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6(カインside)

舞台で堂々と立っている銀髪の少女。高めの位置でくくった髪はキラキラと輝き、騎士服に似た戦闘服は彼女の魅力を引き立てる。彼女の体格からは、少しだけ長く感じる剣の柄を撫でる姿は、女神の宗教画のように美しかった。


「リリちゃん…大丈夫かな…。」


不安そうに隣に座ったマクベス伯爵と会うのは、婚約の挨拶の時以来だった。


「彼女なら大丈夫だと思いますよ。無茶はしないと約束しましたし。」


とりあえず落ち着かせるようにそう言うと、こちらをうるうるとした目で見る。髪色はとても似ているのに、こういうところは似ていないようだ。


「…そうじゃないんだけどね…。」


意味深に呟いた言葉に疑問に思ったが、アナウンスがなり舞台に目を向けた。


途中相手の新人騎士が彼女を心配していたが、彼女は不思議そうな顔をしてものともしない。俺は彼に完全に同意したがその思いは、彼女が一歩踏み出して覆った。一瞬で変わった顔つきで、踏み込んだ一歩は少女のものとは思えない。即座に反応した彼は彼女を弾き飛ばしたが、彼女はそのまま宙を舞い着地する。彼が踏み込んだ途端、フッと笑った彼女は無詠唱で魔術を展開した。そのまま彼の隙をつき刃を突きつけた。鮮やかだった。剣を下ろした彼女は俺を見つけると、ニコニコと笑って手を振る。


(可愛い…。)


少しお転婆で予想のつかない行動は見ていて飽きない。色のなかった世界が一気に色づいたようだった。子犬のような彼女にフッと笑い、手を振ると嬉しそうにする。


「リリちゃん!」


いつの間にか隣にいた伯爵は、シアの元へ向かったようだった。

その後の会話も衝撃的だった。会話が会場に聞こえていることを知らないのか、あえてなのか忘れているのかわからない二人は、いつものように話している。


伯爵が心配していたのは、彼女ではなく彼の方だったらしい。


(それもそうか…、シアの剣は伯爵から教わってるもんな。)


白騎士団長である彼も、相当の実力者だと聞いたことがある。そんな伯爵がシアにやり過ぎだと言っている。それに対して、十分に手加減したというシアの、あの鮮やかな模擬戦を思い出し納得した。新人騎士である彼は肩を落として退場していく。


「でも、その程度でやる気を無くすなんて、騎士に向いてないわ。その程度の思いならやめた方がいいわよ。お父様は甘いのよ。私だってこの実力は努力したからよ!」


彼を見て言い放ったシアの言葉は、彼女らしくてつい笑ってしまう。シアの言葉を聞いて文句を言えるものはいないだろう。彼女の努力は本物だろうから。無詠唱の魔術もあの口ぶりから全属性扱えるのだろう。あの軽快な動きは、剣術だけではなく体術も習ったのだろう。

シアが去った後も彼女の姿が忘れられない。周りも俺と同じなのだろう。ザワザワとした空気は次の試合が始まるまで続いていた。


****


とうとう決勝戦、そうならなければいいなと思っていた出来事が、起こってしまっている。


『さぁ!決勝戦は鮮やかな剣さばきと無詠唱魔術で戦う乙女、リリーシア・マクベス!対して相手は黒騎士団の副団長、力強い太刀筋と確実な戦略で圧倒する、カイン・オルクロウ!さぁ、この大会どうなるのでしょう。そしてここで一つ小話ですが、この二人実は婚約者なのだそうです!』


溜息を一つつき、シアを見る。彼女はいつも通りニコニコとしていて、一切引く気は無いようだ。俺が棄権をとも考えたが、シアに先に釘を刺されてしまった。


「こんな機会でもないと、カイン様は相手してくれないでしょう?」


と笑った彼女にはかなわないと思った。

開始の合図がなり踏み込む。一太刀入れて気づいた。


(身体強化…)


この速度で彼女は魔術が使える。あまり手加減すると、びしょびしょになりそうだと思った俺は、彼女が踏み込んできたところを剣を滑らせる。驚いた彼女がバランスを崩したところを支え、自分の持っていた剣を捨てる。シアの剣を持っている手を握って止めると、顔を赤くした彼女が抗議する。


「それは卑怯ですわ!私がカイン様を好きなことを利用するなんて!…でも、支えてくれるなんて紳士的ですわ。結局どんなカイン様も好きです!…私の負けです!」


そう言って剣を離した彼女が飛び込んでくる。勢いが良くて、首に巻きついたまま離れない彼女をそのまま抱き上げ、上機嫌な彼女を運んで退場した。

いくつか目線が突き刺さっていたが、彼女の満足そうな顔を見ると、気にしないことにした。


****


「副団長!説明してください!」


「マクベス嬢が、あんなに笑ってるとこなんて初めて見ました!」


「なんで教えてくれないんですか!」


執務室に入るなり抗議する騎士達に顔が引き攣る。


「…いや、だってお前ら信じないだろう。」


ぐっと言葉に詰まった彼らは負けじと続ける。


「リリーシア嬢強すぎません!?」


「彼女可愛すぎますよね!?見た目だけじゃない、中身まで天使だとは…。」


「副団長のどこがいいって言ってましたか!?」


怒涛の質問攻めに少し落ち着けと言いながら答える。


「俺も戦うのは初めて見た。可愛らしいのは同意しよう。そして………彼女は一目惚れだそうだ。」


自分で言ってて耳を疑う。彼女の謎の感性は未だによく分からない。けれど、もう彼女の愛を疑ってはいない。


(…そうか。俺も彼女のことが好きなんだな。)


「副団長……ずるいですよー!!」


「あんな可愛い婚約者、羨ましい!」


叫んでいる彼らを放置し、一足先早く訓練場へ向かうことにした俺は、きちんと彼女に気持ちを伝えようと決めた。

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