幕間 悪くないわね(スゥ視点)
「スゥさん、手伝ってくれてありがとうございます。」
「いいわよ、サーシャ。」
私は今、子どもたちにお菓子を配っていた。定期的に行われる教会主催のミサの手伝いだ。
とはいえ、これはれっきとしたクエストで、地域貢献を大切にする領主が自腹で発注している。
だが、報酬は少なく、物好きか低ランク冒険者しかやらないことで有名だった。
ちなみに、サーシャは村の人々にヒールをかけ、リーゾットは教会のシスターと共に食事を配っている。
「おねえちゃん、ありがと!」
お菓子を受け取った子どもたちは大はしゃぎしていた。
ふと空を見上げると、雲ひとつない青空が広がっていた。
——こんなのどかな時間は、いつぶりだろう。
幼い頃から騎士団入りを目指し、他の子が遊ぶ時間も勉強や鍛錬に費やした。
昨年、念願の騎士団に入団してからも、休暇の日ですら鍛錬を怠らなかった。
理想の騎士団——いつか騎士団長になるんだと、夢見て頑張った。
頑張ったのに——。
騎士団——いや、王国そのものが腐敗していた。
亜人への差別、人身売買、裏オークション……それらが横行し、本来取り締まるはずの騎士団は貴族から賄賂を受け取り、見て見ぬふりをしていた。
中には、不正を指摘しようとした者が罪を捏造され、捕らえられることすらあった。
もちろん、全員が悪いわけではない。総団長をはじめ、多くの騎士は不正を正そうと奮闘していた。
だが、それを良しとしない国王は彼らを地方遠征にばかり向かわせ、王都から遠ざけてしまっていた。
王都の騎士団は二分されていた。声を上げることすらできずに耐える者たち。
そして、自由奔放に悪事へ手を染める者たち。
私の父は前者だった。私がいくら訴えても、「組織とはそういうものだ」と取り合ってくれなかった。
彼の目は、何もかも諦めたような色をしていた。
——あの時、ショックで家を飛び出した。
私は、私自身の力で名を上げれば、父も考えを改めてくれるのではないか、そう思っていた。
しかし、父に「お前の力で何ができる」と言われ、頭に血がのぼった。
「絶対に名を馳せてやる!」——そう誓い、無茶なクエストにも挑み続けた。
今になって気づく。「父の目を覚まさせたい」という気持ちは、いつの間にか「父に認められたい」という願望へとすり替わっていたのだ。
そのことを指摘してくれる友達もいなかった。昔から、何事も一人でこなしてきた。騎士団に入っても、親のコネだと陰口を叩かれ、孤独だった。
——でも。
「スゥさん? スゥさん?」
「えっ?」
「大丈夫ですか? ぼーっとして、何か考え事ですか?」
「ふふ、大丈夫よ。少し昔のことを思い出してただけ。」
「おーい、サーシャ、スゥ! そろそろお昼にしようか。ここのシスターのご飯は絶品なんだよ!」
「はーい! ほら、スゥも行きましょう!」
「ちょっと! 引っ張らなくても行くわよー!」
サーシャに手を引かれながら、思わず小さく笑ってしまった。
——仲間も、悪くないわね。
そう思いながら、私はサーシャと一緒にリーゾットの元へと向かった。