後日談2-1
エレナSide
ヴァンパイアロード討伐戦から5ヶ月。
私は宣言通りにやってきた。シオン様のお力になるために。
王国の職務を辞し、一人の冒険者としてベレリアへ。
本来ならば、この雪深い地に訪れるのは冬が明け春になる頃だ。けれど私は待てなかった。雪山を越え、寒さに震えながらも足を運んだ。私を慕う親衛隊を連れて。
まずはギルドでシオン様の所在を尋ねた。だが当然のことながら、個人情報は明かされない。
未来の妻ですよ?おしえてくれてもいいではないですか、まったく。
私は仕方なく街で情報を探すことにする。
とはいえ、この極寒の地で外を歩き回るのは私にはつらい。寒さは大の苦手だ。すると親衛隊のひとりが「探してまいります」と言って出ていった。その心遣いがとても嬉しく、胸が温かくなった。素直な感謝の気持ちを告げると、さらに三人も加わって外へ向かっていく。私を守る護衛とともに、近くの喫茶店でお茶をいただきながら待つことにした。
夕方になってようやく親衛隊が戻ってきた。
……はっきり言って、遅すぎる。シオン様ならばもっと早く見つけ、すぐにそのもとへと導いてくださっただろう。
それに比べて、この方々ときたら……口先ばかりで実に無能。
――だが、責めても仕方ない。済んだことは済んだこと。私は笑顔を作り、礼を言った。
どうやらシオン様は近くのアパートにお住まいらしい。しかも、あのお人形さんと一緒に暮らしていると。
もしかすると、私を迎える準備をしてくださっているのかもしれない。そう思うと胸が高鳴った。待たせてはいけないと、その足でアパートへ向かう。
扉をノックすると、中から女性の声がした。――あのお人形だろう。出迎えてくれるとは、なかなか可愛らしくて愛らしい。
やがて扉が開く。
出てきたのは、プラチナブロンドの髪に褐色の肌、琥珀色の瞳を持つ、隔絶した美を持つ人形。どれだけ美しくても、所詮は玩具。
シオン様もそれをわかっているはず。彼女を傍に置くのは、きっと事情があるのだろう。もしかしたら私の愛を試すためかもしれない――なんて素直じゃないないんだろうか。そんなとこすら愛しく思える。
最初は国のためにと思っていた。だが、彼の笑顔がしぐさが言葉がそしてその強さが、会えないうちにどんどんと昂った。だから認めよう。
彼が私を愛するように、今私は彼を愛していると。
……ところが。
扉の向こうに立つその姿を見て、私は目を疑った。
――お腹が……大きい?
あれ……? あれれれ?
お腹……膨らんでいるような?
え……ワンピース……?
あなた、もっと薄着ではなかったかしら?
妊娠……? いや、隷属紋があれば妊娠は不可能なはず。
そうか、きっとお太りになったのね。
そうよね?……そうに違いない。
「……えっと、エレナさま?」
思わず「はい」と返事をしてしまった。人形に返事をするなんてはしたない。貴族の嗜みがしれてしまうわ。でも、これは仕方がないんじゃないかな?
誰だって驚けば口を滑らせるもの。
「あの……それは……?」
――本当はシオン様の居場所を尋ねるつもりだったのに、気づけば問いかけていた。
「あ、妊娠しちゃって…。5か月目になるんです」
……妊娠しちゃって?5か月!?
ヴァンパイアロードを討伐したのが、ちょうど5か月前。
は?
え?
王都で耳にした噂が脳裏に蘇る。莫大な報奨金と爵位を捨て、一人の隷属紋を刻まれた者を救った男の話。その隷属紋を刻まれた罪人は冤罪であり、その無実を証明するため奔走し、見事に叶えた男と女ラブストーリー…。
その噂は美談となり、どこからともなく演劇が、公開されるようになった。――実際に私も見て、感動し、涙を流し素晴らしいと称えた。そして、こんな男性と一緒になりたいと…
……まさか、あの英雄こそシオン様で? そのヒロインが――このお人形?
