第四話 魔王
中に入ると、そこは王国の謁見の間のような広間に繋がっていた。 だが、薄暗く、禍々しい雰囲気が漂っている。
その奥に、誰かが座っていた。 鎧を纏い、顔は見えない。
近づいていくと――
「おや、お客さんですか?」
突然、鎧の男の隣に、フードを被った魔術師のような男が音もなく現れた。
「魔王様、いつもお客様を呼ぶならおっしゃってくださいと言っているではありませんか。おもてなしをしなければなりませんよ」
フードの男は陽気に話していた。
魔王……? 魔王は遥か昔に倒されたと聞いていたが、そもそもおとぎ話の話ではなかったのか……。
「お前たち、何用か?」
魔王と呼ばれている鎧の男が低く問いかける。 その声から伝わる威圧感は凄まじく、少しでも気を緩めれば気絶しそうだった。
みんなの顔を見ると、同じように恐怖でおびえている。
すると――
「ふ、ふん、魔王だか何だか知らねぇが偉そうに!」
ダンチが前に出て、魔王に近づいていく。 さすがはギルドでも上位の冒険者、他の者より肝が据わっていた。
「ダンジョンのボスならボスらしく、大人しくやられて財宝をよこしやがれ!」
そう叫びながら、ダンチは剣を構え、一気に魔王へと突進した。
「スキル《瞬足》最大出力! これでも喰らいやがれ!」
ダンチの本気の剣技。肉眼では一振りに見えても、実際には十以上の斬撃が繰り出されている。
これなら魔王も倒せるかもしれない。
そう思った次の瞬間――
――ガジッ――
気づけば、魔王はダンチの剣を片手で受け止めていた。
「ば、ばかな……すべての斬撃を弾いただと……?」
ダンチの顔は恐怖と絶望に染まり、呆然としていた。
「こんなものか」
――バキッ――
魔王は片手で、ダンチの剣を粉々に砕いた。
「くそっ……!」
ダンチはすぐにこちら側へと後退した。
「さてさて、魔王様に歯向かったということで、皆さま覚悟はよろしいでしょうか?」
フードの男がそう言いながら手を上げる。 すると、その手のひらから巨大な魔法が放たれた。
とてつもない魔力……。
こんなの、勝てるはずがない……。
そう思っていると、ダンチが僕の肩に手を置いた。
「リーゾット、俺に考えがある。時間を稼いでほしいから、奴の攻撃を盾で塞いでくれ」
まさかの発言。 今まで散々見下していたくせに、どうして……。 そして、逆転の策があるというのか?
不安に思いながらも、少しだけ頼ってくれたことが嬉しくて、僕は盾を構えた。
「ほう、盾で防ごうというのですか? その心意気は評価しますが、耐えられますかな?」
そう言うと、フードの男は黒い魔法を放った。
「ぐぅぅぁ……!」
盾で受け止めるが、衝撃は凄まじく、踏ん張るのが精一杯だった。
「こ、これ以上は……」
限界を感じたその時――
「リーゾットさん、頑張ってください!
後ろから、サーシャがスキル《癒し》を僕に使いながら励ましてくれた。
僕だって、冒険者の端くれ。
両親の形見でもある盾に、ありったけの力を込めた。
この盾は、父が最前線で戦い続けた証であり、母が最後まで守り抜いた想いの詰まったものだ。
ただの鉄の塊ではない。僕が冒険者であり続ける証でもあるんだ。
サーシャやパーティーのみんなのために、この攻撃、絶対に防いでみせる!
「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
――ギュンッ……ドバァンッ!!――」
攻撃を、何とか防ぎきった。
「ダ、ダンチさん、防ぎまし……た……」
後ろを振り向く。
そこにいたのは、サーシャだけ。
ダンチ、ダイ、ニシリナの姿がなかった。
「え……?」
すると、フードの男がにやりと笑いながら言った。
「お仲間さんでしたら、あなたたちが頑張っている間に、逃げましたよ」