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第一話

最終話までは毎日投稿予定です。


自分で書いたオリジナルの文を、AIを使って整形しています。

その中で少し変わった文字の使い方や、一見すると誤字に見える表現が出てくることがあります。

でもそれは間違いではなくて、あえてその字を選んでいるんです。

言葉が本来持っている意味と、漢字が持つニュアンスを重ねて、新しい響きを生み出したくて。いわば造語のようなものです。

だから、ちょっと不思議に感じても「そういう表現なんだな」と受け止めてもらえると嬉しいです


また、文中にはイメージイラストも添えています。

これらのイラストはすべてAIで制作したもので、基本的には統一感を意識していますが、少しずつ雰囲気が異なる場合もあります。

 昼下がりの冒険者ギルドは、いつも通りの喧騒に包まれていた。磨かれていない床板の上を、泥や血で汚れたブーツが行き交い、油と酒の匂いが入り混じる。壁際では新人らしき若者が武器の手入れをしており、奥の方では大声で戦果を語り合う熟練者たちがいた。笑い声も怒号も、ここでは日常の音だ。


 その喧騒の中を、一人の青年が静かに歩いていた。漆黒のコートに隠された引き締まった体躯。名はシオン·ナイトフィード。腕利きとして名を馳せ、依頼は一人で遂行する、単独の冒険者。ギルドにおいて彼は


萬色ばんしょく』の二つ名を授かった英雄の一人だった。


その呼び名から、しばしばエレメンタラーやセージ、あるいはオラクルといった術師系の者と誤解されることもある。

だが実際の彼は魔導とは縁遠く、全ての属性を備えた数多の武器を自在に生み出しそれを操る一流の戦士であった。


 シオンはまっすぐ依頼掲示板へ向かうと、貼られた羊皮紙を一枚ずつ無言で目で追った。盗賊退治、魔物討伐、護衛……ありふれた依頼ばかりが並ぶ中、ふと異彩を放つ文面が目に入る。


 ――『リシェル・ファルディア生死問わず』――


 その名を目にした瞬間、シオンの瞳がほんのわずかに揺れた。


リシェル──かつては王都随一と謳われた絶世の美女。

華やかな金髪に琥珀色の瞳を湛え、数多の高難度依頼を成し遂げた英雄であった。しかし、ある任務において彼女は大罪を犯し、その果てに、今ではただの賞金首となっていた。


 「ようやく見つけた……」


 低く呟き、シオンは紙を剥がす。依頼主は――ギルド本部。しかも、報酬額は桁外れに高い。そこに、ただの金銭的価値以上の意味があることは明らかだった。


 受付の女職員が彼の手元を見て目を丸くする。「……その依頼、受けるんですか? 他の冒険者は皆、手を引いてます。リシェルは剣も魔法も達者ですし、何名かその依頼を受けた冒険者も戻ってきておりません…。それでも――」「やる」短く言い放つその声には、揺らぎのない確信があった。


 女職員は言葉を詰まらせたあと、慎重に契約書を差し出した。

「わかりました。かなりの手練れです。気をつけてください」

「分かってる。少しギルマスと交渉がしたい。この依頼についてだ」


突然の申し出に、一瞬ぽかんと口を開ける受付嬢。

やがてはっと気づくと、

「わかりました。受け手のいない重要な依頼なのですぐに呼んでまいります」と言い残し、奥へと消えた。


やがて奥から現れたのは、禿頭の巨体。

シオンはギルドマスターと報酬の交渉を行い、納得すると署名して依頼を受けた。


 羊皮紙を懐にしまい、シオンは無言でギルドを後にした。背後で鳴り響く笑い声も、木の扉の軋む音と共に遠ざかっていく。


リシェルの情報を追いかけて既に2週間。ようやく有力な情報を得ることができシオンはその場へと急行した。


 深い森を夜の闇に隠れてリシェルを追う。この森での目撃情報を手に入れたからだ。慎重に調査を進めた結果、彼女の居場所はだいたいつかんでいる。リシェルに遭遇しないよう注意を払いながら進む。


あたりは濃い霧と湿った空気に包まれ、奇襲にはうってつけの時間だった。土を踏む音ひとつ立てず、シオンは暗闇の中を進む。その視線の先には、隔絶した美しさを持つ獲物――リシェルがいた。

 

 かつて「蒼刃のリシェル」と呼ばれ、英雄クラスと呼ばれる凄腕の魔法剣士。


 焚き火の明かりが、茂みの向こうでちらついている。

その脇に座り、背を木に預けたリシェル。


挿絵(By みてみん)


月光を思わせる金髪が炎に照らされ、琥珀の瞳が遠くを見据えていた。無言の横顔に、かつての鋭い輝きはまだ残る。鮮烈なまでの美しさ、まさに絶世の美女と形容されても不思議ではない。――だが、同時に疲弊と孤独が色濃く漂っていた。

 

