第三話 運命の扉
「地図には載ってない道ですね」
僕は手元の地図を確認しながら、みんなに伝えた。
「ってことは……隠し通路か。こんなに古いダンジョンなのに、まだ秘密が残ってたとはな」
ダンチは興奮を抑えきれないのか、キョロキョロと周囲を見回しながら進んでいく。
ダンジョン『魔境への道しるべ』
5大ダンジョンの一つに数えられる、大昔から存在する迷宮。
かつて、このダンジョンは_魔王城へと繋がっている という噂があり、それがギルドが設立された理由の一つでもあった。
長年にわたる探索で全貌が明らかになり、今では最も安全なダンジョンの一つとされている。
まさか、まだ未知の通路が残されていたなんて。
さっきまでの落ち込んでいた気持ちが嘘のように、胸が高鳴る。
やはり、僕は冒険者なんだ。
そう実感した瞬間だった。
「リーダー、他のやつらに見つかる前に行っちまいましょうぜ!」
「キャハハッ! お宝、たんまりあるでしょうね〜」
ダイもニシリナも、興奮を隠しきれずにいた。
「やっぱり……一度戻って、お父さん__ギルドマスターに相談しませんか?」
だが、サーシャは不安そうだった。
「大丈夫だよ、サーシャ。何かあれば、俺様が守ってやるから」
ダンチはサーシャの肩に手を置き、優しく囁く。
一見、頼もしく見えるが……彼の視線はサーシャの豊かな双璧ばかりを捉えていた。
__サーシャがパーティに入れられた本当の理由。
「チッ……」
さっきまで上機嫌だったニシリナが、明らかに不機嫌になる。
彼女とダンチは恋人関係だが、この世界では__一夫多妻・一妻多夫は珍しくない。
だからダンチも、堂々とサーシャを口説いている。
「はい……ありがとうございます、ダンチさん」
サーシャは不安げだったが、ダンチがそう言うならと、渋々ついていくことにした。
不気味な静寂
「しかし……妙だな」
ダンチがふと立ち止まる。
「モンスターが、一匹も出てこない……」
確かに__
ダンジョンに入ってから、ずっと静まり返っている。
通常なら、うじゃうじゃと湧いてくるはずのモンスターの姿がない。
これは、ただの偶然か__?
違和感を抱えたまま進んでいくと、目の前に巨大な扉が現れた。
謎めいた扉
王国の城門のように豪奢な装飾が施された扉。
だが、どこか異質な威圧感がある。
「これは……」
ダンチは、一瞬戸惑った表情を見せた。
「きゃ〜、綺麗〜! きっと財宝ざっくざくよ〜!」
「こりゃすげぇ……興奮が抑えきれねぇ!」
ニシリナとダイは、扉を見た途端に我を忘れたようにはしゃぎ、手をかけようとする。
「おいっ……ったく、まあ大丈夫か」
ダンチも、結局扉に向かう。
「リーゾットさん……私、怖いです」
サーシャが、そっと僕の袖を掴んだ。
「大丈夫だよ、サーシャ。何があっても__君だけは守るから」
「……はいっ!」
サーシャは頬を赤らめ、少し安心したように微笑んだ。
だが__
僕の心臓は、さっきからドクドクと脈打っている。
この扉の向こうで、何かが起こる。
それは不安か、恐怖か、それとも__期待なのか。
ギィィィ……
扉が、静かに開いた。