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第二十一話 姉妹けんか



「わー、すごーい!」


山一面に広がるミカーン農園。

僕たちはその広さに、思わず感嘆の声をあげた。


「さて、被害があった場所はこのあたり……ん?」


依頼書に記されていた場所に向かうと、何やら声が聞こえてくる。


「あんたはいつもいつも、そうやって勝手に行動して!」


「ねえさん……うるさい」


「うるさいとは何よ! うるさいとはー!」


……言い争い?


近づいてみると、上空で飛びながら喧嘩をしている二人の少女がいた。


「あれは……ハーピィ?」


ハーピィは人に近い姿をしているが、腕に翼があり、足も鳥のようになっている。しかし、彼女たちは人間の姿で、背中に翼が生えていた。


「……人間とハーピィのハーフかもしれないな」


確かに、ハーフならば人間の姿にハーピィの特徴が混ざっていてもおかしくはない。


二人は言い争いながら、手から炎と氷を放っていた。


「ちょっ、このままだと農場が……!」


「……被害って、この子たちのことね」


確かに、こんなふうに暴れられたら、農場の人たちも依頼を出すだろう。

早く止めなければ——。


「おーーーい、そこの二人! ちょっといいですか?」


僕が大声で叫ぶと——


「ん? 人間……なんか用?」


金髪のハーピィが、こちらに降りてきた。


続けて、銀髪のハーピィも降りてくる。


「あなたはだあれ?」


「僕はリーゾット」


「サーシャです」


「スゥよ。あなたたちは?」


スゥが二人に問いかけると——


「私はハウルザよ」


「……サエルザ」


金髪の子がハウルザで、銀髪の子がサエルザらしい。


「どうして喧嘩をしていたのですか?」


サーシャが尋ねると、ハウルザが不満げに答えた。


「この子が私の言うことを全く聞かないからよ!」


「サエルザはいつもうるさい」


「なんですってーーー!?」


「んぅ……」


「ストップ、ストップ!」


また喧嘩されては困る。

慌てて止めようとしていると——


「おおー、あんたらが冒険者かいな」


麦わら帽をかぶった、小太りのおじさんがこちらにやってきた。

どうやら、ここの農園の人らしい。


「いやー、たくさん来てくれて助かったよ。

 じゃあ、どんどんミカーンを取ってくれよな」


そう言って、籠をたくさん持ってきてくれた。


「あっ、そうだ!」


「「「「ん?」」」」


僕はあることを思いつき、早速実行することにした。



---


「なんで私がこんなことを……!」


「まぁまぁ、一緒に頑張りましょ」


「ん、取れた」


「筋が良いじゃない」


「みんなで頑張ろー!」


今、5人でミカーンを収穫している。


喧嘩ばかりで周りが見えなくなっているときは、別のことをしてリフレッシュするのが一番だ。


さすがに収穫中に喧嘩されては困るので——


ハウルザ・サーシャ組

サエルザ・スゥ組


この二組に分かれて作業をしてもらっている。


僕はその中間で、二組の様子を見ながら収穫をしていた。



ーーーーーーーーー

「あのー、聞いてもいいですか?」

「なに?」

サーシャはハウルザに質問した。

「どうしてお二人は喧嘩をしていたんですか?」

「っ……ん……それは……」

「言いたくなかったらいいんですよ。すみません、聞きづらいことを聞いてしまって」

「……サエルザが村を出たいって言ったの」

「えっ?」

「私とサエルザは、この森のさらに奥にあるハーピィの村で育ったの。森の奥だから、街のことはほとんど噂話程度にしか知らない。でもある日、この子が『街に行ってみたい』って言い出したの」

「……でも、街には危ないことも多いし、私たちハーピィ、それもハーフは珍しいから攫われる可能性だってある。サエルザは世間知らずだから、心配で止めたの。そしたら、『うるさい』って言われて……思わず言い返して喧嘩になったのよ」