「……出てきなさい」


 はっきりとした声が闇に響く。隠れる気配を見抜かれたことに、シオンは小さく笑った。


「察しがいいな。さすがだ」

茂みを抜け、シオンはゆっくりと距離を詰める。


「わざわざ私を迎えに来たの?」

リシェルは皮肉な笑みを浮かべ、腰の短剣に手をかけた。


「報酬が出るからな。お前を生け捕りにする」


シオンは落ち着いた声でそう告げた。わざとためらいを見せず、逃げ場を与えないように。

その言葉に、リシェルの瞳が鋭く光る。


「……私を連れて帰れると思ってるの?」


その瞬間、二本の短剣が抜き放たれ、焚き火の炎を裂くように突き出された。夜の森に金属音が響き渡り、戦いの空気が一気に張り詰める。


閃光の斬撃。シオンは即座に細剣を錬成し、静かに受け流す。火花が弾け、夜気を焦がした。


続けざまに雷撃が放たれる。紫電が奔流となって襲いかかる。


「……っ!」


シオンは剣を消し、両腕に籠手を錬成。次の瞬間、雷撃が金属に直撃し、爆ぜるように弾き飛ばされた。周囲に閃光と土煙が散り、焚き火が大きく揺れる。


リシェルの瞳が驚愕に染まる。

「なんで……雷撃を、はじき返せるのよ?!」


彼女はすぐに氷槍を大地から突き上げる。しかしシオンは長槍を錬成、横薙ぎの一撃で氷柱ごと粉砕した。


破片が飛び散る中、リシェルは炎を纏わせた短剣を突き込む。だが、シオンの鎖剣が唸りを上げて軌道を阻む。

「くっ……!」


リシェルは必死に鎖を切り裂き、雷刃で応戦する。だが、シオンは両手に打棒を生み出し、放たれた雷刃をすべて弾き落とす。その姿には焦りの色が一切なかった。


やがてリシェルの呼吸が荒くなる。魔力の消耗と疲労が足取りを鈍らせた。シオンは間合いを詰め、静かに告げる。


「ここでやめろ。もう体力は限界だろ?」


リシェルは荒い呼吸を整え、二本の短剣を握り直す。


「……絶対嫌よ! 捕まればどうなるかくらい、あんたにも分かるでしょ!」


炎をまとわせた短剣を突き出し、雷撃を放つ。紫色の閃電が樹々の間を駆け抜け、葉を焦がし、森の静寂を裂く。シオンは片手に錬成した大盾、もう片手に鎖剣を生み出す。雷撃が鎖剣に直撃し、火花と衝撃で土煙が舞う。焚き火の炎は激しく揺れ、夜の闇に赤と紫の光がちらついた。


「分かってるから言ってるんだ。無理をすればお前自身が傷つく。悪いようにはしない。だから、剣を納めてくれ」


「ふざけんなっ! まだ戦える!! そんなの、絶対認められない!」


リシェルは全力で突撃。炎と雷を混ぜた二刀流が空気を切り裂き、森の影に火花を散らす。樹々の葉が閃光に照らされ、焚き火の炎は煙をあげて揺れ、森全体が戦場と化す。


シオンは盾で攻撃を受け流しつつ、鎖剣を振るって炎と雷を弾き飛ばす。雷撃は空中で分散し、炎は衝撃で吹き飛び、地面には焼け焦げた跡と飛び散る土煙が残った。枝が折れる音、燃え残った焚き火のパチパチという音が夜に響く。


「くっ……!」


リシェルの体力と魔力は限界に近づき、体勢がわずかに崩れる。疲労で足元が揺れ、息が荒く、瞳には焦りが浮かぶ。


シオンはその隙を見逃さず、背後に回り込むと腕を絡めて捕らえる。腰のポーチからギルド特製の魔法錠を取り出し、黒く光る鎖をリシェルの腕に巻き付け、力と魔力を同時に封じた。


絶望に駆られ、リシェルは舌を噛もうとした。だが、刹那、自然と動きが止まり、手も舌も思うように動かなくなる。恐怖と悔しさが全身を駆け巡る中、短く荒い息を吐くしかできなかった。


「……くそっ……!」


シオンは無言で彼女を肩に抱え上げる。夜の森に規則正しい足音だけが響き渡り、焚き火の炎は小さく揺れ、やがて完全に闇が支配した。


「なんで……死に時くらい選ばせてよ……なんでよ…」


リシェルのつぶやきが、暗い森に静かに溶けていった。


達成の報告は依頼を受けたギルドとなる。そのため2人は1週間ほど旅をすることになった。


魔法錠を着けられた犯罪者は悲惨な目に遭うことが多い。異性であれば強姦され弄ばれるなんて言うのはザラだ。また、この世界は平和ではない。街道を歩いていても魔獣に襲われる。リシェルを捕縛した辺境付近なら特にその頻度は多い。そのための足手まといにしかならない存在は囮にされ餌にされる…。


