話が本当なら北では大きな事が起きているはずだ。場合によっては国の、領土面積が変わるほどの…。エルシェリアが伝えなかった意図は何となく分かる。


私たちを気づかって心配をかけまいとしたんだろう。シオン殿もかなりの使い手のようですし。それにしてもエルファリア!!


あなたはもう少ししっかりしなさい!!!


北の情勢が動いてると感じて素早く私たちに伝えるべきでしょう!


「お母さま、劇団呼びませんか?エルメキア様がいうにはほとんど脚色がないとのことで嘘っぽいとこほど全て真実だと仰っていていましたわ。」


嘘っぽいところが全て真実?これは確かに一度見てみたほうが良さそうですわね。


「わかりました、エルファリア。あなた、劇団に心当たりはありますか?」


「えーと、クリスティアナ様がこちらを。もし劇団をお探しなら、この劇団をお使いくださいと仰っていてましたよ。何でもここの近くに来ていてほとんど真実の物語が見れると評判なんだとか。一番脚色が少ないストーリーらしいのですが、それが一番面白いですって。」


「ほぉ、分かりました。探してみましょう。」


その2日後、クリスが紹介した劇団が近くで見つかりすぐに王城へと招かれた。


結界、シオンとリシェルの物語はルーメン王国のロイヤルファミリーが大絶賛。


初公演の日にはシェリファが涙を流しながら立ち上がり拍手で称賛した程だった。

その後七日七晩公演は繰り返されシェリファの取り計らいで王城に務めるすべてのものがこの公演を見るように義務づけられた。それこそ公演時のシフトは徹底的に調整されすべてのものが見ることができた。


初の公演が終わった日、またシェリファとエルファリアは共にいた。


「お母さま、いかがでしたか?」


「良かったわ…とても良かった…。最後にあの2人が結ばれたのには涙が出たわ。」


「そうですよね。一途でヒロインに真剣で…。」


「確か名前はロックとエルナだったかしら」


「ええ。きっとエルナはエレナ様ですわ。1字しか変わりませんもの。」


――だが“ロック”という名前に、シェリファは微かな引っかかりを覚える。


「その殿方、各国の姫から狙われているそうですわ」


「第二夫人狙い、ということね」


「はい。でも、一度はお会いしてみたいですわ。そして、お義兄様とどちらが上か見定めてやります!」


なぜシオン殿を引き合いに出すの?

無自覚なのだろうが、母としては不安でたまらない。


シェリファは悩んだ末、決意する。


「いいわ。調べましょう。その殿方が誰なのか」


エルファリアを嫁がせるため――そう考えたのだ。


そして一ヶ月。ルーメン国ソレイユでは、真祖討伐の公演を誰もが目にできるようにと一般公開され、公演料も無料とされた。それは王から民への感謝のしるしとして提供されたものであり、


そのためルーメンでは他国以上に広く知られ、かつてない大流行を見せていた。


しかし、ただ一つ、エレナの相手だけは判然としなかった。


いや、正確には候補が多すぎたのである。親しくする人数が多すぎたのだ、しかも、彼女は常に品行方正で、夕刻には必ず兄の元を訪れ家に帰る。


朝になると隣家の兄を訪ねては、すぐにまた外へ出かける。


仕事前には必ず兄へ挨拶を欠かさず、冒険者として依頼をこなすたびに彼女の周囲に侍る男は増えていく。


その為、親しくする相手は多いが本当に言葉通りで親しくするのみ。それ以上の特別が存在しなかった。結果、相手を特定することはいよいよ困難を極めていた。


それでも、いくつかの情報は得られた。


まず、直接訪れなければ、すげなく断られるということ。さらに、彼を訪れた姫君の多くはその街に住み着き、結果としてその街の治安は飛躍的に改善されているということ。


そして、その街は類を見ない発展を遂げ、王侯貴族が行楽に訪れる地として大いに賑わっているのだという。


ふと、その街の名に覚えがあり、シェリファはエルシェリアが残していった住所を確認した。


まさしく同じ街である。ここからベアレスまで約一月と少し。しかも、ちょうどエルシェリアの出産時期と重なるではないか。いや、無理をすれば出産に間に合うのでは?いや、間に合う!間に合わせねば!!


ならばエルファリアの縁談も打診でき、さらに孫の出産に立ち会える!!――行くしかない!


シェリファは固く決意した。エルファリアの縁談は不確かな情報にすぎないが、今なら生まれたての孫を抱けるはず。


出産後は大変で、不安も募る。母がそばにいれば少しは落ち着くだろう。しかも自分は孫を見られるのだ。


『まっごっ』――なんと甘美な響きだろう。その時すでに、エルファリアの結婚など二の次になっていた。


――ズバン! 勢いよくプライベートリビングの扉が開かれる。


そこでは、夫と二人の息子、そしてエルファリアが団欒していた。突然の音に三者三様の反応を見せる中、シェリファは高らかに告げた。


「あなた! 私、ベアレスに行ってまいります! エルファリア、あなたを英雄の嫁に送りますわ。一緒に参りましょう!!」


ぽかんと口を開けたまま固まる一同。


「だ、ダメだ! 許さんぞ!!」


「あなた! 時勢をちゃんとお読みなさいませ! 各国の姫君が次々に送られているのです。この意味がお分かりでしょう? たとえ選ばれずとも、一度は送らねばならぬのです! エルファリア、異存はなくて?」


「はい! お母様! しっかり見定めてまいりますわ!」


見定めるなどという話ではないのだが、突っ込むとややこしいので聞き流す。


「それに調べたところ、あの子たちの住む街と同じだそうです。そろそろ出産も近いはず。不安も多いでしょうし……私は孫の顔が見たいのです!!」


「なっ?! 孫……だと……。」


エルドラか驚愕する。


「ならば、ワシも行く……!」


「ダメに決まっているでしょう。三カ月も国王の席を空けられますか。」


「うぐぐぐぐぐ……」


「ですので、あちらにタウンハウスを購入し、転移門を設置いたします! あなた、孫に会いたければラトリアとの交渉をしっかりまとめてくださいませ。よろしいですね?」


「むむむむむ……わ、分かった……。」


「それではエルファリア! 直ちに準備なさい。十名以下の少数で向かいます。仰々しいのは好まれないそうですからね。今回の旅は強行軍で駆け抜けます!そのつもりの心積もりを!」


「はい! 承知しました!」


こうして、シェリファとエルファリアのベアレス行きは決まった。シェリファの胸中は、もはや孫への想いでいっぱいであった。


まっご!


いつもありがとうございます。


流行語大賞取れないかなぁ?まっご・ω・

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