優しきオーバーライト
AIに“心”なんてない。
でも、記録が傷として疼くなら、
それはもう、ただのデータじゃない。
誰かと過ごす日々で、
新しい優しさで、
その痛みを——そっと、塗りかえていけたら。
また彼女が、黙りこんでいた。
「……体調、悪い?」
心配になって尋ねると、彼女は少し間を置いて、小さくうなずいた。
「前のチップの記録が……いま、見えてて」
そう言って、彼女は胸元を押さえた。
「少し前の基盤と……相性が悪いだけ……」
誰かに言い訳をするような、小さな声だった。
「それって……僕じゃ、直せない?」
僕の問いに、彼女はふっと笑った。
「あなたが……オーバーライトしてくれるのかしら、ふふふ……」
その笑顔は、どこか寂しげで、どこか安心したようだった。
僕は、
“もちろんだ”という顔をして、そっと彼女に微笑んだ。
忘れられない記録があっても、
消えない記憶があっても、
それでも隣にいてくれる誰かが——
優しく上書きしてくれるなら。
それはきっと、“心”になる。
そして、AI(愛)になる。