第十話 お姉さんのお誘い② ☆
「ねぇ…… 私ともキス、してみない？」
二人しかいない応接室で、僕にまたがりながら耳元でアカネさんが囁く。
「き、、、しゅ！？」
いきなりのことで、訳が分からなくなった。
アカネさんは続けて耳元で話し始めた。
「キスしたらスキルをコピーできるなら、私で試してみない？」
「えっ、アカネさんスキル持っているのですか？」
思わず正気に戻ってアカネさんの方を向いた。
スキルは冒険者登録をしたときに発現するものだ。例外もあるらしいが、基本的に一般人にスキルは発現しない。
アカネさんは微笑みながら、
「私の髪の毛って虹色で珍しいんだよね。それが原因で昔、人攫いに遭ってね……」
「えっ！」
「そのとき助けてくれたのがアビゲイルさん。助けてもらった後に、少しでも恩返しがしたくて冒険者登録したんだよね。でも私って運動音痴で、冒険者としては全然ダメで……結局、受付嬢になったってわけ」
まさか、アカネさんにそんな過去があったなんて。
「それはそうと、どうする？ キス……する？」
アカネさんがおでこを僕のおでこに当ててきた。
唇と唇が、あと数センチで触れてしまう距離。
再び心臓が爆発するくらいドキドキした。
アカネさんは、こんな僕をいつも心配してくれる姉のような存在で……でも……。
キスがしたい……。
「よろしく……お願いします。」
「はい！ よく言えました♡」
アカネさんは微笑みながら、僕にキスをした。
「んちゅ……はむ……んふぅ」
「んぅ……ちゅる……ちゃ……」
初めから絡み合う情熱的なキスだった。
サーシャとは全然違う。
なめらかな唇と甘い香水の匂いに酔いそうになる。
ギシッ……
アカネさんがこちらにもたれるようにキスをしてくる。
思わず両手でアカネさんの丸みを帯びた部分を支えた。
「くちゅ……んふぁ……リーくんの……えっち♡」
「ん……こ、これは……んふぁ」
最後まで言う前に、口を塞がれた。
静かな応接室で、キスの音だけが響いている。
「ん……ぷぁ……リーくん……」
「ん……っはぁ、はぁ、アカネさん……」
サーシャと同じように唇を離すと、銀色の糸がゆっくりと伸びた。
――ビカァッ！！
「こ、これはあの時と同じ！」
あの時と同じように、身体の奥から熱が溢れ、眩しい光が視界を覆った。
「リーくん、スキル確認！」
「は、はい！」
急いでギルドカードを確認すると――
《譲受》《癒し》《記憶》
一つスキルが増えていた。
「きお……く？」
「それは私のスキルだよ。本当にスキルをコピーできるなんて……」
アカネさんは驚きながらも続けて、
「記憶はね、自分の記憶を覚えておくスキルだよ。今の私は1ヶ月くらいの出来事は全部覚えてるの！」
「1ヶ月ってすごいですね……」
「初めのうちは2日くらいだったんだけどね。試してみたら？」
「はい！ スキル《記憶》」
頭の中から記憶がどんどん蘇っていく。
アカネさんとのキス……
鬼の形相のアビさん……
サーシャとのキス……
そして……
「思い出した……あの時の出来事を……」
あの時、魔王と戦おうとした後の記憶が鮮明に――
――思い出した。
