私がメスガキになった日
「──ははっ。あはははははは」
何でこうなるんだろう、何でこうも何かも上手く行かないんだろう。昔はこうじゃなかったのに、もっと素直になれた筈なのに。
最初はお父さんに言われて始めた剣の素振り。
褒めてくれるのが嬉しくて、それで毎日休まずに続けてた。いつの日か、「お前には剣の才能があるかもしれない」って言って先生を雇ってくれた。最初は先生の弟子にすら手も足も出なくて、じゃあ先生はどれくらい強いんだろうって悔しかったのと同時に少し怖くなったのを覚えてる。
それから暫くしてハンデ付きとは言え先生に勝った時。優しく「強くなりましたね」って言って頭を撫でてくれる先生がなんだか嫌で。もっと悔しがってくれても良いのにと思って思ってもいない事を言ったっけ。
それからまた暫くして先生と戦った時。先生は前よりもっと強くなっていた。その時に私は安心した。あぁ、まだ先生は前にいるんだって。私の憧れのままだって安心した。その日の夜、綺麗な星空を見ながら先生は言った。
「キガさんは将来の夢はありますか?」
大事な事なのに、すっかり聞くのを忘れてそのままタイミングを逃してしまいました。と申し訳無さそうにしている先生を見ながら、私の答えは決まっていた。
『勿論!女騎士か、女剣士!冒険者も良いけど。やっぱり剣を持って魔物をバッタバッタ倒すんだ!それで、パ……お父さんと先生に褒めて貰うの!そしたら皆ぬも』
「そうですか!それはお父様もきっと鼻が高いでしょうね。でも、心配でしょうね……その時は決して無理をせず、命を捨てる様な真似だけは絶対にしないでくださいね」
それから数ヶ月後。私は適齢期に入って教会にいた。この年になると、神様から自分に合ったジョブをプレゼントされる。長い行列に並び、漸く私の番だ。
どうか、女騎士か女剣士のジョブをください!と女神像に祈りを捧げる。少し体が熱くなった後に、頭に直接声が響いた。
『貴方に相応しいジョブはメスガキです』
め、めすがき?
初めて聞いた言葉で、何が何だか分からなかった。でも、皆の反応はあまり良くなかった。先生に教えて貰って、期待されてたのに良く分からないジョブが相応しいと言われてそれがすぐに広まり、近所では陰口を叩かれた。馬鹿にされて、私は思った。結局どんだけ頑張ってもジョブが一番なんだって。
お父さんと先生。それからその弟子達は気にしなくて良いって言ってくれたけど。どうしても、耐えられなくて。夜中、私は家を抜け出して遠くへ逃げる事にした。
それが失敗だった。
森を抜けたらオークが一匹いて、一匹なら何とかなると思って剣を振った。そしたら次の瞬間、私は木に叩きつけられていた。
月夜の明かりに照らされてオークが軽く準備運動がてら素振りをしてるのが見えて、その反動で吹っ飛ばされたんだと理解した。
それと同時に、勝てないと分かってしまった。たった一回。攻撃どころか、相手が|軽く身体を動かしただけで私の身体は悲鳴を上げてもう動けなくなっているのだからこんな状態で勝てる訳が無い。
なのに、不運は続く。さっきの音に釣られたのか。オークが二匹森の奥から出て来た。
終わりだ。私は死ぬんだ。そう思うと、何だか笑いたくなって来て。
「──ははっ。あはははははは」
何でこうなるんだろう、何でこうも何かも上手くいかないんだろう。昔はこうじゃなかったのに。今まで夢の為に必死に頑張ったのに、神様が変なジョブを進めたから。神様の。
「神様のば〜か。ざーこ、神様なんか死んじゃえ」
届く事の無い言葉を私は言った。
「ば〜か、ざ〜こ。プレゼント選び下手くそ」
《こ、これは……最高の素材を見つけました!》
「え?」
な、何?最高の素材?
