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第十六話 ソロの理由



先ほど薬草を摘んでいた森の木陰で、僕はスゥを優しく降ろした。


「すぐに手当しないと。スキル《癒し》」 「私もお手伝いします。スキル《癒し》」


僕は傷だらけのスゥの身体を、サーシャは右足を重点的にヒールで治療した。


「あんたたち、二人とも同じスキルなの?珍しいわね」


スゥが不思議そうに僕たちを見つめる。


「ま、まあね」


説明しても理解してもらえなさそうだったので、適当にごまかした。


ヒールを終えると、スゥは立ち上がって屈伸しながら痛みの確認をしていた。


「足も問題なさそうですね。よかったです」


サーシャが安心したように微笑むと、スゥは小さな声で呟いた。


「……ありがと」


彼女にしては珍しく、素直な言葉だった。


「もしかして、今朝のクエストってワーウルフのこと?」


「そうだけど……」


「だからパーティー必須のクエストだったんだね」


そりゃあ、アカネさんがソロでの討伐を認めなかったはずだ。


「うるさいわね!途中までは上手くいってたのよ……足さえ噛まれなければ、あんな奴ら……ぐすっ」


スゥが悔しそうに唇を噛みしめる。その目は赤く充血し、涙をこらえているのがわかった。


すると、サーシャがそっと《癒し》を発動した。


「スゥさん、何か思い悩んでいることがありませんか?私たちでよければ、お話聞きますよ。私のスキルは傷を治す他に、心を落ち着かせる力もあるんです。だから安心してください」


サーシャは優しく微笑みながら、スゥの肩を抱き寄せる。


「……!」


スゥの身体が小さく震え、こぼれそうだった涙が一気にあふれ出した。


彼女は声を上げず、静かに、それでも止めどなく涙を流し続けた。


——どれくらい時間が経っただろうか。


ようやく落ち着いたスゥが、ぽつりぽつりと話し始めた。


「私ね、元王国騎士団だったの」


「えっ、あの入るのが難しい騎士団に!?」


王国騎士団といえば、王国を守る精鋭たち。基本的にエリートしか入れず、Aランク以上の冒険者でも刃が立たないと言われるほどの実力者たちの集まりだ。


「私のお父様が騎士団長の一人で、私も小さい頃から騎士団に入るのが夢だったの。それで、15歳になった去年、やっと王国騎士団に入隊できたのだけど……」


そこまで言うと、スゥはまた俯いてしまった。


しばらくして、彼女は震える声で続けた。


「今の王国は腐敗しているの……密輸、麻薬、人身売買、亜人への差別……数えたらキリがないわ。それも、王国が黙認どころか主導でやってるの」


辺境の土地で暮らしている僕たちには、王国の実態なんてほとんど知らされていなかった。まさか、そんなことが行われていたなんて——。


僕とサーシャが驚いていると、スゥは苦しそうに言葉を紡ぎ続ける。


「私は何度もお父様に、不正を正そうって訴えたわ。でも、お父様は “組織とはそういうものだ” って……それが正しいと言わんばかりに突き放してきたの。頭にきて、家出したわ」


「スゥさん……」


「家を出るときも、お父様から “お前に力で何ができるのだ” って言われたから言い返してやったの。私は私だけの力で強く偉くなるって。でも、結局この有様……」


だからあんなにも焦っていたのか。


自分の力だけで成り上がろうと必死になり、その結果、周りが見えなくなっていた。彼女は本当は国を愛し、守りたいと願っている——ただの優しい女の子なのに。


「スゥはすごく頑張ってると思うよ」


「えっ……」


スゥが驚いて僕の方を見る。


「だって、自分の力で国を変えたいって普通思わないよ。それでもスゥは諦めずに、ここまで努力してきたんだ。それは誇っていいことだし、僕はそんなスゥを尊敬する」


本当にそう思ったから、そのまま言葉にした。


「な、なによ……べ、別に嬉しくなんか……」


スゥは真っ赤になりながら、そっぽを向いた。


すると、サーシャがにっこり笑って言った。


「スゥさん、私たちとパーティーを組みませんか?」


「えっ?」


「スゥさんの頑張りに、少しでもお手伝いできたらと思っています。パーティーを組んで、もう一度ワーウルフと戦いませんか?」


サーシャがスゥの目を真っ直ぐに見つめる。


「スゥ、僕たちとパーティーを組んでみないか? ソロとは違う景色が見えると思うよ」


「景色……」


スゥが空を見上げる。


小さく息を吐いて、決意するように拳を握った。


「……わかった。パーティー、組んであげる」


「スゥさん!」


「よーし、パーティー結成だー!」


こうして、僕たちは新たな仲間を迎えることになった——。


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