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最終話5

 バルドの前で、隷属紋の解除は静かに行われた。

 魔術師による儀式はあっけないほど短く、胸元と腹部に刻まれていた白い刻印が淡い光とともに霧散していく。


「……これで終わりだ」

 術者がそう告げると、リシェルは肩を震わせて息を吐いた。

 長いようで短い時間、リシェルとシオンを結びつけたモノ。忌まわしき枷、同時にシオンとの確かな繋がりを感じさせる鎖。存在そのものを縛ってきた枷がなくなったというのに、心に空白が生まれるばかりだった。


「これでもう大丈夫なんだな?」


「ああ」


「わかった。」

 一方のシオンは、儀式が終わったことを確認するとリシェルの顔を見る。


「リシェル。長い間すまなかった。これで君は自由だ。」


「え?何を…」


 シオンは静かに背を向けて部屋を出た。

 まるで、役目を終えた護衛のように。

 呆然としていたリシェルが慌てて後を追う。

扉を飛び出し大声で叫んだ。


「ちょっと待ちなさい!どこ行く気!!」


 足を止めたシオンが、ゆっくり振り返る。

 何か言いかけるより早く、リシェルが一歩前に出て叫んだ。


「ずっと側にいるって言ったじゃない!」


「それは……隷属紋は消えただろ?」


「だからなに?!」


「お前の好きにできるだろ?」


「何を言ってんのよ?意味がわかんない!なんでアンタがいなくなろうとしてんのよ!!!隷属紋がなくなれば私に興味もない?」


「それは違う!」


「じゃあ、なに!!」


「俺はお前にひどいことを…」


「ええ、たくさんしてきたわね!だから!だったら!なんで!!最後までちゃんと責任もってよ!」


「え?」


「もぉ…――忠誠を誓いなさい!」


呆然とリシェルをみるシオン


「覚えてるでしょ?」


 静寂が落ちる。

 その意図を理解したシオンの口元が、わずかに緩んだ。


「……いいのか?」


「いいも悪いもあるか! 私には……アンタしかいないじゃない! 早く!早くちゃんと忠誠を誓ってよ!」


 不安をにじませ必死に叫ぶリシェルの顔は真っ赤だった。

 その姿を見て、シオンはにやりと笑い、わざと大げさに口を開く。


「――リシェルに、生涯の愛を誓うっ」


「ちょ、ちょっと! それ飛躍しすぎ!」


「え? ダメなのか?」


「う……う~~……そうじゃない!そうじゃないけど……」


 リシェルとてその言葉を望んでないわけではない。だが、その言葉は望めないと思っていた。そこまでいけば新たな枷を彼にかけるだけだからと…。しかし、シオンはあっさりその枷を自らはめた。『私でいいの?』と聞き返したくもなる。だけど。今は違う。そんな言葉じゃない。


(それなら……私だって!)


 リシェルは両手を胸の前でぎゅっと握りしめ、声を震わせる。

「……わ、私も……シオンに、生涯の愛を誓うわ!」


 その瞬間、ギルド内にざわめきが走る。

 シオンは真剣な目で頷くと、言葉を重ねた。


 場所はギルドの大広間。一般の依頼主から冒険者、ギルド職員、多くの人の前だった。


「……正直、想定外で何も用意してないんだが……。今、言わなきゃ一生言えなくなりそうだから――リシェル!」


 彼女の名を呼び、まっすぐに見つめる。

 その声には、これまでの冒険のすべてが込められていた。


「……俺と結婚してください」


その言葉とともに、跪き利き腕をリシェルに差し出す。

リシェルの顔は一瞬で真っ赤になった。

恥ずかしさと嬉しさで胸がいっぱいになり、息も詰まりそうだった。


「……っ……は……はい」


 消え入りそうな声だったが、その小さな答えは確かに届いた。

 リシェルはシオンの手を取る。

 次の瞬間、ギルド全体が揺れるほどの歓声と拍手が巻き起こった。


挿絵(By みてみん)


