第二話 憧れと現実
「リーゾットさん、腕は大丈夫ですか?」
「サーシャ、ありがとう。毒も引いてきたし、もう普通に動くよ」
「よかったぁ……」
心配そうにしていたサーシャの顔に、ほっとした笑顔が戻る。
「いつも助けてくれて、本当にありがとう」
「い、いえ……リーゾットさんのためになるのでしたら……」
少し顔を赤らめ、照れるサーシャ。その仕草が可愛らしくて、つい見とれてしまう。
彼女の長いピンク色の髪は、サイドの髪を三つ編みにして後ろで結ばれている。
大きな瞳は、優しいピンク色。
そして、15歳とは思えないほどのふくよかな双璧__。
サーシャはギルドマスターの一人娘で、つい先日冒険者になったばかりだ。
僕は彼女と並んで石の上に腰を下ろし、遠くで戦利品を喜ぶダンチたちをぼんやりと眺める。
僕の両親は冒険者だった。
でも、僕が10歳のとき、二人とも死んでしまった。
ギルドマスターの話では、「仲間をかばって死んだらしい」とのことだった。
街のみんなは僕に優しくしてくれたし、孤独を感じたことはなかった。
むしろ僕も両親のように、人の役に立つ冒険者になりたい
そう強く思っていた。
そして、15歳になった僕は冒険者登録を済ませ、ついにスキルが発現した。
けれど、それは”外れスキル”だった。
スキルには様々な種類がある。
たとえば、サーシャのスキル《癒し》は、傷を回復し、気持ちを落ち着けることができる。
パーティリーダーのダンチは、《瞬速》という強力なスキルを持っていて、身体の速度を大幅に向上させられる。
強いスキルを持つ者は、冒険者として活躍できる。
そして、僕のスキルは__
《譲渡》
他人の傷や状態異常を"貰う"だけのスキル。
つまり、自分が苦しむだけのハズレスキルだ。
このスキルのせいで、どのパーティにも入れてもらえず、ずっとソロで活動していた。
ダンジョン探索には参加できず、やることといえば薬草採取やドブ掃除など他の冒険者がやりたがらないクエストばかりだった。
そんな僕が、ようやくパーティ《瞬速に集いし者》に入れたのは、
サーシャの《癒やし》を補う"保険"として仕方なく入れられた。
サーシャは駆け出しで、彼女の《癒やし》では状態異常を治せない。
だから、僕の《譲渡》が必要だった__毒や怪我を肩代わりさせるために。
パーティに入ったとはいえ、荷物持ち、毒の処理、怪我の肩代わり……
役割はただの雑用係に過ぎなかった。
「……冒険者、向いてないのかな……」
つい、独り言のように呟く。
やめたほうがいいのかもしれない、、、
そう思った瞬間、ダンジョンの奥からダイの大声が響いた。
「おい、リーダー! こっちに道があるぞ!!」
ダンジョンの暗闇の奥に、まだ誰も足を踏み入れていない新たな道が続いていた。