第十四話 焦る少女
「どうしてこのクエスト、受けられないのよーーーーーー!!」
ギルドの受付から、建物全体に響き渡るような怒声が飛んできた。
何事かと視線を向けると、アカネさんに詰め寄る少女の姿があった。
透き通るような青髪のツインテールが揺れ、編み込みの入った髪飾りが特徴的だ。
深いエメラルドグリーンの瞳は、まるで澄んだ風の流れを映し出しているよう。
彼女は王国騎士のような装飾の施された軽鎧をまとい、下半身は動きやすい戦闘用パンツスタイル。
腰には、美しく精巧なレイピアが携えられていた。
「彼女は?」
僕が隣にいるサーシャに尋ねると、彼女は小声で答えた。
「あの方はスゥさんですよ。私と同じ時期に冒険者になったのですが、もうCランクになってるんです。」
「Cランク…すごいな。」
Dランクの僕らとは違い、明らかに実力者の雰囲気がある。
だが、今は受付のカウンターでアカネさんと火花を散らしていた。
「スゥさん、何度も言っていますが、この討伐クエストはパーティ限定です。ソロのあなたが受けることはできません。」
「私ならこんな狼、一人で倒せるわよ! 融通が利かないわね!」
どちらも一歩も引かず、睨み合いながら火花を散らしている。
「……あっ、そうだわ。」
アカネさんが突然こちらを振り向き、何かを思いついたように微笑んだ。
「でしたら、彼らと組むのはいかがですか? 最近までパーティを組んでいて、今はソロですし、ちょうどいいかと。」
「「えええっ!?」」
僕とサーシャは思わず声をそろえてしまった。
しかし、スゥは僕らをじろりと睨み、ギルドタグに目を落とす。
冒険者のランクはタグの色で分けられている。
僕とサーシャはDランク(銀色)、スゥは**Cランク(青色)**だ。
「……何よ、Dランクじゃない。足手まといになるだけよ。」
バッサリ切り捨てられた。
まあ、気持ちは分からなくもない。
「まあまあ、そう言わずに。彼らは私のおすすめの冒険者ですよ?」
アカネさんは微笑みながら取り成すが、スゥはそっぽを向いた。
「私はパーティを組まずに、自分の力でのし上がるって決めているの!」
その目には、強い決意が宿っていた。
「……まあ、無理にパーティを組むのは大変ですからね。」
僕がそう言うと、アカネさんも仕方なさそうに肩をすくめる。
「そう……分かりました。スゥさん、今回だけ特別にクエストを受理します。」
「ふん、分かればいいのよ。」
そう言いながらスゥは足早にギルドを出ていった。
「……何だったんだ、今の。」
「あの子も悪い子じゃないんだけどね。」
アカネさんは小さくため息をついた。
「ただ、焦ってる感じなのよね。理由は分からないけど、たまにいるのよね、ああいう冒険者……。」
「焦る冒険者ほど、早く死んじゃうのよね。」
彼女の言葉に、僕とサーシャは思わず息を飲んだ。
確かに、周りが見えなくなると足元をすくわれる——これは多くの上級冒険者が口をそろえて言う言葉だ。
少し重たい雰囲気になったところで、アカネさんが手を叩いた。
「そういえば、サーシャちゃん、復帰したんだね♪」
「はいっ! 今日からまたよろしくお願いします!」
アカネさんが何事もなかったかのように明るく振る舞い、サーシャも元気よく答えた。
さすがアカネさん、空気を変えるのがうまい。
「二人はどのクエストを受けるの?」
「サーシャの復帰戦だから、今日は薬草取りを。」
「はーい、二人とも頑張ってね~♪」
手を振るアカネさんに見送られながら、僕たちはギルドを出た。
「今日からまた頑張ろうね、サーシャ。」
「はいっ! リーゾットさん!」
こうして、僕たちは再び冒険者としての一歩を踏み出したのだった——。