表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
18/51

幕間1「サーシャの決意」(サーシャ視点)



「ふぅ……」


何度目のため息だろうか。

あの日以来、私は部屋に閉じこもり、外に出ることすらできずにいた。


冒険者を辞めるべきか——。

ずっと、そのことを考えていた。


冒険をするのが怖い。

もしまた魔王のような存在が現れたら?

あの時、リーゾットさんは奇跡的に助かったけど、次は——。

次こそ、本当に死んでしまうかもしれない。


それどころか、私のせいで彼が危険に晒されることだってある。

そんなことを考え始めると、ますます外に出る勇気がなくなってしまった。



---


コンコン。


「サーシャ、少しいいか?」


ノックの音に顔を上げると、父の声がした。


部屋を出てリビングへ向かうと、食卓にはシチューが並べられていた。

父の得意料理で、私の大好物でもある。


私の母は冒険者で、今も長期のクエストに出ている。

昔から家を空けることが多かったから、父が母代わりとして私を育ててくれた。

こんな体格をしているけど、料理も掃除も完璧で、家事全般はとても得意なのだ。


父の向かいに座ると、いつものように一緒に食事をとった。

普段ならギルドの話や他愛もない会話を交わすのに、今日は妙に静かだった。


しばらくして、父がぽつりと口を開いた。


「……冒険者、やめてもいいんだぞ」


「えっ……?」


突然の言葉に、思わず顔を上げる。


「無理にお前まで冒険者になる必要はない。俺も、お母さんも冒険者だからって、お前に強制するつもりはないんだ。今回のことでつらい思いをしたのなら、無理に続ける必要はない」


父は静かに、でも優しく言った。


——わかっていた。

父には、私の迷いも恐怖も、すべてお見通しだったのだ。


「……わかった。冒険者はやめようか——」


そう言おうとした瞬間、言葉が詰まった。


脳裏に浮かんだのは、リーゾットさんの姿だった。

どんな時でも前を向き、困っている人を助けようとする彼の背中——。


あの人のためになりたい。あの人と、一緒にいたい——。


その想いが胸を締めつける。

気づいた時には、頬を伝う涙が一粒、シチューの皿に落ちていた。


——私は、リーゾットさんのようになりたい。

困っている人を助けられる、強い人になりたい。


「……わ、わたし、まだ諦めたくない……!」

「サーシャ……?」

「私も、困っている人を助けたい!」


震える声だったけど、心はもう決まっていた。


父はしばらく黙っていたけど、やがて小さく笑って、私の頭を優しく撫でた。


「……そっか。お前はお母さんに似て、強いな」

「え?」

「よし、わかった。頑張れよ! まずは、いっぱい食べて元気をつけろ!」

「……うん!」


私は目の前のシチューを、いつも以上に勢いよく食べた。



---


その夜


夢を見た。


まだ幼かった頃——、

初めて「冒険者になりたい」と母に伝えた時のことだった。


「大切な人を守るには、強さだけじゃなく、覚悟が必要なのよ」


母はそう言って、優しく私の頭を撫でた。


——覚悟。

それが、私には足りなかったのかもしれない。


でも、もう迷わない。

私は、強くなる。



---


そして、翌朝——


私は、ギルドへ向かう準備をした。

もう、あの日のような支給品の装備ではない。


——鎧。


これは、冒険者になった時に両親から贈られたもの。

「自信がついたら着なさい」と言われていたけど、私はずっとそのままにしていた。


でも、今日からは違う。

私は、前へ進む。強くなると決めたのだから——。


ギルドへ向かう途中、何度も胸が高鳴るのを感じた。

緊張していたけど、それ以上に、会いたい人がいる。


そして、ギルドの中で——その姿を見つけた。


私の憧れの人。

私の愛しの人。


「……り、リーゾットさん!」


勇気を振り絞って、彼の名前を呼んだ——。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