第一話 外れスキル
「リーゾット、ちんたらしてないでさっさと来い!」
薄暗いダンジョンに響く怒鳴り声。パーティ《瞬速に集いし者》のリーダー、ダンチが苛立った様子で叫んでいた。
「ダンチさん、すみません!」
僕__リーゾットは、大きなリュックを背負って走っていた。その中には、パーティメンバー全員の道具が詰め込まれている。息を切らしながら駆け寄ると、ダンチが腕を突き出した。傷口から毒がまわったのか、腕が青く変色している。
「腕を噛まれて毒が出た。さっさとスキルを使え」
「わかりました……スキル発動、《譲受》」
そう唱えた瞬間、ダンチの腕は元の肌色に戻っていった。だが、代わりに僕の腕が青く染まり、ズキズキと痛みが走る。
「ぐっ……ぅ……」
歯を食いしばる僕をよそに、さらに怒号が飛んできた。
「おい、足を切られた! さっさと変われ!」
「走って疲れたから、移しなさいよ!」
ダンチの後ろから、パーティメンバーのダイとニシリナが叫ぶ。二人とも僕を気遣う素振りすら見せない。
「はぁ……はぁ……わかりました……《譲受》」
唱えると、ダイの足の傷は消え、ニシリナの疲れも抜けていく。
「チッ、遅えんだよ」
「ほんと、使えないわね」
感謝されるどころか、舌打ちと罵倒を浴びせられる。それでも僕は、息を切らしながら自分に言い聞かせた。
(……大丈夫、いつものことだ)
そう思うが、身体は正直だった。痛む腕、ズキズキする足の傷、そしてどっと押し寄せる疲労。
「リーゾットさん、大丈夫ですか!? 《癒し》!」
そこへ、唯一の救いが現れた。サーシャだ。彼女はパーティの中で、唯一僕を心配してくれる存在だった。
サーシャのスキル、《癒やし》が発動すると、傷がふさがり、心が少し安らぐ。
「リーゾットさん、ごめんなさい……私がもっと強ければ、毒も治せるのに……」
「大丈夫だよ。毒は時間が経てば治るから」
彼女の悲しげな表情に、僕は優しく微笑んだ。この世界の毒や麻痺は、基本的に時間が経てば消える。だから、あと少し我慢すればいい。
そう思っていると、ダンチたちがダンジョンのモンスターを倒し終えていた。
「いやー、今日は大物が釣れたな! こいつは高く売れるぞ!」
ダンチが上機嫌に叫ぶ。
「がはは、またうまい酒が飲めるぜ!」
「ねぇダンチ〜、私、欲しい宝石があるんだけど〜」
ダイとニシリナも、戦利品に目を輝かせている。
__いつもの光景。
強いスキルを持った冒険者が、ダンジョンで戦い、財宝を手に入れる。冒険者としては、それが当たり前のことだ。
もし、僕のスキルが"外れ"じゃなかったら……。
あんな風に、みんなと一緒に笑えたのだろうか。
腕の毒の痛みが引いてきたのを感じながら、僕は自分のスキルを呪った。