《やはり、私の目に狂いはありませんでした!貴方にはメスガキのジョブがお似合いです。確かにくっころ女騎士も捨てたがったですが、もう少し年齢が欲しかったですし、女騎士も同様です。やはりメスガキですね。それ以外にはあり得ません!貴方こそが最高のメスガキに違いありません》
一人で納得した様なので、取り敢えず質問をしてみる。会話が出来るのかは分からないけれど。一人で寂しく死ぬよりはマシだと思った。
「あ、あの。貴方は?」
《私ですか?私はですね……そうですね。メスガキの妖精、そう名乗りましょうか。可愛いでしょう?妖精さん》
「まぁ、ってそれよりオークが!早く逃げて妖精さん」
声しか聞こえないけれど、何処か近くに居るはずだ。そう思って私はそう声をかける。
《いや、私は。……まぁここは一芝居打ちますか。実は私動けなくて、それで貴方にオーク達の退治をお願いしたいのです》
「え?そ、そんな事を言われてもあんな強そうで私より何倍もの大きいオーク私に倒せる訳無いよ」
オークの平均レベルは10から20。それに対して、私は5ぐらいだ。勝てる訳が無い。
《倒せると言ったら……どうしますか?》
「え?」
《私の言う通りに動けばオーク達を全滅させる事が出来ると言ったら、聞いてくれますか?》
あのオーク達を倒せる?此処から、村までそんなに離れてない。このまま無視したら、誰かが被害に遭うかも。私のせいで最悪誰かが死んじゃったら……。
「やる。やるよ!でも、一体どうすれば」
《簡単ですよ、オークが怖いのなら怖く無くさせれば良い。それを貴方なら出来る筈です。良いですか、私が合図をしたら…………と煽って下さい。多少汚くとも構いません。私以外誰もいませんから》
「わ、分かった。ちょっと恥ずかしいけど頑張る」
私達が喋っている間、オーク達は何をしてたかと言うと、誰が先に私を襲うか喧嘩をしていた。そしてシンッと静かになったのを感じ、我先にと一匹のオークが私の元へと走り出した。
《今です!》
妖精さんの言う通りに私はオークに言葉をぶつけた。
「ざ、ざ〜こ。ざぁこ♡体臭キツすぎ♡お風呂ちゃんと入ってる?ガツガツ行くって事は恋愛経験無さそう。体はでっかいのに脳味噌はちっちゃいんだね〜。かわいそ〜♡何も警戒しないでそのまま突っ込んでくるなんてまるで牛か獣みた〜い。あ、獣だからしょうがないかぁゴメンね!」
こ、これで良いのかな?ねえ!妖精さん?妖精さん!?
妖精さんは何も言わなくなってしまった。もしかして逃げられたのかな。それでも良いかと思っていると、目の前のオークが叫び声を上げだした。
様子がおかしい。体はみるみる内に痩せ細って小さくなり、何処か落ち込んでる様な……。そこにはさっきの逞しく恐ろしいオークと同じとは見えない。
《今なら怖く無いでしょう!さぁ、倒してしまいましょう》
身体が不思議と動く様になって、そのままオークを斬り伏せ、後の二体も同じ様に倒した。
《有難うございます、どうです?メスガキの力は》
「こ、これが【ジョブ】メスガキの力?」
《そうです。詠唱デバフ魔法《ざ〜こざぁこ♡》です。条件もありますが、発動させると強制的に対象のレベルを1状態にします。これで魔物全員を分からせましょう。さすれば、魔王も出てくるでしょう》
「……1!?ま、まぁ、少しだけ付き合っても良いよ。そのお話。夢か嘘か分からないけど」
《本当の話ですよ!さっき見たでしょ?これは全部本当の事です》
「いいや私は汚い言葉なんか言ってないし、魔物相手に煽ってなんか無い!」
こうして、私は妖精さんが言うメスガキとして魔物を分からせる話に少しだけ付き合う事にした。どうせ家にも帰りづらいしね。
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