賞金首は特にそうだ。頭だけをもってギルドに行けばいい。生かして連れて行く必要など皆無なのだ。リシェルは不思議だった。

自身の生い立ちを知ってるのかと少しカマがけをした事もあった。結果は知らず。

宿を取れば部屋を与えられ、風呂も許可された。その間、押し入ってくることもなく、ギルド支給の魔法の錠を施すだけで外で待っていた。食事すらも同じ物を与えられた。


リシェルにとってまともな風呂も食事も宿も久しぶりで密かに涙した。


1週間2人は会話という会話をしていない。

リシェルの呟きにシオンが答えるだけだ。


シオンは何度か口に仕掛けたがそのたびに飲み込み言うことをやめていた。


エイベルの街に到着した時リシェルは死を覚悟していた。自分に課せられた罪があまりに重すぎて死ぬ以外にないと…もしそうでないとすれば…ろくな結果にはならないが、そのほうがまだ受け入れやすいとも思った。このときなぜかリシェルは真実をシオンに知ってほしいと思った。私はやってないとただ知ってほしかった…だが言えなかった。言えばこの男に無用な心の傷を残すと思ったから…


「この1週間はとても心休まる日々だったわ。本当にありがとう。」


リシェルは頭を下げた拍子にこらえていた涙がこぼれた。

シオンはそんなリシェルを見てぐっと拳を固め「死なせはしない…。」それだけ呟きリシェルの首に鎖を繋いだ。


 ギルド本部の大広間。沈みかけた太陽の光が斜めから差し込み、木製の床を照らしていた。


 シオンに鎖をひかれ、リシェルが入ってくる。周囲の冒険者たちが視線を向け、ざわめきが広がった。

 ギルドマスターは執務机から顔を上げ、薄い笑みを浮かべた。


「戻ったか。依頼は……終わったようだな。」


 シオンは短くうなずき、背後のリシェルを前に突き出した。彼女は唇を固く結び、悔しさを隠そうともせず、ギルドマスターを睨み返す。だが、その視線には力がなく、肩は小さく震えている。


 ギルドマスターは書類を一瞥すると、静かに告げた。「報酬は──この女だったな。国の許可は得た。今日より正式にお前の所有物とする。」


 広間に低いざわめきが走る。リシェルの顔が驚きにかわる。「……そんな……」その小さな声は、シオンの無言の圧にかき消される。


 「お前の意思は関係ない。契約はすでに成立している。」ギルドマスターは机上の巻物を指先で叩き、リシェルに淡々と言い放った。


「残すは儀式のみだ。」


 ギルド本部の広間は、静まり返っていた。夕方時にも関わらず、そこに集まった冒険者たちは皆、視線を一点に注いでいる。その中央に、リシェルは立たされていた。


 本来隷属紋は個室にて行われる。だが、今回は所有者であるシオンの希望によってギルドホールの真ん中で行われることになった。その結果シオンは一部の女性たちから汚物を見るような目を向けられる。


リシェルは両手を背後で革の帯により固く縛られ、足首も短く繋がその上てギルド特製の捕縛錠がかけられていた。もはや、リシェルに自由はない。諦めににた瞳でシオンを見つめていた。

 やがて重々しい音を立てて、黒鉄の箱が運び込まれる。中から現れたのは、鈍く光る銀の刻印針と、奇妙な紋様が刻まれた石板。金属の匂いと薬草のような刺激臭が、空気に混ざって広がる。


 「……それが、刻む道具か?」


 シオンの呟きに、傍らのギルドマスターがうなずく。


「腕のいい術師を呼んである。逃げられぬよう、そして裏切らぬようにするためにな。」


 術師と呼ばれたローブ姿の男が、リシェルの前に立った。顔は影に隠れ、口元だけが淡々と動く。


「胸元を露わにしろ」


 その声が響いた瞬間、二人の彼の弟子がリシェルの服を無造作に引き裂く。褐色の肌が露わになり、彼女の肩が小さく震えた。周囲から小さなざわめきが漏れる。中には興味深げに覗き込む者もいる。


 針先が肌に触れた瞬間、リシェルの体がびくりと跳ねた。次の瞬間、熱が走る。まるで焼けた鉄を押し当てられたような痛み。細かな光の筋が皮膚を走り、紋様を描いていく。


 「っ……あ……!」


 歯を食いしばり、声を押し殺す。だが呼吸は乱れ、汗が額を伝う。刻印の線が増えるごとに、その光は脈動し、痛みが熱に変わり、熱が内側に染み込んでくる。


 耳の奥でざわざわとした声が響く。「これでもう逃げられねぇな」「二つ名持ちもこうなりゃただの従者か」その言葉が刃のように心を削る。


 やがて、紋様の最後の線が結ばれた。淡い光がゆっくりと落ち着き、白い刻印がはっきりと浮かび上がる。それはまるで、生きているかのように脈打っていた。

 術師が針を離し、静かに告げる。「……これで終わりだ」


 隷属紋を刻まれたのは2カ所、胸元と下腹部。リシェルは膝から崩れ落ち、荒い息を吐きながら視線を伏せた。胸元と下腹部の刻印が、微かに熱を帯びたまま彼女の心臓の鼓動と重なって響いていた。


