バブルに踊る
「経済破綻が訪れることなんて、わかりきっていたわ。」
その一言に、颯真は思わず顔を上げた。
「わかりきってた?」
カリンは振り返ると、わずかに微笑んだ。
「そうよ。世界中のニュースや統計データを見ていれば、そんなことは明白だったわ。」
彼女が話すのは、世界各国の言語が入り混じった奇妙なイントネーション。それがまた、彼女の言葉に重みを与えていた。
「例えば、アメリカのSP500は長い間上昇を続けていたけど、それは『実体経済』が伴っているわけじゃなかった。ただの金融緩和と借金の膨張に過ぎない。」
カリンは手元に置かれた古びた地球儀を回しながら続けた。
「それに、日本でも同じよ。積み立てNISAだの、インデックス投資だの、みんなが騒ぎすぎていた。市場というのは静かに利益を上げるもの。それをSNSで宣伝しだした時点で、バブルはすでに崩壊の兆しを見せていたわ。」
颯真はその言葉に胸が刺されたような気がした。
彼女の話を聞きながら、颯真は自分自身の過去を思い返していた。
「俺も……SNSで見たんだよ。」
そう呟きながら、当時のことが頭をよぎる。
SNSのタイムラインには、SP500や積み立てNISAを推奨する投稿が溢れていた。投資初心者向けの本には「誰でも簡単に資産を増やせる」と書かれ、周囲の人間もこぞって投資を始めていた。
「みんながやってるから自分もやらなきゃ損だ。」
そう思い込んで、特に深く考えずに投資を始めた。そして、気がつけば全財産を失っていた。
「俺は……本当に浅はかだった。」
颯真は、こみ上げる自己嫌悪を噛み締めるように呟いた。
「何も分かっちゃいなかった。ただ、周りに流されて、みんなと同じようにやってれば安全だと思ってた。自分で考えることを怠ってたんだ。」
彼は拳を握りしめ、目を伏せた。
「結局、バブルに浮ついてただけだったんだ。」
カリンは黙って彼の言葉を聞いていたが、しばらくして口を開いた。
「でも、それが普通よ。」
颯真は驚いて顔を上げた。
「人間は群れを作る生き物。集団が同じ方向に動けば、それに従うのが本能的な反応だから。でも、本当に強い人間は、その中で一歩引いて全体を見ることができる。」
カリンは彼の目をまっすぐ見つめた。
「あなたは今、自分の失敗を認めている。それができるなら、次は違う選択ができるわ。」
カリンの言葉に、颯真は少しだけ心が軽くなるのを感じた。
「でも、次はどうすればいいんだ?また何かに騙されるんじゃないかって不安になる。」
カリンは優しく微笑むと、言った。
「次は、自分で考えなさい。他人の言葉に踊らされるのではなく、情報を集め、自分なりの答えを見つけるの。そうすれば、失敗しても、それはあなた自身の選択。意味のあるものになるわ。」