第五話 揺るぎない信念
「う、うそ……」
サーシャが目を大きく見開いて呟いた。
ダンチさんたちが、僕とサーシャを見捨てて逃げるなんて……。
「お仲間さんに見捨てられてかわいそうですが、容赦はしませんよ」
フードの男が再び手に魔力を込める。
だめだ、もう助からない。
絶望感に襲われながら横を見ると、サーシャは膝から崩れ落ち、大粒の涙を浮かべていた。
サーシャ……。サーシャだけは助けないと。
僕は再び盾に力を込める。
「サーシャ、僕がもう一度防ぐ。その隙に逃げるんだ!」
「え、でも、リーゾットさんはどうするんですか?」
「大丈夫。さっき《癒し》で回復したから、もう一回は耐えられる。僕も防いだ後にすぐ逃げるよ」
少しでも安心させるために、精一杯の笑顔で微笑んだ。
……元気になったなんて嘘だ。本当は身体中ボロボロで今にも倒れそうだった。
それでも、サーシャだけは……。こんな僕にいつも気にかけてくれて、優しくしてくれた彼女だけは、絶対に守らないと。
「……わかりました……信じてます……。必ず、必ず後から来てくださいね!」
涙を流しながら、サーシャは走り出した。
「まるで姫を守るナイトですね。とても素晴らしいですが、現実は残酷ですよ。お姫さまもろとも消し飛びなさい」
フードの男が魔法を放とうとした。
ーーその時ーー
「待て」
魔王が手を上げ、フードの男を制止した。
フードの男は魔法を撃つのをやめる。
魔王がゆっくりと椅子から立ち上がり、こちらに歩み寄る。
目の前まで来ると、
「小僧、なぜお前は逃げなかった?」
低く威圧感のある声で問いかけてきた。
「ぼ、僕は……困っている人を見捨てない……。僕も両親のように、困っている人がいたら手を差し伸べる……そんな人になるために、冒険者になったんだ!」
震えながらも、自分の信念を伝えた。
そうだ、困っている人を助ける。それが僕の冒険者としての信念。どんなことがあっても、その信念だけは変えてはいけない。
魔王と僕の間に、しばしの沈黙が流れた。
「……わかった。お前は、私が直々に相手をしてやろう」
そう言い、魔王が構えた。
勝てるはずがないと分かっていても、サーシャを守るため、僕の信念を守るため、僕は魔王に立ち向かっていった。
「うぉぉぉぉぉぉぉぉ!」
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「……リーゾットさん……リーゾットさん……」
目が覚めると、僕はギルドの医務室にいた。