 直後、リシェルは床に膝をついたまま動けなかった。隷属紋は、微かな脈動を繰り返しながら皮膚の奥に熱を送り込む。それは傷の痛みではない。もっと鈍く、じわじわと意識の奥に染み込むような熱――心の奥の硬い部分を少しずつ削る、そんな感覚だった。


リシェルが睨むようにシオンを見ると彼は今にも泣き出しそうで拳を握りしめていた。


リシェルが目を見開く。彼の感情が理解できなかった。


(なんでそんなに……辛そうなの……)


シオンはふっと息を吐くと険しい表情でリシェルにと近づいた。


 頭上から、シオンの影が覆いかぶさる。見上げれば、彼の瞳は無感情に淡く光り、何かを計るようにこちらを見下ろしている。


 「……忠誠を示せ」


 短く放たれた言葉は、まるで儀式の最後を締める合図のようだった。意味は単純なはずなのに、リシェルの胸に冷たいものと熱いものが同時に走る。


 ――忠誠を、どうやって?

 問いが脳裏で反響する。剣を捧げるのか、跪いて誓いを述べるのか。そんな、かつての礼儀作法が頭をよぎる。


 しかし、目の前の空気がそうではないことを告げていた。ギルドの奥に広がる沈黙、押し殺した笑い声、そして周囲の視線――皆が何かを知っていて、自分だけが置き去りにされている。


 胸がざわつく。嫌な予感が喉元までせり上がり、呼吸を浅くする。

 ふと、隷属紋の脈動が強まった。その瞬間、頭の奥で、ひとつの映像が浮かぶ――床に額を擦りつけ、目の前の主の足元で舌を動かす自分の姿。浮かんだ途端、全身がかっと熱くなる。


 ――まさか……そんな……。


 必死に否定する。そんなこと、自分がするはずがない。でも、心の奥の奥で、刻印がゆっくりとささやく。「それが正しい」「それが唯一の方法だ」と。


 気づけば視線は自然と下へ落ち、シオンの足元に向かっていた。黒い革靴の先、旅の埃がうっすらとつき、光の加減で鈍く輝いている。その小さな汚れが、なぜか目を離せない。

 背筋を冷や汗が伝う。「違う」「やめろ」と心が叫ぶ一方、膝がきしむ音とともに体は前へ滑っていく。視線は地面近く、足元がゆっくりと大きくなり、視界を占めていく。


 ――そんなことしたくはない…。


 その予感が、胸の奥で警鐘のように鳴り響いた。だが、その音さえも刻印の熱が塗り潰していく。そして、唇がわずかに開き、喉から細い息が漏れた。舌先が、空気の中でかすかに震えていた。


 革靴の先が視界の中心にある。呼吸をひとつ整えようとするが、喉が詰まり、吸い込んだ空気は浅く短い。


 ――やらなければならない


 そんな脅迫めいた思考が頭をよぎる。

 舌先が靴の革へと移る。乾いた表面に触れた瞬間、塩辛い埃の味が広がり、全身が一瞬にして熱くなる。その熱は羞恥か、それとも隷属紋の影響か、もう自分でも区別できなかった。ただ身体が熱い…内側から滲み出るような…そんな熱さが下腹部に広がる…


 背後から小さな笑い声が漏れ、視線の端で誰かが肩を揺らしているのが見える。そのたびに胸の奥で何かが軋み、涙腺が危うくなる。しかし、舌は止まらない。滑らせ、押し当て、汚れを舐め取っていく。


 「……そうだ」


 淡々とした声が頭上から降りる。その言葉が、羞恥と奇妙な安堵を同時に呼び込み、靴へと顔を近づけようと膝がさらに沈み込んだ

 次の瞬間、後頭部に圧がかかった。舌先にあったはずの足が、リシェルの後頭部を容赦なく踏みつける。


 「――っ!」呻きとともに視界が揺れ、額が床に押し付けられた。その強制的な屈服の姿勢に、全身から力が抜けていく。


 隷属紋が脈動し、一種理解不能な強烈な快感が全身を駆け巡った。心臓の鼓動が早く大きくなり音から隔離し、視界が白く覆われていく。


 ――これは、だめだ……。


 意識を断ち切るほどの快楽が体を貫き、意識を失い体がぐらりと傾いた。


 周囲の視線がそこに集まり、ひそひそ声が飛び交った。


 そんなリシェルの頭をシオン掴み上げた。

 手で髪を掴み、容赦なく意識を失った体が仰け反るように持ち上げられる。力なく腕は垂れて口からはみ出た舌は揺れる。淡い金髪の隙間から、泣き腫らした目元と頬を伝う化粧の崩れた黒い筋が灯火の下にさらされた。


