第六話 キスがしたいな
「ふぅ……」
家に帰り、部屋のベッドに腰を下ろした。
目覚めてからも、大変だった。
泣きじゃくるサーシャを慰めながら、ギルドマスターや他の人たちに事の経緯を説明した。
ただ、サーシャを逃がして魔王と戦おうとしてからの記憶がない……。
サーシャ曰く、ギルドに助けを求めて駆けつけたとき、僕はダンジョンの入り口で倒れていたらしい。 服はボロボロだったが、一切の怪我がなかったという。
ちなみに、先に逃げた3人はダンジョンの中で死に、モンスターに食べられていたらしい。
サーシャが無事でよかったけれど、なんとも後味の悪い結末になってしまった。
あと、気になることがある。
目覚めてから、妙に“女性の唇”が気になって仕方がないのだ。
サーシャを見たとき、生きていたことへの安堵と共に、彼女のピンク色の唇が妙に綺麗だと思ってしまった。
話を聞きに来たギルドのスタッフと話しているときも、なぜか唇ばかりに意識が向いてしまう。
今までこんな気持ちになったことは、一度もなかったのに……。
ーーコンコンーー
こんな夜中に誰だろう?
「はーい」
扉を開けると、私服姿のサーシャが立っていた。
ピンクのフリルが可愛らしいワンピースを着ている。
「あ、あのぉ……中でお話してもいいでしょうか?」
上目遣いでこちらを見てくる。
……綺麗な唇だなぁ。
「あっ、いいよ。どうぞ」
サーシャを家に招いた。
この家は両親と一緒に住んでいた家で、2階に寝室があり、1階はキッチンとリビングがある。
リビングのソファーに並んで座った。
サーシャは、もじもじと何かを言いたげだった。
「こんな夜中にどうしたの?」
「あ、あの……お話したいことがありまして……」
「?」
「今日は本当にありがとうございました」
サーシャがこちらを向き、頭を下げた。
「気にしなくても大丈夫だよ。二人とも無事だったんだし」
「でも……本当に、あの時はもうダメだと思いました。リーゾットさんもボロボロだったのに、私を庇って一人で戦って……」
サーシャの目には涙が浮かんでいた。
「いつもみんなにひどいことを言われて、酷い目に遭っていたのに、私は何もできなかった。今回も何もできなかったのに、リーゾットさんはまた助けてくれて……」
「サーシャ……」
「本当にありがとうございます!」
「大丈夫だよ、サーシャ。僕は困っている人を見過ごせないだけさ。僕の両親もそうだったからね。 だから今回、ダンチさんたちは残念だったけど、サーシャが生きていて本当によかったよ」
「あ、あの……リーゾットさん!」
サーシャが何かを決心したような顔で、僕を見つめた。
「お礼がしたいです!」
「お礼?」
「なんでもしますから、言ってください!」
「な、なんでもって……」
本来なら、「気持ちだけで十分だよ」と言うところなのに、心臓がドクドクと高鳴った。
サーシャの唇から目が離せない。
サーシャと、キスがしたいな……。
「サーシャとキスがしたい……」
「えっ?」
「あっ!?!」