結婚後1
「…ねぇ、アンナ。私の旦那様、ハイスペック過ぎないかしら。」
「……今更ですね。」
なぜ私がこんなことを言い出したのかというと、私は伯爵家にいた頃と変わらない生活をしているからだ。公爵家が持っていた屋敷を一つ、新婚祝いにとくれた為今はそこで暮らしているのだ。その屋敷の広さに合わせて、少数だがきちんと使用人がいる。
そしてこれは婚約後に知ったのだが、カイン様はなんと一代限りの男爵位持ちだった。特に言うことでもないがと教えられた時は、驚きでポカンとしてしまったほどだ。
男爵位持ちで黒騎士団の副団長で高給取り。見た目も好みど真ん中で真面目で可愛らしい。
「こんなの惚れるなという方が無理よね。」
「……。」
「ちょっと、アンナ。何か言ってよ。」
こっちを見たアンナは溜息をつくと、お茶を入れながら口を開く。
「…それは奥様が変わっておられるからですよ。」
「ふーん、でも私からしたら皆がおかしいのよ。薄い方がいいだなんて、理解し難いわ。それに同じような色ばっかりで見分けがつかないわ。正直挨拶されても顔なんてちっとも覚えられない。」
「人前でそれは言わないでくださいね。」
「流石に分かってるわよ!でも仕方ないじゃない。私からしたら、鳥の個体を見分けろと言われてるようなものなのよ!そんなの分かるわけないわ!」
黙ってしまったアンナは、残念なものを見るような目をしている。
「…ほら、そんなことを言っていないで支度してください。そろそろ旦那様がお帰りの時間ですよ。」
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俺の妻となったシアはますます綺麗になっている。十八歳だった少女はだんだんと大人っぽくなり、その外見と天真爛漫な幼い中身のせいで、ファンが絶たない。
そのため俺の不安も、いつまでも尽きることがないのが現状だ。夜会などに参加した際に、明らかにアピールされているシアを見ると、いい気はしない。だが、一貫して同じ態度をとるシアに、少しだけ安心してはいる。
今日はいつもより少しだけ早く帰ることが出来た。いつもの時間じゃないからか、出迎えがないが代わりに驚かせようと、シアの部屋へ向かう。
するとシアの話し声に足を止めた。
「こんなの惚れるなという方が無理よね。」
「……。」
「ちょっと、アンナ。何か言ってよ。」
一瞬誰のことをと思ったが、アンナの言葉で自分のことだと理解した。
「…それは奥様が変わっておられるからですよ。」
「ふーん、でも私からしたら皆がおかしいのよ。薄い方がいいだなんて、理解し難いわ。それに同じような色ばっかりで見分けがつかないわ。正直挨拶されても顔なんてちっとも覚えられない。」
「人前でそれは言わないでくださいね。」
そうだったのかと納得すると同時に、あの顔は見分けが付いていない時の顔だったのかと、おかしくなった。
「流石に分かってるわよ!でも仕方ないじゃない。私からしたら、鳥の個体を見分けろと言われてるようなものなのよ!そんなの分かるわけないわ!」
シアの言葉に自分の悩みが吹き飛んだ気がした。俺以外の男を平然と鳥と同列化させる彼女は、きっとこれまでも、これから先もそうなのだろう。俺の出迎えの準備をし始めたシアの為に、黙って玄関へ歩き出す。
「あら、おかえりなさい。いつもより少し早いのね。」
そう言って出迎えてくれる、愛しい人を抱きしめながら幸せだと思った。
「ああ、ただいま。シア、今日も愛しているよ。」
嬉しそうに頬を染めるシアは小さく「私もだわ」と呟く。アンナは苦笑しながらこちらを見ているので、俺が部屋の前で聞いていたのを知っているのだろう。
シアに視線を戻し、今日は何があったのか報告を聞くために、手を取って歩き出した。ニコニコと笑って握り返す彼女を、俺はこの先もずっと愛しているのだろう。