 ざわめきが、冷たい波紋のように広がる。

「……あれが、リシェル?」「嘘だろ……」

ギルドの空気がゆっくりと沈み、誰もが目の前の光景から視線を外せない。


 シオンはその反応に気にする素振りも見せず淡々と行動する。髪をさらに引き上げ、左右へとゆっくり顔を向けさせ羞恥の表情を皆に見せつける。


 「……これで溜飲は下がったか?」

 低く吐き捨てるような声が場に響き、宣告のように耳へ刺さる。その瞬間、この女が完全に掌中に落ちたことを、そこにいる全員が理解した。


 髪を放すと、その反動でリシェルの頭ががくりと前へ揺れ抗いようのない無様さをさらけ出す仕草だった。


 シオンは乱れきった姿の彼女をひょいと肩に担ぎ上げギルドを後にする。リシェルの腕は力なく垂れ下がったままだった。


 扉が開くと、夜気が流れ込み、灯火がかすかに揺れた。やがて、石畳に残された小さなシミだけが、この場で何があったかを静かに物語っていた。


            ※


 夜の通りは、深い霧に沈んでいた。

一人歩くシオンの足音だけが響く。


 宿屋の扉を押し開けると、鈴の音と共に暖かな空気が流れ込んだ。奥から顔を出したのは、髭面の店主だ。最初、彼はただの客だと思って笑顔を見せた――が、シオンの肩に掛かる人物の顔を見た途端、その表情が固まった。

 「……まさか、リシェルか」

 驚きと、わずかな戸惑い


 「気を失ってる。部屋はあるか」

シオンの声に、店主は咳払いして奥の帳簿をめくった。


「……二階の奥、鍵はこれだ。ただ――」言いかけた言葉を飲み込み、鍵を差し出す。


 誰もが噂する絶世の美女で大罪人をまさか自分の宿で見るとは思っていなかった。


 シオンは無言で鍵を受け取り、靴音を響かせながら階段を上る。背後で店主が小声で呟く。「……本当に、あのリシェルなのか……?」


 宿の二階、廊下の床板が低く軋んだ。シオンは肩に担いだ女の重みを感じながら、静かに扉の前に立つ。部屋の鍵を回し、灯りの落ちた空間に足を踏み入れた。


 ベッド脇まで進むと、彼は丁寧にリシェルを降ろし燭台に火を入れる。褐色の肌にかかる金髪が、薄暗い灯火に鈍く光り、その光がリシェルを映し出す。その呼吸は浅く、不規則で、わずかに胸が上下しているのが見えた。

 

 シオンは彼女の髪を整え、靴を脱がせてベッドに丁寧に寝かせた。


 シオン自身は椅子に腰掛け、しばし目を閉じる。外では風が唸り、窓を打つ雨粒が夜の静けさを破っていた。どうやら雨が降り始めているらしい。シオンが覚悟を決めるにはちょうどいい時間だった。


 やがて、シーツの上でリシェルがわずかに身じろぐ。瞼が重たそうに震え、ゆっくりと開く。視界に映ったのは、椅子に腰掛けてこちらを見下ろすシオンの姿だった。


 「……目が覚めたか」その声は穏やかだが、背筋を冷やす響きがあった。

 リシェルは状況を理解しきれぬまま、口を開こうとするが声が出ない。ただ、喉の奥からかすれた息だけが漏れる。


 シオンは立ち上がり、ベッドの端まで歩み寄る。そして、覆いかぶさるようにして耳元で囁いた。

 「俺の言うことに従え。」


 その言葉に、リシェルの心臓が跳ねた。屈辱と恐怖が入り混じるその感情に、彼女自身も戸惑いを覚える。

 外の雨音が強くなり、灯火がかすかに揺れた。部屋の中で、夜がゆっくりと深く沈んでいく――。


翌朝 〜リシェルSide〜


 まぶたの裏に、まだ熱が残っているようだった。目を開けても、頭の中では昨夜の光景が鮮明に蘇る。


 最初は屈辱で胸が詰まり、心臓の鼓動が早鐘を打っていたはずだ。けれど、その鼓動はやがて別の熱に変わっていった


 あの瞬間、なぜか安らぎを見出し、熱を受け入れ、さらには欲した。


 ――おかしい。私は、いったいどうしてしまったんだ。そんな行為を望むことなど、かつての私にはあり得なかったはずだ。それなのに、あの時の私は恐ろしいほど自然にそれを求め、与えられた瞬間に満たされてしまった。


 恐怖はある。だが同時に、その恐怖さえもどこか心地よく感じてしまっている自分が、もっと恐ろしい。自分という器の中で、別の何かが膨らみ、広がり、元の私を押しのけているような感覚。昨夜、その芽が確かに根を下ろした。これは隷属紋のせいなのだろうか?


