第三十九話 かわいい嫉妬
夜
「ほんと、すごかったなリーゾット!!」
スゥは模擬戦の話を何度も繰り返していた。
今は僕の部屋にみんなが集まって、いわゆる“パジャマパーティー”をしているところだ。
全員パジャマ姿で、枕を抱えながらまったりと語らっている。
このパーティーは、サーシャの「みんなでお話がしたい」という提案で実現したものだ。
ちなみに、アカネさんは夜に戻ってくる冒険者たちの対応で、今日は夜勤だそうだ。
「サエルザ、アンジュの町並みはどうだった? 僕も行ったことないから気になるな」
「すごく赤くて綺麗だったよ。食べ物もお魚ってごはんが美味しかった! こんど一緒に行こっ」
羽をパタパタ揺らしながら、サエルザは楽しそうに旅の思い出を語ってくれた。
「あっ、そうだ。リーゾットさんにプレゼント、買ってきたんですよ」
サーシャがおもむろに袋を差し出してくれた。
「えっ? プレゼント? わざわざありがとう!」
「気にするな。今回は報酬もよかったし、みんなで選んだんだ」
「みんなで……! なんだろ〜?」
袋の中を覗くと、黒色の手袋が入っていた。
「これは……?」
「なんでも、魔力耐性のある手袋らしくてな。リーゾットはスキルをいろいろ使うから、少しでも負担を減らせると思ってな」
スゥが簡単に説明してくれた。
たしかに、今日《火炎》を使ったときに手をやけどして、すぐ《癒し》で回復したっけ……。
「かっこいい手袋だなぁ。どう? 似合う?」
つけてみて、みんなに見せると——
「すっごく似合ってます〜」
「悪くないな」
「いい!」
みんなが褒めてくれて、ちょっと照れたけど、すごく嬉しかった。
ーーー
それからも、みんなで他愛もない話をしながら楽しい時間を過ごした。
みんなのことをもっと知れて、なんだか心が温かくなる。
そろそろお開きかな……と思っていたとき、ふとスゥが口を開いた。
「そういえば、アゲーラさんの拳を受けたとき、よく耐えたな。あの人の拳は猛獣の突進と同じって聞いたから」
「ああ、それは《増筋》を使ったから持ちこたえられたんだ」
「「「……ぞうきん?」」」
一瞬、場が凍りついた。
その沈黙を破ったのはサーシャだった。笑顔を浮かべながら——
「リーゾットさん、ギルドカードを見せてください」
「えっ……?」
「見せてくださいね♪」
「……はい」
ギルドカードを手渡すと、3人は目を皿のようにしてスキル欄を凝視した。
そして——
「ななな、なんだこれはーっ!? 留守の間にスキルが増えてるじゃないか!!」
「リーゾットさん……説明してくださいね」
「リーゾット……変態」
真っ赤になって怒るスゥ、笑顔を崩さず睨むサーシャ、ジト目で冷ややかに見つめるサエルザ……
まるで浮気がバレた旦那の気分だった。
観念して、留守中の“詳細”を正直に説明した。
「で、《鑑定》がミナさん、《増筋》がアゲーラさん、《必中》がリンリンさんで……えっと、《思考》は……」
「……マイティさんです……」
「鍛冶屋ともキスしたのか!? 周りの女ほとんどとじゃないか!!」
「マイティさんとは、事故で……」
「言い訳はいいっ!!」
「は、はいっ!!」
スゥに詰められていると、サーシャがふんわりと口を開いた。
「まぁまぁ、スゥちゃん、落ち着いて」
いつの間にか、“ちゃん”付けになっているスゥを優しくなだめている。
「でも、サーシャ……」
「たしかに、黙ってキスしていたのはショックでした。でも内容を聞けば、リーゾットさんが努力して得た成果だとわかりました。それなら、今回はこのくらいにしましょう」
「サーシャ……」
「ただし——次からはちゃんと報告してくださいね?」
「すみませんでした!!!」
すぐに土下座して、なんとか許してもらえた。
「まったく……サーシャは甘いな」
スゥもぶつぶつ言いながら、しぶしぶ許してくれたようだった。
その時、サエルザが突然抱きついてきて——
「リーゾット、モテモテ。ずるい!! 今日は一緒に寝るっ!」
「えっ、サエルザ!?」
驚いていると、サーシャがにこやかに——
「そうですね。今日はみんなで寝ましょうか」
「えっ!? サーシャも!? スゥ……」
助けを求めて視線を向けると、
「そ、そうだな……これくらいしないと、許されないよな……」
顔を真っ赤にしながらスゥもベッドに乗ってきた。
「みんな……落ち着いて……」
「「「今日は寝かさないぞ♪」」」
か、覚悟を決めるしかない——
長い、長い夜が始まった。
ーーー
数日後
一人の男性が慌ててギルドへ駆け込んできた。
「大変だ!! またコカルテラリスが現れた!!」
その声を聞いて、僕の胸は高鳴った。