「そうだったんですね……お母さんは?」

「お母様は、『見聞を広めるのはいいこと』って、OKしたんだけどね……」

「……ハウルザさんは、サエルザさんのことが大好きなんですね」

「な、なな……なんでそうなるのよ!?」

「だって、好きだからこそ、心配で仕方ないんですよね?」

「ううう……」

「でも……」

「……でも?」

「時には信じてもいいんじゃないですか? このミカーンも、育ちすぎると中も外も固くなってしまうそうです。村に閉じ込めすぎるとかえってサエルザさんの成長を阻害するんじゃないかなって……すみません、勝手なことを言って」

「……そっか……ありがとね」

「……はいっ! じゃあ、続きしましょうか」


「ねえ、スゥは兄弟いる?」

「いるぞ。一人兄がな」

「お兄ちゃんのこと、嫌い?」

「……そうだな、昔は好きだったがな」

「……今は?」

「どうだろうな。そういうサエルザは、ハウルザが好きか?」

「好き」

「即答だな。その割には喧嘩してたが」

「ハウルザは頭でっかちで、村から出たい私を戻そうとする。そこは嫌い」

「サエルザは、村を出て何をしたいんだ?」

「……私は街が見たい。お話だけじゃなく、実際に街の風景や人並み、建物を自分で感じてみたい」

「そっか……そうだな。自分で見ないと楽しくないもんな」

「うん。スゥ、物わかりいい」

「あ、ありがとう……だが、心配されるのも優しさだ」

「優しさ?」

「ああ、それだけお前のことを大切に思ってるってことだよ」

「大切……?」

「そうだ。だから、そこは感謝するんだぞ」

「……うん」



ーーーーーーーーー

夕方になった。

ミカーンの収穫はほとんど終わり、十分な成果だった。


そして——


「ハウルザ……」


「なに? サエルザ」


「……心配してくれて、ありがとう」


「あ、うん……まぁ……たった一人の妹だからね……」


サエルザの感謝に、ハウルザは少し顔を赤くしてそっぽを向いた。


「サエルザも……がんばってね」


「えっ?」


「いつでも帰ってきなさいよ。あと、変な人についていかない。歯磨きは毎日する。ご飯もしっかり食べる。それから、それから……!」


「ハウルザ、心配しすぎ」


「あたりまえでしょー!」


姉妹のやりとりを見て、思わず笑みがこぼれる。

こうしてみると、やっぱり仲のいい姉妹なんだな……。


「リーゾットさん、よかったですね」


「ああ……」


「ほんと、どうなるかと思ったわ」


みんなで和気あいあいとしていると——


「おーい、おまえさん方ーー、おおー! これは中々たくさんとれたのー!」


おじさんが戻ってきた。


「そうだ、ハウルザ、サエルザ。今回のことで迷惑かけたんだし、ちゃんと謝るんだよ」


「そうね、ちゃんと謝りなさい」


僕たちは二人に謝罪を促したが、おじさんは首をかしげた。


「ん? なんのことじゃ? この子たちは、お前さんの仲間じゃろ?」


「えっ……? でも、何日も前から空を飛ぶモンスターに荒らされてたって……」


すると——


「何言ってるの?」


「私たち、ここには今日来た」


「……え?」


そういうことか。


状況を理解しかけたそのとき——


グウェェェェェヒィィィィィ!!


上空から、巨大な咆哮が響き渡った。



---


ーーーギルドーーー


ドンッ!!


「大変だーーー!!」


クエストを依頼した男が、息を切らしながらギルドへ駆け込んできた。


「あ、アカネさん! 今日出たミカーンのクエストを、今すぐ取り消すんだ!!」


「どうしたんですか? そんなに慌てて……。それに、そのクエストはすでに——」


「そ、そんな……! パーティーランクは!?」


「Dランクのパーティーですが……」


「…………っ!」


男の顔が、どんどん青ざめていく。


そして——


「モンスターが分かったんだ……!」


「えっ? モンスターって、数が少ないって……」


「コカルテラリス だ……」


「えっ……?」


その名前が出た瞬間、ギルド内が騒然となった。


「こ、コカルテラリス……!」


「ここらへんに、あいつが出るのか……」


「まさか、あの……!」


アカネは震える手で持っていた書類を落とした。


「そんな……だって、コカルテラリスは……」


Aランクモンスターなのだ……!



---


上空で舞う巨大な影——


「こ、こいつは……!」


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