その答えは誰も告げてはくれなかった。


 だがその芽は、彼の存在と共に育っている自覚はある。彼だからこそ、私は差し出せた。だから、これほどまでに混乱している。羞恥も、自己嫌悪も、愛情も、陶酔も、すべてが彼と結びついている。それは決して健全な感情ではないとわかっているのに、離れたくない――そう思ってしまう自分がいた。


隷属紋を刻まれて一日もたっていないというのに。


私の中で彼の存在がとてつもなく大きく広がり始めていた。


 ……なのに。隣にあるはずの気配が、今はない。温もりが消えた寝台を見つめ、胸の奥が急に空っぽになったような感覚に襲われる。なぜだかはわからない。隷属紋にこのような効果があるなど知りもしなかった。


 ほとんど反射的に部屋を飛び出す。宿の中を探し回り、主人に声をかけられてやっと食堂にいると知った。胸の奥の緊張がほどけるのと同時に、妙な熱がまた広がる。


 扉を開けると、香ばしい匂いと人のざわめき。長テーブルの奥、パンとスープを前にしたシオンが淡々とこちらを見上げた。


「……そんなに探し回らなくてもいいだろう」


その平坦な声には、どこかからかう響きがある。


「べ、別に……」言葉を飲み込み、自然と彼の向かい側に腰を下ろす。


 背後での笑い声が、鋭く鼓膜を刺す。ただの雑談ではない――私のことを言っている。聞くまいと思っても、耳は勝手に拾ってしまう。


 「……ギルドで、あの英雄様がだぜ?」「突っ伏して口元まで緩んでたらしい」「まるで……」「しっ、聞こえるって……はは、でもよ、あの顔は忘れられねえな」「ああ、たしかにたまんねぇー。」


 胃の奥がきゅっと縮む。昨日の夜――隷属紋の効果で膝から崩れ落ち、意識を手放した瞬間。その姿を、私は彼らの前に晒してしまった。


 羞恥の熱が頬から首筋へと這い上がる。もう、ここから立ち上がって逃げ出したい。だが、足は床に縫いとめられたように動かない。逃げる資格すら奪っていく。


 「お前ら……俺のモンを笑ってんじゃねぇ」


 低く、地を這うような声が、食堂のざわめきを一瞬で凍らせた。

 椅子を引き、シオンが立ち上がる。歩みはゆっくり、だが一歩ごとに空気が重くなる。冒険者たちは笑みを引きつらせながらも、まだ軽口を言おうとしている。その瞬間――


 「……アイツを好きにしていいのは俺だけだ。これ以上アイツの名誉を汚すなら潰すぞ?」


 刃のように冷たい声。言葉が落ちると同時に、空気が押し潰されるように沈んだ。冒険者の顔から血の気が引き、誰一人として目を合わせようとしない。


 胸の奥が、ぎゅっと締めつけられる。羞恥は確かにある。だが、それ以上に――その言葉が、私の中の何かを揺らす。隷属紋が、熱を帯びて脈打つように胸が熱い。まるでその宣告が、私の存在の根を絡め取ってしまったかのように。


 ……違う。おかしい。


 なのに今、熱が胸を満たしていく。シオンの冷たい視線と、誰にも渡さないという独占欲丸出しの言葉が、甘く胸を締めつける。


 私は――


 シオンは冒険者たちを一瞥すると、何事もなかったかのようにこちらへ戻ってくる。


 シオンは私の前に立ち、しばらく無言で見下ろしていた。そして唐突に、まるで買い物の予定でも告げるように言った。

 「今日のうちに、この街出るぞ」


 あまりに突然で、私は瞬きをした。


「……は?」


「お前の噂広まってるからな。」


「え?!」


「事実だろ?」


「……っ! ていうか、その“顔”を晒したの、あんたのせいでしょ!」


淡々とする返事にイラッとして返した。丁寧な言葉でも何でもない私自身の言葉で。不味いと思った。隷属する立場の私の使っていい言葉じゃない。


「俺のせい?」


許された?それでいいの?


「………当たり前でしょ!あんたのせいよ……!」


試すように軽口で返した。


「ふーん」


やっぱり許される。良いんだ。これでいいんだ…。あなたは私に何を望んでるの?


「ふーんじゃない!」


つい、また確かめるように軽口で返してしまう。


「じゃあ不可抗力だな」


ふふ。なにそれ、意味不明じゃない。不可抗力の使い方間違ってない?でも…彼は許してくれるんだ。こんな感じでいいんだ。


「不可抗力?!なわけないでしょ!!」


なんだか楽しくなってきた。


「そうか。まぁ、あのだらしない顔を晒したのはお前だからな。」


っ!!!これは本気で殺してやりたいと思った。でも、不思議と本気の殺意はわかず……。


私を捕まえて全てを、奪った最低な男。なのに殺意は芽生えない。それどころか恨む気すら起きない。むしろ私が知りすぎてるからかもしれないが……隷属紋とは本当に恐ろしい。


「~~~~っ!」


羞恥の熱が首まで駆け上がり、私は言葉を詰まらせた。……この人は……まったく……お礼なんて言わないわよ?。


 シオンは口の端を持ち上げると、急に表情をやわらげた。


「ほら、部屋に戻って荷物まとめるぞ。」


なんだかこいつズルい。ほんんんっとずるい!


