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裂け目で踊る変な人たち  作者: CIKI
第2章:健忘症の男が語る「今」
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空っぽな自分を知る

颯真は小さく拳を握りしめた。その感触は、まるで自分自身を確認するような仕草だった。


胸の奥に、言葉では表現しきれない重い感情が渦巻いている。虚しさ、不安、そしてほんの少しの希望。それらが入り混じり、心臓の鼓動とともに脈打っていた。


「俺も繋がりたい……。」


その言葉が心に浮かんだ瞬間、胸が締め付けられるような痛みを感じた。これまで、自分が「繋がっている」と思っていたものが、実はただの幻影だったかもしれない――その可能性に気づいたときの虚脱感が、体全体を覆った。


頭の中に過去の光景が次々と蘇る。


仕事で数字を追い求めていた日々。スマホ越しに交わされた家族との形式的なメッセージ。SNSで「いいね」を稼ぐためだけに投稿した写真。


そのすべてが、自分を「孤独」に導いていたのではないか。


「俺は何をしていたんだ?」


口に出さずとも、その問いが胸の奥で叫び声のように響く。


今まで、目の前にある課題をただ片付けるだけで、「繋がり」を実感したことは一度もなかった。その事実が、心の隙間にじわじわと広がる冷たい空気のように沁み込む。


「繋がり」という言葉が、なぜこんなにも重く響くのだろう?


颯真は目を閉じた。


闇の中で、風の音や遠くで鳴くカラスの声が微かに聞こえる。それはどこか懐かしく、心に触れる音だった。けれど同時に、孤独の深さを突きつけられるようでもあった。


「俺には何がある?誰がいる?」


その問いに答えられない自分がいる。それが、これほどまでに胸を締め付けるとは思わなかった。

だが、その孤独の中に、ほんのわずかに光が差しているのを感じた。


タケシの言葉が頭の中で繰り返される。


「目に見えるものも、見えないものも、俺たちは全部、それに乗っかってるだけ。いちいち考える必要なんかない。ただ委ねればいい。」


「委ねる……」


それはこれまでの自分にとって、全く理解できない感覚だった。


何かをコントロールし、計画し、達成することだけが価値だと信じて生きてきた自分には、考えもしなかった発想だ。けれど、その言葉にはどこか安心感があった。何かに繋がることは、全てを自分で抱え込む必要がないということなのかもしれない。


静寂の中、颯真は深く息を吸い込み、吐き出した。


冷たい風が頬を撫で、カラスの声がまた遠くで響く。


「これが、タケシの言う繋がりの一部なのか……」


頬に当たる風、遠くから聞こえる音、それらすべてが自分に触れている。その感覚に少しだけ意識を向けると、孤独感の中に確かに何かが存在するように思えた。

「俺も、繋がりたい。」

その思いが、これまで閉ざされていた颯真の心を少しずつ解放し始めていた。

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