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裂け目で踊る変な人たち  作者: CIKI
第2章:健忘症の男が語る「今」
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空の友達

颯真とタケシは、小さな町の路地を歩いていた。颯真はタケシを家まで送り届けようとしているが、当の本人は「自分の家の場所を覚えていない」とあっけらかんと告げたばかりだ。


「お前、家がどこか分からないのにどうやって帰るつもりなんだ?」


颯真は苛立ちを隠しきれずに尋ねた。


タケシは空を見上げてニヤリと笑った。「心配ないさ。カラスが教えてくれる。」


「カラス?」颯真は呆然とした。「何言ってんだよ。」


「ほら、あそこにいるだろ。」


タケシが指差した先、電柱の上に黒いカラスが一羽とまっている。そのカラスは首を傾げ、まるで二人の会話に耳を傾けているかのようだった。


タケシは電柱の下に立ち止まり、大きな声でカラスに話しかけ始めた。


「おーい、そっちか?家に帰りたいんだが、どっちへ行けばいい?」


颯真は唖然としながらその様子を見守る。


「おいおい、本気で言ってんのか?鳥が道を教えるなんてあり得ないだろ。」


タケシは振り返って真剣な表情を浮かべた。


「お前、カラスを信用しないのか?鳥たちは全部知ってるんだよ。この街の道も、人の流れも、家の場所も。全部だ。」


「いやいや、ただの鳥だろ。たまたまそこにいただけじゃないか。」


「たまたまなんかじゃないさ。見てろ。」


タケシが再びカラスに向き直り、軽く手を振ると、カラスは一声「カァ」と鳴いて翼を広げた。そして、少し先の電線に飛び移った。


「ほら、あっちだ。」


タケシは自信満々に言い放ち、カラスが飛び移った方向に歩き出した。


「おいおい、本気かよ……」颯真は仕方なく後を追った。


カラスは再び鳴き声を上げて飛び、また少し先の電柱へ移動する。タケシはそのたびに声を上げて「ありがとう!」と叫びながら進んでいく。


「なぁ、お前、本当にこれで家に帰れると思ってるのか?」颯真が追いつきざまに尋ねる。


「もちろんさ。カラスは嘘をつかないからな。」タケシは歩きながら肩越しに答える。


「人間なんかよりよっぽど正直だよ。」


「それにしても、どうしてカラスがそんなにお前に親切なんだよ?」


タケシは立ち止まり、青空を見上げた。


「俺がカラスにとっての友達だからさ。何度も助けてもらってるんだよ。俺が道に迷うたびに、こうやって教えてくれるんだ。」


「いや、それはたまたまだろ……」颯真が呆れた声を出すと、タケシは振り返り、真剣な目で言った。


「たまたまなんてこの世には存在しない。すべてには意味があるんだよ。」


何度かカラスを追い、曲がりくねった路地を進んだ後、ついにカラスは住宅街の一角で足を止めるように低い位置の塀にとまった。タケシはその姿を見て、満足げに頷いた。


「ここだな。ありがとうよ!」


タケシはカラスに手を振り、歩道の先に見える小さな家を指差した。


「おい、これが本当にお前の家なのか?」颯真が尋ねると、タケシは門の前でポケットを探りながら笑った。

「間違いないさ。カラスが案内してくれたんだ。」


家のドアを開けると、玄関にはタケシの履き古した靴と、彼が持ち帰った覚えのない郵便物が無造作に置かれていた。


「カラスがいなかったらどうするんだよ?」颯真が肩をすくめながら問うと、タケシは後ろを振り返らずに答えた。


「いないことなんてないさ。カラスも俺も、お互いを必要としてるんだ。だから、大丈夫。」


その背中を見送りながら、颯真は胸の中に言い知れない不思議な感情を覚えた。


「こいつ、本当に変な奴だな……」

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