「そんな優しさ見せるなんて雪でも降るんじゃないの?」


そう返すのが精一杯だった。


「ん?あぁ、降ったら降ったで――足元の水が凍らなきゃいいな」


 その言葉に、胸の奥が一瞬跳ねた。……足元の水、って――まさか?!こいつはぁ!!!


「~~っ!」


耳まで熱くなり、私は慌てて背を向けた。そんな私の反応を、シオンは愉快そうに見ていた。


 私は知っている。知りたくもない事実を。

彼が私の命を助けるために隷属紋を刻んだことを。私の醜態を見せることでそれ以上事を要求されないように守ったことを…。


長く冒険者をしてきた経験がこの過程がどうやって出来上がったのかをわかってしまっている。


このギルドまでのシオンの態度。私への扱い。

隷属紋を刻まれた女がどんな仕打ちにあうのかも私は知っている。そうならないように彼が私を守った…歪んだ独占欲抱いてるように見せて…今こうしてここにいれるのはコイツのおかげだと知ってしまっている……


だからたちが悪い。

コイツは私に恨まれようとしてる。恨まれて私が絶望して自ら死に向かわないよう誘導しようとしてる…。


ほんと馬鹿ね。私も二つな持ちなのよ?紋持ちのことなら知ってるのに。ホントにバカだ。


だから、私はコイツを恨めないし憎めない。

それどころか……


ないないないない!


それだけはないと必死に心を否定した。


〜シオンSide〜


 宿の扉を押し開けると、朝の冷たい空気が流れ込む。隣を歩くリシェルは、視線を前に向けたまま少し早足だ。

 「……心配するな」


そう言うと、彼女は肩をすくめてこちらをにらむ。


「っ……も、元はと言えばあんたのせいでしょ!」


その通り過ぎて何も言えないが…みとめちゃいけない…


「俺のせいか?」


嫌なやつに…ならないと…


「当たり前でしょ!」


言葉にトゲがあるのになんだこの感じ?


「……そうかもな」


 その言葉に、彼女はわずかに足を緩めた。

 俺は歩きながら、彼女の肩からかけた荷をひょいと取る。


「……何よ」


「重いだろ」


やってしまった。つい、重そうに見えて持ってしまった。


「別に平気よ」


あー、難しい


「足元、段差ある。踏み外すなよ」


嫌われないとと思うのに、少しでも自分をよく見せたいと思ってしまう。


「はいはい」

 

 通りの角を曲がるころ、彼女がぽつりと呟く。


「……優しいのね」


この言葉は少し嬉しかった。でも、ダメなんだ。


「そうか?」


ちゃんと恨まれないと…


「やっぱほんとに雨でも降るんじゃないの?」


 隙を見せるとすぐにからかってくる。隷属紋の影響がいい方向に働いていて彼女の精神を保護してくれてるのだろうか?それとも元々こういう性格なんだろうか?


「はは、降ったら降ったで、火を起こせばいいさ」


「……ひ、火って……そ、それって……」


言いかけたところで、リシェルの顔がみるみる赤くなる。どうやら自分でとんでもない想像をしてしまったらしい。これに関しては特に意図はなかったんだがな。


「お前、何考えてんだ」


はぁ〜、こういうところがすごく可愛と思ってしまう。だいぶやられてしまってる自分がいる。


「な、なにも考えてないっ!」


ホントに分かりやすいなぁ。声裏返ってるし。


「声裏返ってるぞ」


この会話がとても楽しい。独占したいと思ってしまう。


「うるさい!」


「……でもさ、そうやって必死に否定してる顔、可愛いけどな」


つい本心が言葉に漏れてしまう。できたら彼女には嫌われたくないんだがな……。押し隠そうとしたその気持ちの発露かもしれない。


「っ……! そ、そんなこと言うから余計に……」


「余計に?」


「……変な気持ちになるの!」


ぶっ!そっちかよ。


「おーい、また自分で言っちゃったな」


隷属紋ってそんなに強く作用するもんなのか?!


「変な気持ちになるのは……隷属紋のせいよ!」


うん。そうだよな。隷属紋って催淫効果あるって話だしな。ホントにごめんなさい!


