第二十九話 薬草摘みとサルン討伐戦
朝――
「う……んん?」
ーーぽよんーー
寝ている僕の身体に、何かが巻き付いている。そして、右手には柔らかい感触が……。
「さ、サエルザ!?」
慌てて目を開けると、隣には 一糸まとわぬ姿のサエルザ が、心地よさそうに寝息を立てていた。
「な、なんで僕のベッドで寝てるんだ!?」
「ん……おはよう……」
ぼんやりと目を開けたサエルザが、まどろみながら 僕の腕にぎゅっと抱きついてくる。
「サエルザ、いつもこうしてハウルザと寝てた……。リーゾットも、ハウルザと同じ……暖かくて……気持ちいい……」
「ちゅっ」
「!?」
驚く間もなく、サエルザの柔らかい唇が僕の唇に触れる。
「んんっ!? ちゅっ、ちゅる、ん……はむっ……」
「ちゅ、んっ、ちゅぱ、ちゅる……リーゾット、はげしい……」
サエルザの舌がそっと絡みついてくる。
不意打ちのキスに思考が追いつかず、無意識に僕も キスを深めるように彼女の背中へと手を回してしまう。
「……んっ、ちゅぱ……ん……♡」
甘く蕩けるような口づけ。
しかし——
「ご、ごめん……! いやいやいや、せめて服を着てくれーーー!!」
理性が吹っ飛びそうになるのを必死で抑えながら、僕は全力でベッドから飛び起きた。89
サエルザと朝からドタバタしながら、リビングへ向かうと——
「おはようございます、リーゾットさん、サエルザさん」
「おはよー、リーくん!ご飯できてるよ♪」
サーシャとアカネさんが、エプロン姿で朝ご飯を作っていた。
……なんだか新婚みたいで、ちょっと照れる。
みんなでテーブルを囲んで朝食を食べようとしたが——
「そういや、スゥは?」
「起こしたんですが、まだ起きていなくて……。あっ、来ましたよ」
そこには、髪がボサボサでウトウトしながら歩いてくるスゥの姿があった。
「……おはよー……」
「おはよう、スゥ」
僕のことに気づかないまま隣に座り、ぼーっとしている。
やがて、少しずつ意識がはっきりしてきて——
「……リーゾット!? なぜここにいるんだぁ!?」
「いやいや、ここ僕の家でしょ?みんな引っ越したじゃないか」
「……はっ!!」
真っ赤になったスゥが、勢いよく部屋に引っ込んでいった。
しばらくして戻ってくると、いつもの凛々しいスゥになっていた。
「な、何も見ていないな! いいな!!」
「……うん」
その圧に負けて、僕は素直に頷いた。
朝から……疲れるな……。
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朝食を食べながら、アカネさんが口を開いた。
「今日はみんな何するの?」
「まだ決めてないですね。ギルドでちょうどいいクエストを探す予定です」
昨日のコカルテラリスとの戦いもあったし、今日は軽めのクエストにしようと話していると——
「そうなんだね、じゃあ薬草摘みをお願いできない? ミナさんが昨日依頼してきたの」
「ミナさんが?」
「詳しくは本人に聞いてほしいんだけど、ちょっと遠くの場所にあるみたいなの」
「分かりました」
朝食を終えた僕たちは、ギルドでクエストを受注し、ミナさんの店へ向かった。
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「ミナさん、いますか?」
「あっ、リーくん、いらっしゃい♪」
店の奥から現れたのは、170cmの長身に、足元まで伸びる緑の髪を持つ女性——ミナさんだ。
彼女はこの街一番の薬師で、よく薬草摘みのクエストを依頼してくれるお得意様。
ドリアードの亜人であり、薬草に関する知識は王都でも一目置かれているらしい。
「今日はお仲間さんも一緒なのね♪ サーシャちゃんと……」
「はじめまして、スゥといいます」
「……サエルザ」
「スゥちゃんに、サエルザちゃんね。私はミナ、よろしくね♪」
自己紹介を終え、今回の依頼内容を聞いた。
「今回の薬草って東の森にあるんですね。でも、結構遠くないですか?」
「そうなのよ〜。でも、あそこの薬草はポーションの原液にぴったりでね。ちょっと遠いのと……あと、モンスターがね……」
ミナさんは苦笑いした。
この人、アカネさん以上に運動神経がなくて、子どもにすら腕相撲で負けるくらいか弱い。
おそらく、街を出たらワーウルフの子ども一匹すら倒せないだろうな……。
「そうそう、あの地域にはサルンがいるから気をつけてね」
「サルン?」
サルンとは、手足が長く、木の上で生活しているモンスターだ。
賢く、冒険者の荷物を盗むことがあると聞いたことがある。
「まぁ、サルンは賢いが強くないと聞いている。我々なら問題ないだろう」
スゥがそう言うなら大丈夫だろう。
「みんな、気をつけてね♪」
ミナさんが僕の手を握り、微笑んだ。
彼女はいつもクエストを依頼するときと、完了報告のときにこうして手を握ってくる。
優しい瞳と、ぷるんとした唇に……ドキドキしてしまった。
誰もいなかったら、勢いでキスしてしまいそうになる。
「じゃ、じゃあ行ってきますね!」
「はぁい、行ってらっしゃい♪」
理性を保ちながら、僕たちは薬草摘みに出発した。
まさか、この後 サルンがあんなエロ猿だったとは——
この時の僕たちは、まだ知る由もなかった……。