「俺のおごりだ! 好きに飲め食え!」

 リシェルの後ろで聞いていたバルドが大声を張り上げた。


「うわっ、ビックりした…いいのかよ!」


「当たり前だろ! お前を冒険者として育てたのは俺だ。なら俺は親も同然だ。親が子供の一世一代の告白に成功したってんなら、祝ってやるのが筋ってもんだろ!」


 シオンは少し目を伏せて、そして真っ直ぐに答えた。



「……すまない」


「ちげぇだろ!」


「――ああ。ありがとう、オヤジ!」


「誰がオヤジだ!せめて兄貴にしろや!」


「アンタが言ったんだろが。オヤジだって!」


「たしかに!まぁいい! 幸せにしてやれよ!」


「もちろんだ!」


 リシェルは顔を真っ赤にしたまま、騒ぎに飲み込まれていった。



            ※  



宴の深夜、ふと視線を感じ横を見るとリシェルがじっとシオンを見ていた。


「ん?どうした?」


「…んーん、なんでもない。」


「そっか。……あのさ」


「うん?」


「冷静になって思い出したんだけど、俺エレナのプロポーズ蹴った後なんだよな。アイツ。次来た時どうしようかなって思って。」


「ぶっ!ごめん。私もそれ思ってた。そっかそっか。同じ事考えてたんだ。シオン?ホントに侯爵家を蹴って良かったの?」


「興味ねーよ。立場がどうかなんてどうでもいいさ。リシェルがいない所に興味ない」


「あぁ…もう!あんたは!本気にしていいの?」


「ああ、もちろん!」


「もうっ!」


気づけばいつの間に周りは静まりかえり2人のやり取りをニヤニヤと眺めている。はっと気づき真っ赤になりながら俯くリシェル。


「これからもしっかり大切にな?」


バルドがニヤけた顔で言ってくる。


(正直むかつくでも………ありがとう)

シオンは心の中で呟き

「おう!世界一幸せにしてやるよ!」声高に宣言した。


「よくいった!」「それでこそ男だ!」「ヒューヒュー」「私ももらってー」「俺も俺も」「最高だぜ!」「アニキと呼ばせてくれ!」「リシェルさん頑張れー!」

など一気にギルドの中が騒がしくなる。そうして、騒がしい夜は幸せで優しい空気の中更けていくのだった。


〜リシェルSide〜


 宴は夜更けまで続いたが、恐れていたこともなく朝を迎えたことに、私は密かに安堵した。

 隷属紋はもうない。私を辱めるあの紋は消えたのだ。


 静かに部屋へ戻り、互いに肩を寄せ合って眠る――はずだった。が


結局、部屋に戻るとそのまま二人は言葉よりも触れ合いで想いを確かめ合った。


 幾度も重ねてきた。

 隷属紋の快楽も今この時に比べれば陳腐に感じられた。それ以上に甘美で、深く、優しい時間だった。


 リシェルが目を覚ますと。


 隷属紋は確かに消えていた。

 

 しかし、昨夜のことを思い出し盛大にため息をつきたくなる。でも、彼はそんな私を受け入れてくれた。「そこも含めて全てがリシェルだ」と肯定してくれた。私を見て触れて「愛してる」と言ってくれた。


 今、思い出すだけで恥ずかしくなる、嬉しくなる、抱きしめられたくなる。


 枕元で眠るシオンを見つめながら、彼の髪を指でそっと梳く。

 

 私の旦那様が側にいる。その事実が、胸を熱くさせる。


「……愛してる」


 返事はない。

 でも私は知っている。こうやって話しかければ彼が目覚めることを。


 リシェルは小さく息を吐き、心の中で自嘲する。


(どうせ……ここで「俺のこと好きすぎだろ」とか、「甘えん坊だな」とか……そうやってからかってくるんでしょ?わかってんだから。かかってくるといいわ)


 それにそろそろ起きて私に愛してると言ってほしい。昨日のように抱きしめてほしい。私は貴方のお嫁さんになったんだって感じさせてほしい。


からかいから迎える朝でも貴方となら幸せな時間だ。


 次の瞬間。

 (ほら来た。)

 リシェルの心が少し得意げになる。


 シオンの瞼がゆっくりと開き、まっすぐにリシェルを見据えた。

「……愛してるよ」


「えっ……?」

 あまりに真っ直ぐな言葉に、リシェルは呆気にとられる。

 想定していた軽口も、茶化しもなく、ただまっすぐに告げられた想い。


 次の瞬間、彼は起き上がりリシェルを背中から優しく包み込み、唇を重ねてきた。


 胸が高鳴り、全身が熱を帯びる。


「幸せになろうな。」


「……もう……ずるいよ……」


 涙が滲むほどの幸福感と、想定していなかった直球さに、リシェルは小さく呟いた。



二人の生活はこれからも続いていく。

これまでと変わらない冒険者としての日々と、新しく変わった家族としての時間がその人生に彩りを添えていく。

互いに想い合い、支え合いながら――幸せな時をずっと……。




Fin



長らくお付き合いありがとうございました。

今後は後日談をいくつかアップする予定ですが、ここで一度完結とさせて頂きます。

また、伏線の回収は後日談にて行う予定です。


お読みいただき本当にありがとうございました。


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