「隷属紋…そうだよな……」


「そうよ! 絶対そう!」


この1週間ずっと一緒にいたがこんな会話はしたことなかったな…。こんな会話をできるのが隷属紋の効果じゃなきゃいいな……


「じゃあ紋のせいってことは……俺が命じたら、もっとドキドキするのか?」


ホント楽しい…


「なっ……! そ、それは……」


「ほら、黙った。図星か?」


「図星じゃない!」


 俺はさらにからかう。


「じゃあ試すか? “もっと赤くなれ”って命令してみるとか」


「っ……そ、そんなこと言われたら……」


「ほら、もう赤くなってる」


「ばか!紋が発動すんのよ!」


「じゃあ、期待してるとか?」


「してない!」


「――俺は期待してるけどな」


だめだな。ちょいちょい本音が出てしまう。嫌われたくないけど…いや、嫌われないといけないからいいのか…。


「……っ! やめなさいよ、そういうの!」



旅立ち


 厩へ到着すると、扉を開け、干し草と獣の匂いが鼻をくすぐった。馬たちは朝日を浴び、のんびりと耳を動かしている。

 リシェルは何のためらいもなく一歩前に出て、馬の首を撫でた。


「立派な馬ね。筋肉の付き方もいい」


手綱を引く動作も、鞍を確認する手つきも、無駄がない。さすがは元一流の冒険者。危なっかしいところなんて一つもない。


 「……馬の扱いは慣れてるんだな」


「当たり前でしょ。あんた、私が初心者だと思ってるの?」


「少なくとも昨日の夜はな」


顔を真っ赤にしてジト目でにらまれ、肩をすくめる。

奥から厩番の老人が近づいてきた。


「はいよ、あんたらどの馬にする?」


「ああ、この2頭頼む。」


「銀貨2枚だ。馬は到着した街で返せばいい。ここに名前と目的の街を書いてくれ。」


「わかった。」


リシェルが首をかしげる。


「街で返すって……ああ、あの乗り回しの仕組み?」


老人はうなずいた。

「そうだ。馬は街ごとに持ち回りだ。返してもらえば、また別の客に使える。旅人同士で馬を回せば、無駄がねぇって寸法よ。襲われちゃしかたねーが。馬に無理はさせるなよ。目的の街で馬を返さないと次借りるときに保証金もらうからな。ちゃんと返すんだぞ。」


「ああ、わかってる。ギルドに管理されてんだ。誤魔化しが利くなんて思っちゃねーよ。」


「ならいいさ。」


 その後、荷物の積み込みも、リシェルは俺より早いくらいだった。


「こっちは終わったわ。そっちは?」


「……もうすぐだ」


「もうすぐなの?手伝おうか?」

言いながら手を伸ばしてくるが、俺は軽く制した。


「いい。お前は馬に乗る準備をしてろ」


「……わかったから命令口調はやめて。」


 一瞬、リシェルの視線が妙に逸れた。眉間にわずかに皺を寄せながらも、どこか落ち着かない様子で馬へ向かっていく。……やってしまったことを申し訳なく思った。たぶん、隷属紋が緩やかに働いたんだろう。


ほんとすんません!

 

 支度を終え、並んで馬を歩ませる。ふと横を見ると、リシェルが口元をゆるめていた。

「何だ」


「別に。ただ……こうして出発するの、ちょっと楽しいなって」


「そうか」

その言葉に思わず顔がにやけそうになった。


 厩を出て並んで歩く2人。街道を二頭の馬が並んで進む。まだ朝の冷たい空気が残り、馬の吐く息が白く揺れる。蹄の音が規則正しく響き、背中に伝わる揺れが妙に心地いい。


「これからもよろしくな。」


ふと、言葉が漏れた。


「えっ?!う、うん。」


恥ずかしそうに応えるリシェルを見てると顔がにやける。そんな自分を悟らせないようにリシェルへと話しかける。

 

「……え? よ、喜んでんのか?」


「はぁっ!? な、なんでそうなるのよ!」

リシェルは馬上で体をひねって顔を背けるが、耳まで赤いのは隠せない。

 

「いや……だって真っ赤…」


「ち、ちがうってば! !」


「へぇ……」


「期待いなんてしてないって言ってるでしょ!」


「は?え?期待???」


「うるさい!もういい!話しかけないで!」


リシェルの反応に俺は思わず笑った。


リシェルが賞金首に堕ちるきっかけを作ったのは、俺の仕事が悪に加担していると知らず、手を貸してしまったからだ。


俺の依頼は成功。


その後、彼女は賞金首として手配された。


どうにかして彼女をその運命から救いたいと思った。だが、結果としてこの形にしかならなかった――俺のせいで、こんなことになったのだと、深く後悔している。


たとえ「この方法しか彼女の命を救えなかった」と自分に言い聞かせても、胸の奥の痛みは消えない。


なぜここまで救いたいと思ったのか。

――答えは明白だ。

気づいた時には、すでに惚れていた。

そんな相手を、俺は……奴隷に落としたんだ。


高尚な理由など、どこにもない。

言い訳をしてはいけない気がした。


ならば――恨まれよう。

彼女にとっての怨嗟の対象となることで、少なくとも苦しませることはないだろう。

彼女が自分を責めることのないように……。


後悔の影を胸に抱えながら、俺は彼女の歩幅に合わせて、静かに馬を走らせた。

読んでくださり、ありがとうございました。

最終話まで書き上げていますので、テンポよく投稿していければと考えています。

後日談として続編を描く予定ではありますが、最終話をもって一旦連載は終了とさせていただきます。

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