第三十七話 鍛冶屋マイティと新たな防具
「ダメだダメだ、そんな武器作れねぇよ」
「そんなぁ……」
翌日、僕は鍛冶屋を訪れ、昨日閃いた武器の相談をしたが、あっさりと断られてしまった。
ここは首都でも有名な鍛冶屋なので、ここなら作れると思っていたのだが……。
「親方、どうしたんですか?」
中から若い鍛冶職人の男性がやってきた。
親方はそっと図面を見せると、若い職人は眉をひそめながらそれを見つめた。
「あー……これはなかなか難しいですね。結束部や武器との連動が緻密すぎて、ウチらじゃ作れませんね。王都でもできる職人は……あっ!?」
「どうした?」
何かを閃いたのか、若い職人は親方に相談を始めた。
「マイティのところはどうですか? あの人なら、こういうの好きでしょ」
「あぁ、確かにな。先日も魔法で鉛玉を撃ち出す筒を作ってたな……」
「マイティさんって?」
僕が尋ねると、親方が腕を組みながら答えた。
「彼女はここの鍛冶屋たちの中で一番若いが、とても優秀な職人だ。ただ……」
「ただ?」
「自分がピキーンときたものしか作らないんだ。ウチからも依頼を出してるんだが、嫌々やることが多くてな……それでも他の鍛冶屋よりも良いものを作るから厄介なやつだよ」
僕は少し考えてから言った。
「じゃあ、一度マイティさんに聞いてみます」
「そうするのがいいな。おい、お前、案内してやれ」
「はいはい、こちらがマイティさんの工房です。お気をつけて」
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マイティの工房
「ここだな……」
街の外れにあるマイティさんの工房を見つけた。
中に入ると、さまざまな武器や防具が並んでいたが、どれも奇妙な形をしており、何に使うのか検討もつかないものばかりだった。
「すみませーん……ん? すみませーーーん!」
カウンターでマイティさんを呼んでみるが、一向に返事がない。
留守か……? そう思っていると——
「んんんん〜わぁ〜なんだい?」
「うわっ!」
山のように積まれた防具の中から、突然女性が姿を現した。
彼女は130cmほどの小柄な体格で、ドワーフ特有の頑丈そうな体つきをしていた。
作業着を着ているが、なかなかの双璧の持ち主……ゴクリ。
「あ、僕はリーゾットっていいます」
「わたしはマイティだ。で、今日は何の用?」
「実は、作ってほしい武器があって……」
「あー、帰った帰った」
「えっ」
まさかの門前払いだった。
「わたしは、自分がピキーンときたやつしか作らないって決めてるんだ。たまにいるんだよね、興味本位で来るやつが。でも、たいてい普通の武器の依頼で萎えるんだよ」
そう言いながら、マイティさんは僕の手から図面をひったくるようにして奪い取った。
「どうせ、剣がほしいとかなんだろ……ん? なんだ、この図面は……こ、これは!!」
マイティの目がさっきの2倍ほど見開かれ、無言になった。
「あ、あのぉ……マイティさん?」
僕が声をかけると、マイティさんは震えながら
「こ、こ、これはなんだーーー!? おもしろい! これがあれば、確かに投げるだけじゃなく、戻すこともできるな! しかも、キュルスネークの骨を使うとは……アイツの伸縮性なら可能だ! でも、これだと投げて戻すだけになってしまう。ここに、あの鉱石を混ぜて……」
マイティさんがぶつぶつと早口で図面とにらめっこしていると——
「少年、その盾を見せてくれ!」
「は、はいっ」
盾を差し出すと、マイティさんの目がさらに見開いた。
「これは……ルナナイト鉱石じゃないか!」
「ルナナイト鉱石?」
「ああ、いろんな鉱石があるが、その最上位にあるのがルナシリーズ。その中でもルナナイトは、軽量でありながら強度が抜群に高い。これをどこで手に入れたんだ?」
「りょ、両親の形見です……」
「そうか……。これなら、先ほどの理論も問題ないな。この部分はここで繋げて……ルナナイトならこの部分の問題はクリアで……」
また、ぶつぶつと早口で図面とにらめっこし始めた。
しばらくすると、マイティさんがこちらを見て——
「少年!! この仕事、ぜひやらせてくれ! お代はいらん!」
「い、いやいやいや、さすがに払いますよ……!」
「そうか、ならそこに適当に払っといてくれ! あと、盾は借りるぞ。明日には返す!」
「え、え? 明日!? 普通、一週間とかかかりませんか?」
「わたしを誰だと思っている! 天才マイティさ!! おっと、こうしてはいられん! この理論を忘れないうちに作り始めないと! じゃあな!」
そう言うと、マイティさんは勢いよく工房の奥へ消えていった。
「……嵐のような人だったな」