ある意味、私の願望は叶ったが…矛先が違いませんか?リシェルさん、そこ私の位置ですよね?
あれ?あれれれれ?
まさか……まさか、本当に私は断られていたの? 愛の試練などではなく?
よもやよもや?
なんだかしらないけど熱苦しい人の顔が浮かんだ…
私は二度、シオン様に婚姻を申し出た。二度とも断られたがそのとき彼は、助けを求めるような複雑な表情を浮かべていた。だから、てっきり……。
もしあれが、ただ「困っていた」だけだったとしたら?
いや、そんなはずは――。
「大丈夫ですか?」
金髪の美女――リシェルが恐る恐る尋ねる。
隷属紋がない今彼女は人だ。無礼な振る舞いは許されない。って、そうじゃない。そうじゃなくて…
あれ?いまどんな状況???
あ、そうだ。大丈夫かと尋ねられたんだ。
大丈夫? 私は大丈夫。……いや、大丈夫って何が? 私はここに何をしに来たんだっけ?
ああ、そうだ。シオン様に会いに。全てを捨てて。伝えなければ。
「大丈夫です。あの、シオン様は……?」
「エレナ? エレナよね?」
不意に呼ばれ、振り向いた。そこにいたのは――クリスティアナ王女殿下。
は? へ? なぜ?
「……クリスティアナ王女殿下……」
「ええ、久しぶりね! ああ、わかった。あなたもお父様のご命令ね?」
「お父様……? 国王陛下ですか?」
「ええ! 私と同じようにシオン様との婚姻を命じられたのでは?」
婚姻を打診された!? 高位の継承権をもつ王女様まで!?
「……聞いておりませんが……」
「え? そうなの? ならよかったわ。私は命じられて来たけれど、シオン様に『聞いてない。それは断る』と……。あまりのことに、泣いてしまいましたの」
――王姫の婚姻を断った!? シオン様、何を……!?
「急いでお父様に文を出したら、『籠絡するまで帰ってくるな』ですって。ひどいと思いません?」
はぁ!? 何がどうなって……?
「クリスゥ〜?私の前で旦那を籠絡するとか言わないでくれるかな?」
「お姉様、私は二番目で構いませんのに。どうか無碍にしないでくださいまし。」
「シオンが断ったでしょ?」
「ならば、お姉様から口添えを……」
「嫌よ。一夫多妻なんて無理だから」
「むぅー……お姉様もその必要性をわかってらっしゃるはずでは?」
「はぁ……それが嫌で国を出たんだって。まっ、無茶さえしなければ好きにすればいいわよ。」
「正妻の貫禄ですねぇ〜」
「クリス達の立場もわかるしね。」
……ちょっと待って。
「旦那様……? 一夫多妻……? どういうことです?」
「……あー、シオンと結婚いたしまして。旦那っていうのは……シオンのことです」
真っ赤になるリシェル。
半年近く経ってるんだろ、このクソアマ!! 今さら照れて煽ってんじゃねぇぞ!!
なぜか――笑顔を作ろうとしても、口元が引きつった。
初めての感情が噴き出した瞬間でもあった。
こうして私は――すべてを捨てて来て、待っていたのは完全なる独り相撲。王女までいるこの状況。
意味がわからない、だが一つわかる。
私の自尊心は砕け落ちたと。
呆然とする私をクリスティアナ様が手を引き、隣室へと連れて行く。
そこで『はっ』意識が覚醒した
……なぜ、隣の部屋!? 一国の王女がアパートの一室に!?
もう、すべてに理解が追いつかない。
あ、シオン様とも会えなかった……
「あ、そうだ、エレナ。貴方でシオン様の第二夫人候補は26番目よ。またみんなに紹介するから仲良くしましょうね。」
は?26番目?いやちょっとまって!!
「そこは私が絶対一番目ですからぁーーーーー!!!」
と、不毛な叫びを上げた
読んでくれありがとございます。
後日談、結構続くかも…です。




