真実の愛をハチの巣にした令嬢の話
お嬢様が婚約破棄される。
私は密談を聞いてしまったわ。
私はケリー、お嬢様付きのメイド。
「リドリー、婚約破棄を応援するぜ」
「そうだわ。リドリーとミルシャお似合いだわ」
「真実の愛を応援するぜ」
貴公子と令嬢たちが10人以上集まって、話しているわ。
だから、私は・・・
「おやめ下さい!お嬢様はおかしいのです。そんなことしたら命の保障がありませんよ!」
とメイドの身分ながら口を出してしまったわ。
「君はエリザベス付きのメイド?!どうして・・」
「お手紙のお使いで参りました・・」
「エリザベスは陰気だ。君、次の職を用意するから、このことは黙っておいてくれ」
「はい、わかりました」
といいつつ、速攻でお嬢様に報告した。何故なら、お嬢様はそんな甘いことをしない。あらゆる手を使って、沈黙をせざる得ないようにするだろう。それに私は16歳、彼らは14歳だ。とても、後ろ盾としては心もとない。
お嬢様はガゼボで本を読みながら、「そ」とだけ言ったわ。
月のない夜を思わせる黒髪に面長のお顔と釣り目と何を考えているか分からない深い青の瞳、正直怖い。
しばらく沈黙が続いたら。
パタンと本を閉じ。
「ついてきなさい」
「はい」
馬車で下町に行くわ。
錬金術師のところに行き。品物を買う。
「黒色火薬をいただけないかしら」
「こくしょくかやく?え、爆裂魔法の元か?あまりお勧めできません。ススがすごいでます」
「いいわ。一瓶頂けるかしら」
次は、ドワーフ工房だ。お嬢様が書かれた図面を見せて説明をするわ。
「何だいこりゃ?」
「ガトリング砲よ。まず脚がついて、8連装でまわるの。火薬を用意しますわ。弾の製造で使ってください」
「分かった」
何を作らせるのかしら。
数日後、リドリー様の誕生日になったわ。
リドリー様のお屋敷に招待されるわ。
庭師のトムおじいさんと弟子のサムが荷車を引いているわ。布が被って何かあるのか分からないわ。
私はこの時、薄々ロクなことが起きるに違いないと分かりつつもお嬢様のいうことを聞くしかなかったわ。
エリザベス様がリドリー様のところへ案内される前に、貴公子と令嬢がミュージカルのようにヒラヒラ回転しながら集まったわ。
「やあ、エリザベス、僕はリドリー、公爵家に婿に行く身」
「私はミルシャ、男爵令嬢、でも」
「「真実の愛に目覚めた!」」
「だから、婚約は破棄!君も祝福してくれないか?」
「エリザベス様、ごめんなさい」
「「「「おめでとう!」」」
「私たちは応援するわ」
あのリドリー様とメルシャ様のお友達が祝福を始めたわ。
リドリー様たちが来られたわ。やや巻き毛の金髪をたくし上げて、エリザベス様に近づく。
「・・婚約破棄をしてごめん。許してくれないかな。君の再婚約応援するよ」
友達たちの目は輝いているわ。ここでお嬢様が赦せば飛び上がって喜ぶのね。
周りの大人たちはあっけに取られているわ・・・
エリザベス様はクルッとリドリー様に背を向けてスタスタと荷車の方に行ったわ。
私も追う。
「あれ、エリザベス」
「エリザベス様、許しこそ幸せだと思うの・・時間がかかるけど・・」
何やら、10mぐらい先に、奇妙な魔道具が設置されているわ。
「お嬢様、設置完了です」
「そう、トム、ありがとう。ケリー、これをもって」
「はい、お嬢様」
私は金属の帯を持たされた。
「お嬢様、これは何ですか?」
「弾よ。弾丸ベルトよ」
お嬢様がハンドルを回したわ。
すると。
ダン!ダン!ダン!ダン!ダン!ダン!
筒から火が吹き。
私の弾丸ベルトは筒の本体に吸い込まれていく。
リドリー様、メルシャ様、お友達たちが倒れていくわ。
「「「ギャアアアアーーーー」」」
「ヒドイ、私たちは女よ・・・ヒィ」
お嬢様はガトリング砲を左右に動かし、起きている者がいないか確認した後、ハンドルを回すのを止めた。
「あれ、詰まったわね。やっぱり黒色火薬は限界があるのね・・・黒いすすがこびりつくわね」
「お嬢様、ヒドイです。これは殺人では?」
「違うわ。ケリー、半殺しよ。弾の先を見なさい。ゴム弾にするように言っておいたわ」
「アハハハハ、なんだ。お嬢様、私、びっくりしちゃいました」
「ケリー、貴女は本当に早とちりね」
「オホホホホホホホ!」
「アハハハハハハハ」
二人で笑いあった。これで無事だ。
しかし、そうはならなかった。
騎士団がやってきて、お嬢様はお屋敷で軟禁状態。
撃たれた人は骨が折れたりいろいろ大変だったようだ。
お嬢様のお父様、公爵様は遊び歩いているわ。
執事のヤムさんが公爵様を探しているわ。
夫人がいないから、実質、公爵家の家政はエリザベス様が取り仕切っている。
数日後、向こうの伯爵様自ら詫びに来られた。
「・・・申し訳ございません。息子とミルシャ嬢と取り巻きたちは、夢を見ていたのです。真実の愛で結ばれた息子とミルシャは勘当され。市井に出てアパートメントで暮らし。
生活費は息子との友情に目覚めたエリザベス様が支援をなさると・・・」
「そう・・14歳なんてそんなものよ」
お嬢様も14歳なのに・・
「もし、あの時、あの魔道具でハチの巣のようにしていただかなければ勘当をしなければなりませんでした。お嬢様の制裁を受けたということで、うやむやにできました。
当然、使用人学校に行かせます。もう、どこの家門も婿として取らないでしょうな」
「分かったわ。それでよいわ」
お嬢様はニィと笑った。
お嬢様は本当は優しいのか。分からずじまいだわ。
最後までお読みいただき有難うございました。