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私とカイン様の婚約はトントン拍子で整った。
そして今日はカイン様の家へ挨拶に来ている。
「…あぁ、少し緊張してきたわ。アンナ、私の頬を殴って気合いを入れてくれないかしら。」
「…おかしな事を言わないでください。私までおかしいと思われます。」
冷たいアンナに頬を膨らませ、出迎えてくれた公爵家の敷地に降り立つ。エスコートをしてくれるカイン様の腕を取り、いつも通り微笑んで挨拶をする。
「マクベス伯爵が第三子、リリーシア・マクベスと申します。この度はカイン様との婚約を認めて頂き、ありがとうございます。」
そう挨拶をすると、そんなに畏まらないでと言って私に挨拶を返してくれる。
「カインの父であるジークハルトだ。君の熱烈な手紙はとても興味深かった。」
「私はカインの母のマーガレットよ。よろしくね。」
「私はカインの一番上の兄のラフィル・オルクロウだよ。カインをよろしくね。」
「俺はクラウス。カインの兄だ。噂のご令嬢に会えて嬉しいよ。」
そう言ったカイン様のご家族は、応接室に通されると、カイン様とぴったりとくっついて座る私を見て、ぎょっとしていた。不思議に思ってカイン様を見上げると、なんともいえない表情をしている。
「へぇ、カインの事そんなに好きなんだ。どこがいいの?」
不思議な顔をする周りに、よく分からないなと思っていると、クラウス様が私に問いかけた。私は少し考えて口にする。
「全てです。正直最初は一目惚れでした。月の光でキラキラとする髪も、綺麗で透き通った瞳も素敵でした。今は少し自信の無いところも真面目な性格も、勢いよく飛びついても受け止めてくれるところも好きですわ!私はもっとカイン様のことを知りたいのです!」
そう元気よく言い切った私を、ポカンと見たあとクラウス様は大きな声で笑い出す。
「あはは、良い子じゃないか!カイン。お前にお似合いだよ。」
「まぁ、嬉しいですわ。」
クラウス様の言葉に頬に手を添え呟くと、他の三人も笑いだした。カイン様をそっと見上げると耳を赤くして、目が合うとそっぽを向いてしまわれた。
「え、かわ…。」
小さく呟くと、アンナから視線が飛んできたので慌てて口を押えた。
挨拶が終わり二人で公爵家の庭園を歩く。エスコートをしてくれるカイン様は、紳士的でドキドキしてくる。少し緊張していると、ふと足を止めたカイン様が私を見下ろし口を開く。
「君はいつも直球だな。俺は君の言葉を素直に受け止めることが出来ない。」
少し悲しげな表情で言うカイン様の、その顔が見たくなくて私は口を開く。
「構いませんわ。信じて貰えるまで言い続けますもの。私はこう見えてとても諦めが悪いのですわ。」
そう言って見上げると、カイン様は目を逸らして頬をかいた。照れているような仕草に胸がつまり、つい勢いのまま飛びつくと、受け止めてくれると同時に苦笑が降ってくる。
「君は表現が大袈裟だな。」
「カイン様への気持ちが溢れたのですわ。」
カイン様に張り付いたままそう言うと、そっと背中に手を添えられ抱きしめるように包まれる。
「シアと呼んでください。」
「シア?君の愛称はリリでは無いのか?」
不思議そうに言うカイン様を見上げ、目を見て答える。
「カイン様だけの愛称です。」
ぐっと言葉に詰まったカイン様は短く息を吐いて、フッと可笑しそうに笑った。
「シア。」
カイン様に見つめられながら低く呼ばれ、自分の顔が少し赤くなったのが分かった。ついカイン様の胸に顔を埋めるとどうしたのか聞かれる。
「思ったより嬉しくて困ってしまいますね。カイン様の恋人になった気分ですわ。」
「ふっ…あはは、すまない。シア、君は面白いな。君といると楽しいよ。」
笑われたことに抗議するように、頬を膨らませ見上げると眩しい笑顔を向けられ、胸が高鳴った。
「…好きですわ。」
そっぽを向きながらそう言うと、カイン様はポカンとした後、フッと零れるように笑って私の頭を撫でた。
「照れているのか拗ねているのか分からないな。」
そう言って笑うカイン様に回した腕に力を入れると、顔を隠すように胸に顔を埋めた。何も言わずに、腕を回してくれるカイン様の温かさを感じて、しばらくそのままで過ごした。