幕間 頑張り屋さんなあの子(アカネ視点)
一年前から、気になっている男の子がいる。
その子は、ドブ掃除や薬草摘みなどの地味なクエストでも、決して手を抜かず、一生懸命にこなしていた。
初めは誰もが通る道だけど、大半の冒険者は「こんなの早く終わらせて、もっと派手なクエストがしたい」と雑に片付けてしまう。でも、彼は違った。
どんなクエストでも、目をキラキラ輝かせながら、まるでそれが最高の冒険かのように楽しそうに取り組んでいた。
そんな 頑張り屋さんな彼が、私は大好きだった。
——えっ? LIKE か LOVE かって?
それは、ヒ・ミ・ツ♡
でも、半年ほど経った頃から、そのキラキラした目が少しずつ曇り始めていった。
無理もない。
彼のスキルは "外れ" だと評価されていたから。
どのパーティーにも入れてもらえず、ようやく参加できても、毒の肩代わりなど辛い仕事ばかり。
それでも、以前と変わらずクエストに真面目に取り組んでいたけれど、その表情はどこか沈んでいて—— まるで楽しさを忘れてしまったかのようだった。
「真面目なやつだから面倒を見てやりたいが、あのスキルではな……」
そんなふうに言ってくれる冒険者もいたけれど、このままでは彼は冒険者を辞めてしまうかもしれない。
そう思うと、気の毒で仕方なかった。
——ところが、一週間前、事態が急変した。
サーシャさんが泣きながらギルドに駆け込んできて、彼がボロボロの状態で救出されたと聞いたとき、私は頭が真っ白になった。
幸い、命に別状はなかったけれど、何があったのか分からなくて、心臓が締めつけられるようだった。
そして翌日、アビゲイルさんと一緒に彼から話を聞いて—— 驚愕した。
「キスでスキルをコピーする?」
そんな馬鹿な話があるのかって思ったけれど…… でも、それが彼の「本当のスキル」だった。
その瞬間、胸がドキドキしてしまった。
彼のスキルに驚いたから? それとも—— キスの話だから?
いやいや、私は大人のお姉さんだし、そんなことで動揺するわけ…… って、ファーストキス!?
——私、彼にファーストキスを奪われちゃった!?
……いや、まあ、私からしたんだけど。
それに彼、すごく可愛かったんだよね。
真っ赤な顔になっちゃって、緊張してるのが丸わかりで…… 本当に愛おしかった。
だけど、その後の魔王の話を聞いたら、さすがに別の意味でドキドキした。
「キスの呪い」 なんて、そんなの聞いてないよ……!
それからの彼は、まるで吹っ切れたように 再び生き生きとクエストに取り組み始めた。
私はそんな彼の姿を見ていると、どうしようもなく胸が高鳴る。
「頑張り屋さんな彼が、大好きだな。」
今日も私は、ギルドのカウンターで彼の帰りを楽しみに待つのだった。